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第六話
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部屋に入ってから、何時間経っただろう。俺とエディさんは、互いの媚薬成分が抜けるまで縺れに縺れて縺れ合った。
結論から申し上げますと、エディさんとのエッチはひっじょうに! たいっっへん気持ちよかったです‼
強姦されそうになった時に、前世で恋人とデートできて幸せ~! 手を繋いでひゃっほ~! とか抜かしていた自分をぶん殴ってやりたい。
お前はガッツリ性欲があるぞ! ただし、抱く方じゃなくて抱かれる側だがな! って叫んでしまいたかった。
まあ、こうなってしまったそもそもの原因は、俺の媚薬のせいなんだけどね……。
王都に来たばかりだということ、男に薬を奪われて無理やり飲まされたこと。そして、さっきの煙のせいでエディさんが変になってしまったこと。俺はすべてを説明することにした。
「エディさん、誠に申し訳ありませんでした……」
「そんなに謝らないでくれ。俺の方こそ男として不甲斐ないばかりだ……」
エディさんが気まずそうに俺から目を逸らす。自分の背後からガーンという音がしたが、容疑者である俺がここで引くわけにはいかない。
俺から誘った上に、いつもなら口にしないであろう恥ずかしいセリフを口走った気がする。ていうか言っちゃったよ、色々と……。
ふと情事を思い出してしまい、顔に血が集まっていく。
しぼんでいく俺の様子に、エディさんはばつが悪そうに頬を搔いた。
「その、酷くして悪かった。物欲しそうなテツヒコを見ていたらこう、抑えが利かなくなってしまったんだ……すまない」
あそこまで行為に夢中になったのは、はじめてだと吐露するエディさん。
かくいう俺も、ノリノリで入れてくださいとかなんとか言って縋ってしまったので、責めるに責められない。何回射精したのかも覚えていないし……ってああ! 思い出しただけで恥ずかしすぎるよぉ!
両手で顔を覆いながら、ちらっとエディさんの様子を窺う。
成り行きとはいえ、エディさんを巻き込んでしまった責任は俺にあるわけだ。だから、彼になんらかの形で慰藉したいと思うのだけど……。
なんといったって、俺は無職も同然。明日は我が身だし、お詫びの品といった贅沢品を用意する余裕は、残念ながら今の俺にはない。
それでも、エディさんに何かできないだろうか。
悪漢から助けてもらったお礼も含めて、俺は恐る恐るエディさんに尋ねてみた。
「エディさんは、何か俺にしてほしいこととかってないですか? その、恥ずかしい話ですが、立派な品とかお金とかを用意することはできないんですけど……」
もごもごと口籠ると、エディさんはそんな俺を見て目を見張った。
何をそんなに驚いているんだろう? 俺がきょとんとして小首をかしげると、エディさんは深くため息を吐いた。
「不要だ。むしろ君に何かしてあげたいと思う。テツヒコ、俺は君に何をしてあげられる?」
「え……」
意外な返しに固まってしまった。だって迷惑をかけたのは、俺の方なのに。
「俺はあなたに何も要求しません。あなたを巻き込んでしまったのは俺だし、むしろ助けていただいたのに、恩を仇で返すようなマネをしてしまって申し訳ないです」
何度目になるか分からないが、謝罪の言葉とともに頭を下げる。そして頭を元の位置に戻そうとした時、ふと彼の右腕の咬傷に目がいった。
「エディさんっ! 腕を見せてください!」
「え? ああ、これか」
幸運にも、腕の傷はそれほど深いものではなく、日常生活に支障をきたすほどの怪我じゃなかった。けどこのまま放置していたら、傷口が化膿してしまうかもしれない。
「エディさん、俺に何かしてあげたいって言いましたよね?」
「ああ。俺にできることなら、なんでもするつもりだ」
「だったら、俺にエディさんの治療を任せてもらえませんか?」
「治療を?」
ハイネストポーションはそれこそ数に限りがあるし、今後のためにも大事に保存しておきたいところではある。
でも、こうして俺に手を差し伸べてくれたこの人になら……ためらっている暇はなかった。
これくらいの傷なら、飲まずとも振りかけるくらいでいいと判断し、俺は袋の中から小瓶を取り出した。
そのままフタを開けてエディさんの腕に二、三滴垂らしてみる。すると、傷口全体が光に包まれていった。
「な……⁉」
「ふぅ。とりあえずこれで完治かな」
魔石火のランプで照らしてみて、問題がないか確認する。
ポーションに関しては、散々テストを繰り返してきたからかなり自信があったけど、万が一のこともある。
けど見た感じ副作用はなさそうだし、結果は上々かな。
満足げにエディさんへ微笑みかけると、彼は狐につままれたような顔をしていた。
「エディさん?」
「――はっ。すまない、あまりにも凄まじい回復速度だったので驚いてしまった。それに、飲まなくてこれだけ治癒力がある回復薬ははじめて見た。つかぬこと伺うが、それは巷で売られているポーションだろうか?」
「いいえ。自作です」
「君が作ったのか?」
頷いてみせると、エディさんは顎に手を当てて、しばらく考え込むような間をとった。
さっきからなんだろう。俺、なんかマズイことしちゃったのかな?
