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番外編
かけがえのない日々⑦※
「……私が地上界の言葉を色々と勉強したら、素敵な意味の言葉を百個教えてあげますね」
「ああ、それは良いな。こんどは色んな言葉で愛を伝えてくれるのだね」
「そう。貴方に想いを伝えるためだけに言語を学ぶのです。……私が知っている言語の中には、この感情をうまく表現できる語彙がないので……もどかしくて」
ナシェルは群青色の瞳に熱を込めて父王を捉えた。
王の深淵な瞳も、ナシェルを映している。
「余とそなたの間には、言葉など必要ないときもあるけれどね?」
「――無論そういう時もありますが、やはり気持ちはきちんと口に出して云った方がいいと思います。父上、私が避けていた頃も自信満々に『私たちは本当は分かり合ってる』と思い込んでいたでしょう? ……でも実際には言葉や話し合いが足らなすぎたんですよ。避ければ避けるほど、どんどん貴方が信じられなくなっていったし、後ろめたさも募るばかりだった……。
もう誤解やすれ違いを繰り返さないように、私たちは言葉を重ねて伝えあうことをもっと重視すべきなんです。これまでの反省を踏まえてね」
王は読書用眼鏡の奥の瞳を優しげに細めた。
「そなたのいう通りだね……。余ももうそなたに隠し事はしておらぬよ。
……それにしても、百個も異国の愛の言葉を教えてくれても、このとおりの不勉強ゆえ返す言葉を持たぬのが申し訳ないな」
「じゃ、少し覚えてみます?」
ナシェルは立ち上がり、向かいに座る王の膝上から生態学の書物を取り上げた。
王の膝の上に腰かけて肩に身を預けるようにして、自分の持っていた地上界の言語の本を拡げて見せる。
しなやかな指で発音記号をなぞりながら、
「あ、い、し、て、る」
と一音一音区切って教えた。
無意味な音節としか思えぬ異国の言葉をそのまま王は口に出し、ナシェルは楽しそうにその発音を褒めた。
王が不意に、古ぼけたページを示すナシェルの指をつかんだ。恭しく両手に挟んで、押し戴くように指先一本一本に口づけてゆく。心が痛むほど丁寧な仕草だった。ナシェルは崇高な愛に満たされて、自分の眼にうっすらと涙が滲むのを感じた。
「――あ、い、してる」
ナシェルは王の膝上の高い位置から、王の側頭に口づけを返した。
王の唇は熱心に、ナシェルの指から手首、上腕、そして肩口にまでのぼってきた。
感情の全てが陶酔に満たされ、背筋を甘い震えが駆け抜ける。
王の手が服の上から腰の線をなぞる。手にしていた本が双りの膝から、床へ落ちた。
「……やっぱり、着替えなんかして来なければ良かった」
ナシェルは物憂げに鼻をすする。
「…どうして?」
「だってこの装束、見てください。なるべく真面目に見えそうなのを選んでしまって。釦がたくさんありすぎて――とても無理です」
びっしり並んだ釦の羅列をもどかしげに指でつまんだ。……かと思うや腰を抱かれ、今まで王が座っていた椅子に浅く座らされる。上下が逆になった。
「そなたは何もせずとも良い」
王はナシェルを、豪奢な綴織りの背もたれに押し倒しながら柔らかく微笑む。
「余に全て任せれば良い。そなたはただこうして少し仰のいていてくれれば。
あとは全てやってあげる……」
釦を外してゆく父王の長い指を、ナシェルはうっとりと見つめた。甘やかさないで、と言うべきなのは分かっていたが、代わりに口をついて出たのは愛撫を期待する火照った溜息だった。懐に入り込んできた指が胸の尖りを優しく摘まむのを受けて、足の間の性器がまたも張りつめはじめていた。
ふと見上げると、書庫の高い天井が視界一面に広がっている。
同じ角度で天井を眺めたことがある、と不意に思い出した。
「前にもここで、したことあるな……」
「そうだったかな?」
「覚えてないんですか? ずっと若い頃です。よく分からないけど何か貴方とものすごく喧嘩してて。ここでわあわあ泣いてた覚えが…」
「泣いているそなたをここで? そんなことがあったかな……」
「ありましたよ。父上を蹴ろうとしてじたばた……した記憶が」
「ああ、何回かは蹴られたことがあるね」
語るうちに記憶が鮮明になってきた。そうだ、家出のあとだ。見つかって、連れ戻されて……。
「……あの時はひどかったな」
「どちらが?」
「貴方も私も、両方ですよ」
王はもう片方の手をナシェルのうなじの後ろへ回し、引き寄せた。
「過去は過去の教訓として。これからは良い思い出のみを重ねよう」
ナシェルも両手を伸ばして王の首に回す。
「――ええ、賛成です我が王。ずっと貴方の神司を糧にして育ってきたのに、どうしてあのとき、『要らない』なんて貴方を拒絶したのか……」
「なかなか難しい年頃だったからね」
「ずーっとね。今は正直に言いますけど……また父上のが欲しくてうずうずしてる。おかしいな、さっき寝台であんなにシたのに。貴方に触れられるといつもこうなっちゃう」
「正直になったのは良いことだ。素直に言えたご褒美をあげなきゃいけないね」
「うん、ご褒美ほしいな。父上のこれ……いっぱいほしい……」
ナシェルは、全ての釦を外し終え覆い被さってくる王の、まだ着衣のままの下腹に指を滑らせた。
「正直なのは良いけれど……せっかちだね。ものには順序というものがあるだろう?」
「え、父上に、順序のことを言われると思わなかったです」
思わず真顔になってこぼすと、王は吹き出し、つられてナシェルも微笑った。
縺れ合うようにして、椅子の上で情を交わした。
下肢を覆う衣を解かれ、両膝をひじ掛けに預けるように王の手で大きく開脚させられた。秘部を晒け出すように浅く座らされている。ナシェルのそこは触れられてもいないのに先端には甘露がにじみ出、愛撫を求めて疼いた。
上向く花芯を見つめられ羞恥で昂りながら、ナシェルは両脇の肘掛けにすがり甘い声で訴える。
「……して、父上……触って。そこ」
「……ここ? 触るだけでいいのだね」
「ちが……お願い、焦らさないで――動かして」
「……では……こうかな?」
王の片手がそっとナシェルのそれに添えられ、鈴口が広がるほど上下に、手が動かされはじめる。
「ん、く……」
己の指を噛んで声を殺そうとするも、亀頭を撫でられると同時に掌で陰嚢を揉まれてはたまらない。
「……あぁ……っ」
呼吸が上擦り、艶声が漏れる。肘掛けに預けた膝が快感に震える。
緩やかに手淫を施しながら、王がもう片方の手でナシェルの胸の蕾を撫でた。
「ナシェル、イきたいね?」
「はい……お願……い、もう……父上」
「余はこっちをするからね、ここ……指で触って、気持ち良くしてごらん」
ナシェルは肘掛けに掴まっていた片手を外し、愛撫を受けながら己の乳蕾を慰める。
撫でて摘まみ、コリリと指で掻くように刺激した。
「はっ、ん……う……」
体の複数個所に感じる刺激に、堪らなく全身が疼いてびくんびくんと撥ねた。
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