文字の大きさ
大
中
小
244 / 262
番外編
かけがえのない日々⑱※
王は精霊に火皿と消毒薬を持って来させて、針先を炙り、石に吐息を吹きかけて闇の司を込める。そうしてから、少し落ち着いてしまったナシェルの乳首を再び紙縒りのように揉んで尖り勃たせた。
「あぁんっ……あっ……えっ、何……?」
綿紗に含ませた消毒薬で乳輪の周りを丁寧に清拭されて、思わず戸惑いの声を上げた。冷たさに身じろぐ彼を宥めるように、王はその細い腰に手を回す。
「何とは? これは、こうして胸につける物だよ」
「えっ? はっ……!? てっきり、耳飾りかと」
「恐いか? やっぱり欲しくない?」
「いえ、あの、欲しいですが待って……み、耳ではだめ?」
「これは乳首用だと言っておるではないか。耳朶につけるには少し針が大きいね」
膝立つ位置をナシェルの側面に変えた王が、優しく、試すような眼差しを向けてきた。
紅玉の瞳に囚われてナシェルは唾を呑む。見つめられれば胸が高鳴り下肢が疼くが、正直、痛みへの不安も湧いてくる。
世界に唯一の、自分のための装飾品……、つけて欲しい気持ちは変わらない。王から与えられる物はすべて受け取り、その神司に満たされて生きてきたから。それを着ければ、ますます王の愛に包まれることができるというのも分かるし、痛みに耐えて誉められたい。――でも、乳首は怖い。
ナシェルの怯えが伝わったか、王はすぐ精霊に、愛用の煙管に火を入れて運んで来させた。天蓋の隙間から差し込まれた細長い煙管からは、甘い香りのする煙が立ち上っている。
「少し吸っておきなさい。三口ほど吸えば、頭がぼうとして痛みの感覚が和らぐ」
吸い口を向けられた。もう否やは許されぬようだ。
王に視線で促されて、ナシェルは意を決した。自ら唇を近づけ、麻酔の代わりに千年樹の葉を炙った莨を胸いっぱいに吸う。葉には酩酊と多幸感の作用がある。習慣的に莨を常用する父にはもう耐性がついていて効果が薄いらしいが、喫煙習慣のないナシェルは三口吸っただけでも意識がぼんやりしてくる。
……ナシェルの瞼がとろんと半分ほど下がり、莨の効果で朦朧状態に陥ったのを確認すると、王はナシェルの膨れた乳蕾の周りをつまみ、手早く針を持ちかえてプツリと水平に挿し込んだ。
「ぅ、あ゛ァッ……ッ…!!」
胸の尖りに、火が付いたような熱が奔る。
完全な麻酔状態ではないためやはり痛みはある。酩酊から覚醒へと、一気に意識が引き戻された。全身に力が入り背中がのけぞる。瞼が見開き、声を出すまいと思っていたのに思わず声が漏れた。
「あっ……、あ……、ッ!」
貫通時の灼けるような熱痛は一瞬で去ったが、すぐにジクジクとした疼痛に変わった。膝立ちの状態が維持できるはずもなく、ナシェルはぐったりと全体重を、手首の先の絹帯に預ける。ふらりと頭が傾き、乱れ広がった黒髪が頬と首元に貼りついた。莨でぼんやりしていなければ、もっと喚き散らしていたに違いない。
「はっ……はぁっ……」
「こちらを見よ、ナシェル」
大粒の涙をこぼし断続的な息遣いのナシェルを、王は自分のほうへ振り向けて、まるで息の吸い方を教えるように繰り返し深呼吸させる。どっと汗が吹き出した背や尻を撫で、優しく声をかけ落ち着かせる。――はやく疼痛の煉獄から掬い上げ、抱きしめてやりたいが、まだこれから針をリング状の金具へ付け替えねばならないので、両手の戒めをすぐには解いてやることができない。
柔弱しくまばたきし、ナシェルはべったりした前髪のすき間から泣き濡れた瞳を向けてきた。頬は薔薇のように上気し、血走って揺れる泪の海の奥には、異常なほどの昂ぶりが見て取れた。王は半身がこの状況で、絶頂に近い陶酔と恍惚を味わっていることを悟った。
「―――逝きそうなのか?」