冷や汗をだらだら流しながらエディさんの回答を待っていると、エディさんは何を思い立ったのか、俺の手を包み込むように握りしめてきた。
「そういえば、君はまだ王都に来たばかりなのだろう? 俺でよければ、王都を案内しよう」
「え、いいんですか?」
正直エディさんの申し出はとても有り難い。けど、俺なんかのためにこれ以上時間を浪費させてしまってもいいんだろうか?
彼から今日一日非番だとは聞いたけど――って、ああ、そうか。いいことを思いついたぞ!
せっかく案内してもらえるのなら、斡旋所的な場所を紹介してもらえばいいじゃないか!
思い立ったが吉日。俺はエディさんに迫り詰めた。
「実は俺、一文無しなんです! 厚かましいとは思うんですけど、仕事の紹介所とかがあれば、是非俺に教えてくれませんか⁉」
言い募る俺に引いた様子もなく、エディさんは笑った。
「なら、決まりだな。だが、俺がテツヒコに紹介するのは場所ではなく、人材かな」
「というと?」
「俺の知り合いに、その手の情報に通じているヤツがいるんだ。俺の紹介なら、きっとアイツも協力してくれるだろう」
なんと! 思わぬ助け舟を出してもらい、俺は興奮気味にエディさんの手を握り返した。
エディさんはそんな俺の手の甲に、自分の唇を近づけていって――って、何してるんですか⁉
ちゅ、っと小さく音を立てて、手の甲にキスされた。キスされてしまった。
「え、エディさん⁉」
「タイミングを逃してしまったが、改めて自己紹介させてくれ。俺は第二騎士団副団長のエドワード・エヴァンスだ。エディは愛称で、周囲の者がそう呼んでいる」
「エドワード……様?」
「エディでもエドワードでも、好きなように呼んでもらって構わない。あと俺に畏まらず、呼び捨てにしてほしい」
テツヒコ、と言いにくそうに俺の名が呼ばれる。
実はさっきから地味に気になっていたんだけど、俺の名前って聞き慣れない音だからか、すごく発音しにくそうなんだよな。
ていうか、ファンタジー世界で日本名を名乗っちゃったら違和感しかないな。うーん、エディさんになんて言い訳しよう。
「じゃあ、俺はこれまで通りエディさ――エディって呼ばせてもらいますね。あと俺、本名はアシュル・バニヤンっていいます。テツヒコは……えっと~……そう、ニックネームみたいなものです! テツヒコが呼びにくければ、気兼ねなくテツって呼んでください」
家族や友人にはテツって呼ばれていたから、これでどうだと胸を張ってみる。
けど、よくよく考えてみたら、アシュルって呼んでもらえれば万事解決なんじゃ? というツッコミは胸にしまっておくことにした。
「じゃあ俺もテツと呼ばせてもらおう。君に愛称で呼んでもらえるのなら、俺も同じように呼びたい。それにしても、アシュルからテツヒコとはかなり飛躍したな。この国では聞かない響きだ」
ぎくっ。い、いや~あのぉ、俺って元日本人だからねぇ。あはは~……どうしよう⁉
「な、名付けてくれた人が行商人で……そのー、彼は世界中を旅してまして~、それ経由でうんたらかんたら……」
説明下手クソか! うんたらかんたらってなんだよ!
