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番外編
かけがえのない日々⑳※
両手首の縛めはナシェル自身の加重で、梁の上でぎしぎしと不安な音を立てた。胸のピアスの鎖は、まるで鞭打つようにシャラシャラと肌を叩いてくる。
至福の極みに達している中、追い打ちをかけるようにきゅんきゅんと乳蕾をねじり上げられて、音を立てて耳の奥を舐められる。聴覚と触覚と視覚を支配されて、脳がとろけそうだ。
尖りにカリカリと爪を立てられると体が過敏すぎるほど反応して、優美な肢体は釣られた魚のように暴れ狂う。
「ぁぁ……やぁ、まってもう乳首ぃや、逝ってるから、まっ……! やだぁあ、」
ナシェルは髪を振り乱してそれ以上の愛撫を拒んだ。
王はそれでも執拗に指を動かし続けて快楽を与え続け、命ずる。
「――逝きなさいナシェル、何度でも」
ナシェルはしかし自分の体が判らなくなってゆく不安に慄き、乱れた呼吸の合間に泣き言を零した。
「だけど、とけちゃう……ちくび溶けちゃ、う……」
「大丈夫、溶けてない。ほら、顔を上げてしっかり見てごらん。こんな綺麗な色をして――もっとして欲しいみたいに、はち切れそうに熟れている。大丈夫だよナシェル、全部受け止める。怖がらないで。安心してすべて余に委ねてごらん……」
宥めすかされ、ナシェルは恭順するしかない。鏡に映る淫らな自分の有様を、そして父の眸を半開きの目で見つめながら、立て続けに乳首での絶頂を迎えた。
「はぁっ、…―っん、ああぁあ――……あぅぅ―――ッ!!」
薔薇色に咲きほころんだ乳首は、とうに快感の坩堝と化していた。
もう、熱く腫れ上がった先端以外のことはなにも考えられなくなっていた。
押し寄せる官能の渦に呑まれて、吊られた雌鹿のように体を揺する。
王はナシェルが深く長い絶頂状態にあると判っていてなお、それをやめようとはしない。可哀想なほどに充血した蕾を撚り上げる。時おり、つけてやったばかりの左胸の金輪を指ではじく。ナシェルは喜悦の喚き声を発しながら汗みずくでのたうち、その絶頂が醒めきらぬうちにまた新たな波に襲われて、絶頂の境目すらも見失っていった。
ただひたすらに被虐の喜びに泣き喚きながら、ナシェルは果てが見えないほど激しく逝きつづけ、最後には何かの呪にかかったように恍惚状態となり、やがて半ば意識をうしなって項垂れてしまった。
王はようやくナシェルの手首を縛めた絹帯をほどき、ぐったりしたナシェルを寝台の上に横たえた。
……水を含んだ海綿を口元に宛がわれて、ナシェルの意識はゆっくりと浮上した。
唇に水滴を押し当てられる感覚で、喉がからからに渇いていることに気づく。
半ば無意識に口を開くと、王がその上で海綿を絞りナシェルに水分をとらせた。
喉に冷たい水が沁み亘ってゆく。
朦朧としていた意識が戻ってくると、ナシェルはそっぽを向いて枕で涙を拭った。優しいことを言っておきながら王の責め方は尋常ではなかった。思うさまに嬲られ尽くしたことが恥ずかしいのと、泣き乱れる自分を徹底的に責めぬいた王に、少々の抗議の意味もある。
「どうしたのナシェル」
王が背中に触れてくる。上からその表情をのぞき込み、ナシェルが唇を尖らせて黙り込んでいることに気づくと苦笑ぎみに肩を揺らした。
……そうしてナシェルの感情の変遷を悟っても、王は気分を害したりはしない。細い腰を撫で、豊かな黒髪に口づけして丁寧に甘やかす。
「さぁ休憩が済んだら今度はこっちをしてあげる」
夜着の上から下肢をつつかれる。王は、はだけて引っ掛かっているだけの夜着をナシェルの肩からそっと抜き、敷物のように広げた。
「おいでナシェル」
全裸にされたナシェルは、そこではじめて両手の自由が利くことに気付いた。お仕置きが終わったのだと悟り、王の出方を伺おうと振り返り、警戒を込めてじっとりと見据えた。
「……もういじめない?」
「いつ余がそなたを虐めたりしたの」
「イッてるのにやめてくれなかったでしょう」
「……ごめんね。乱れるそなたが可愛くて」
「息が、とまるかと」
ナシェルは枕を抱き締めた。息ができないぐらい、気持ちよかったと伝えたいのと、つらかったのと、二つの意味がある。
「反省したり拗ねたり、忙しいねそなたは」
王は笑い声を上げ両手を拡げた。
「分かった、もう苛めたりはせぬ。どうして欲しいの?」
ナシェルは洟をすすり、枕を抛る。
「ちゃんと……貴方に触れさせて」
諒解した王が上から覆い被さってきた。互いの隙間を埋めるように身じろぎし合う。
王の背に腕を廻すと、胸の飾りが双りの体の間で擦れてひりつく。ナシェルは小さく呻いた。王は注意深く体をずらしその部分には触れないようにしているが、それでも構わず自分から体を擦り寄せる。
王は上目遣いの眼差しだけでナシェルの希望を汲み取り、啄ばむような軽い口づけを落としてきた。
ナシェルはもっと深い接吻が欲しくて、切なげに何度も瞼を震わせた。けれど王は舌すら入れて来ない。
至近に見つめられながら、甘え声で訴えた。
「お願いです。もっといっぱい欲しい―――」
「だが、この体勢だとまだ乳首が痛むであろう。横向きか、うつ伏せで肘をついたら? 後ろからしてあげるよ」
締まった双丘をそっと撫でられるが、ふるふるとナシェルは首をふり、王の逞しい背を引き寄せて鎖骨に頬を埋めた。
「いいの。こうするのがいい。嬉しいんです……これは、貴方の下さる愛の痛みだから。それにこうしていた方が、貴方の熱をたっぷり感じられるから」
「痛いけど、嬉しいんだね」
「うん。嬉しい……あとは体の奥が貴方の神司で満たされたら、もう」
いつ消滅したっていいぐらい。そう言おうとしてナシェルは思い留まり、語尾を言い換えた。
「……もう、言うことないんですけど」
「ああ可愛いねナシェル。……待ってて、少し慣らそうね」
「慣らさなくったっていいから、もっとキスして。ね、お願いです……」
今度は応じられ丁寧なキスが与えられた。角度を何度も変えながら深く唇を溶け合わせ、ナシェルは混ざった唾液を嚥下する。
「……ん、……ふぅ……ん……」
ナシェル愛してる……、愛してる。
息継ぎのたびに王が繰り返している。
王の囁きと、唇ごしに注がれてくる神司はどんな果実よりも甘く、ナシェルの意識を陶酔に引き込む。
すごく優しくしてくれてる。嬉しい。
でも優しくしないで欲しい。労わらなくたっていいから、
もうこのまま貴方のこの硬さに、一息に貫かれたい……。
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