「はい……、イきそう……何でか分からない、です……」
ナシェルはしゃくりあげ、制御の効かない己の情欲を恨むかのように、ぽろぽろとまた涙を流した。
「莨を吸ったからかな」
ナシェルはふるふると首を振る。
「では、ここがさっきよりもっともっと敏感になっているからだね……?」
羞恥しながらも、ナシェルの頭はこくんと上下した。視線で甘えてくる様が可愛らしく、早く済ませてやらねばと王はナシェルの体を抱え直した。
「続けるよ。大丈夫?」
「……はい……」
「もう少しで終わる。頑張ろうね」
「は、い」
まだ痛みで苦しげなナシェルに、もうしばらく呼吸を整えさせてから、王は針の後ろから本体となる金のリングを肉芽へ慎重に通して、留め具を固定させた。針を抜いたときに少々の出血があったが、綿紗で押さえて拭きとる。大した出血ではない。
そうして胸の尖りに触れられて、王の所有の証の金輪をつけられる間、ナシェルは歯を食いしばり何度か体をひくひくと痙攣させた。快感の極みにあるように、んっ…ん、と息を漏らし、拘束された体が小さく跳ねる。…千年樹の葉など吸わせたせいもあるだろうが、乳首に金輪を取り付けられる、という背徳的な行為そのものも昂奮の要因であろう。
王は乳首に金具を通し終えると、ナシェルの頬を撫でて涙を拭き取った。
「大丈夫、もう終わったよナシェル……」
――少し意識が遠のいていたのか。
ナシェルは、声を掛けられて数秒してからようやく我に返った。
ぐらぐらと視界が揺れているのは莨のもたらす酩酊なのか、それとも疼痛から来るめまいか。
細い輪っかを通された左胸はまだジンジンと熱く痺れている。
「よく頑張ったね」
労わるように頬や顎を撫でられて、嬉しさがこみあげた。
「……父、上」
キスして欲しい。視線で訴えると、すぐに意図が汲まれそのまま顎を掴まれて、やっとこの日はじめての口づけが与えられた。
侵入してくる舌を受け入れ、掻き回されるのに任せて王の熱い愛に応える。
「う、ぅ、ん……んっ……ふぁ……」
身じろぎするたびに、つけられたばかりのピアスの鎖が乳首の下で揺れる。
胸に感じる重さと存在感は想像を遥かに超えていた。ナシェルは自分の体がもう以前とは全く異なってしまったことをそのときようやく悟ったが、湧いてきたのは寧ろ、王の愛を身に刻まれたという大きな悦びの感情だった。
ナシェルも愛を伝えたくて、喉から言葉にならない声を漏らしながら己の舌で王の舌をつかまえ、思う存分に絡めて舐った。
双りはそうして濃厚な口付けに耽った。
……唇を離すころにはナシェルの顎は唾液にまみれて、顔は汗と涙でぐしゃぐしゃになっていた。王は微笑いながら袂でナシェルの顔を拭いてくれた。
いいかげん手首をほどいてくれたらいいのに。抱きついて父の腰帯を外したい……。
感想 71
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【BL】惚れた男に嫌われたくなくて「男遊びならしてもいい」と言ったら、本当に男遊びを始められて絶望している侯爵令息の話
多額の借金で没落寸前の実家を救うため、結婚相手を探していた男爵令息のラキにカムグロス侯爵家から求婚状が届く。
お相手は同性のディートリヒで、初対面で歓迎されるどころか冷たく突き放されてしまう。
『必要最低限関わるな』
『愛人を作るな』
『男遊びならしてもいい』
ディートリヒから実家の借金を完済する条件を言われたラキは、学園で令息たちとの交流を満喫中。
褒め上手なラキの周りには可愛い令息が集まり、推し活状態に。
一方、ディートリヒだけが嫉妬で胃を痛める日々。
ラキへの恋心を隠し続けた不器用侯爵令息に、幸せな未来は訪れるのか?
.