けど、エディさんは俺の稚拙なウソに納得してくれたようで、なるほどと素直に頷いていた。
あまりにもすんなり信じてくれたので、今後エディさんが詐欺師に騙されやしないか、俺は密かに心配してしまった。
結論から申し上げますと、エディさんとのエッチはひっじょうに! たいっっへん気持ちよかったです‼
強姦されそうになった時に、前世で恋人とデートできて幸せ~! 手を繋いでひゃっほ~! とか抜かしていた自分をぶん殴ってやりたい。
お前はガッツリ性欲があるぞ! ただし、抱く方じゃなくて抱かれる側だがな! って叫んでしまいたかった。
まあ、こうなってしまったそもそもの原因は、俺の媚薬のせいなんだけどね……。
王都に来たばかりだということ、男に薬を奪われて無理やり飲まされたこと。そして、さっきの煙のせいでエディさんが変になってしまったこと。俺はすべてを説明することにした。
「エディさん、誠に申し訳ありませんでした……」
「そんなに謝らないでくれ。俺の方こそ男として不甲斐ないばかりだ……」
エディさんが気まずそうに俺から目を逸らす。自分の背後からガーンという音がしたが、容疑者である俺がここで引くわけにはいかない。
俺から誘った上に、いつもなら口にしないであろう恥ずかしいセリフを口走った気がする。ていうか言っちゃったよ、色々と……。
ふと情事を思い出してしまい、顔に血が集まっていく。
しぼんでいく俺の様子に、エディさんはばつが悪そうに頬を搔いた。
「その、酷くして悪かった。物欲しそうなテツヒコを見ていたらこう、抑えが利かなくなってしまったんだ……すまない」
あそこまで行為に夢中になったのは、はじめてだと吐露するエディさん。
かくいう俺も、ノリノリで入れてくださいとかなんとか言って縋ってしまったので、責めるに責められない。何回射精したのかも覚えていないし……ってああ! 思い出しただけで恥ずかしすぎるよぉ!
両手で顔を覆いながら、ちらっとエディさんの様子を窺う。
成り行きとはいえ、エディさんを巻き込んでしまった責任は俺にあるわけだ。だから、彼になんらかの形で慰藉したいと思うのだけど……。
なんといったって、俺は無職も同然。明日は我が身だし、お詫びの品といった贅沢品を用意する余裕は、残念ながら今の俺にはない。
それでも、エディさんに何かできないだろうか。
悪漢から助けてもらったお礼も含めて、俺は恐る恐るエディさんに尋ねてみた。
「エディさんは、何か俺にしてほしいこととかってないですか? その、恥ずかしい話ですが、立派な品とかお金とかを用意することはできないんですけど……」
もごもごと口籠ると、エディさんはそんな俺を見て目を見張った。
何をそんなに驚いているんだろう? 俺がきょとんとして小首をかしげると、エディさんは深くため息を吐いた。
「不要だ。むしろ君に何かしてあげたいと思う。テツヒコ、俺は君に何をしてあげられる?」
「え……」
意外な返しに固まってしまった。だって迷惑をかけたのは、俺の方なのに。
「俺はあなたに何も要求しません。あなたを巻き込んでしまったのは俺だし、むしろ助けていただいたのに、恩を仇で返すようなマネをしてしまって申し訳ないです」
何度目になるか分からないが、謝罪の言葉とともに頭を下げる。そして頭を元の位置に戻そうとした時、ふと彼の右腕の咬傷に目がいった。
「エディさんっ! 腕を見せてください!」
「え? ああ、これか」
幸運にも、腕の傷はそれほど深いものではなく、日常生活に支障をきたすほどの怪我じゃなかった。けどこのまま放置していたら、傷口が化膿してしまうかもしれない。
「エディさん、俺に何かしてあげたいって言いましたよね?」
「ああ。俺にできることなら、なんでもするつもりだ」
「だったら、俺にエディさんの治療を任せてもらえませんか?」
「治療を?」
ハイネストポーションはそれこそ数に限りがあるし、今後のためにも大事に保存しておきたいところではある。
でも、こうして俺に手を差し伸べてくれたこの人になら……ためらっている暇はなかった。
これくらいの傷なら、飲まずとも振りかけるくらいでいいと判断し、俺は袋の中から小瓶を取り出した。
そのままフタを開けてエディさんの腕に二、三滴垂らしてみる。すると、傷口全体が光に包まれていった。
「な……⁉」
「ふぅ。とりあえずこれで完治かな」
魔石火のランプで照らしてみて、問題がないか確認する。
ポーションに関しては、散々テストを繰り返してきたからかなり自信があったけど、万が一のこともある。
けど見た感じ副作用はなさそうだし、結果は上々かな。
満足げにエディさんへ微笑みかけると、彼は狐につままれたような顔をしていた。
「エディさん?」
「――はっ。すまない、あまりにも凄まじい回復速度だったので驚いてしまった。それに、飲まなくてこれだけ治癒力がある回復薬ははじめて見た。つかぬこと伺うが、それは巷で売られているポーションだろうか?」
「いいえ。自作です」
「君が作ったのか?」
頷いてみせると、エディさんは顎に手を当てて、しばらく考え込むような間をとった。
さっきからなんだろう。俺、なんかマズイことしちゃったのかな?
冷や汗をだらだら流しながらエディさんの回答を待っていると、エディさんは何を思い立ったのか、俺の手を包み込むように握りしめてきた。
「そういえば、君はまだ王都に来たばかりなのだろう? 俺でよければ、王都を案内しよう」
「え、いいんですか?」
正直エディさんの申し出はとても有り難い。けど、俺なんかのためにこれ以上時間を浪費させてしまってもいいんだろうか?
彼から今日一日非番だとは聞いたけど――って、ああ、そうか。いいことを思いついたぞ!
せっかく案内してもらえるのなら、斡旋所的な場所を紹介してもらえばいいじゃないか!
思い立ったが吉日。俺はエディさんに迫り詰めた。
「実は俺、一文無しなんです! 厚かましいとは思うんですけど、仕事の紹介所とかがあれば、是非俺に教えてくれませんか⁉」
言い募る俺に引いた様子もなく、エディさんは笑った。
「なら、決まりだな。だが、俺がテツヒコに紹介するのは場所ではなく、人材かな」
「というと?」
「俺の知り合いに、その手の情報に通じているヤツがいるんだ。俺の紹介なら、きっとアイツも協力してくれるだろう」
なんと! 思わぬ助け舟を出してもらい、俺は興奮気味にエディさんの手を握り返した。
エディさんはそんな俺の手の甲に、自分の唇を近づけていって――って、何してるんですか⁉
ちゅ、っと小さく音を立てて、手の甲にキスされた。キスされてしまった。
「え、エディさん⁉」
「タイミングを逃してしまったが、改めて自己紹介させてくれ。俺は第二騎士団副団長のエドワード・エヴァンスだ。エディは愛称で、周囲の者がそう呼んでいる」
「エドワード……様?」
「エディでもエドワードでも、好きなように呼んでもらって構わない。あと俺に畏まらず、呼び捨てにしてほしい」
テツヒコ、と言いにくそうに俺の名が呼ばれる。
実はさっきから地味に気になっていたんだけど、俺の名前って聞き慣れない音だからか、すごく発音しにくそうなんだよな。
ていうか、ファンタジー世界で日本名を名乗っちゃったら違和感しかないな。うーん、エディさんになんて言い訳しよう。
「じゃあ、俺はこれまで通りエディさ――エディって呼ばせてもらいますね。あと俺、本名はアシュル・バニヤンっていいます。テツヒコは……えっと~……そう、ニックネームみたいなものです! テツヒコが呼びにくければ、気兼ねなくテツって呼んでください」
家族や友人にはテツって呼ばれていたから、これでどうだと胸を張ってみる。
けど、よくよく考えてみたら、アシュルって呼んでもらえれば万事解決なんじゃ? というツッコミは胸にしまっておくことにした。
「じゃあ俺もテツと呼ばせてもらおう。君に愛称で呼んでもらえるのなら、俺も同じように呼びたい。それにしても、アシュルからテツヒコとはかなり飛躍したな。この国では聞かない響きだ」
ぎくっ。い、いや~あのぉ、俺って元日本人だからねぇ。あはは~……どうしよう⁉
「な、名付けてくれた人が行商人で……そのー、彼は世界中を旅してまして~、それ経由でうんたらかんたら……」
説明下手クソか! うんたらかんたらってなんだよ!
けど、エディさんは俺の稚拙なウソに納得してくれたようで、なるほどと素直に頷いていた。
あまりにもすんなり信じてくれたので、今後エディさんが詐欺師に騙されやしないか、俺は密かに心配してしまった。
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