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絡み合う欲情

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 リアム……

 逞しい腕と胸板の肌触りと衣服を通じて伝わるリアムの温かな温もりと、アルコールと葉巻の混じった彼の匂い。ようやく、ずっと求めていた感触に包まれて、ジュリアンは泣きたい気持ちになった。

「悪かったな、怒鳴りつけて……」

 リアムの声が、小さくジュリアンの耳元に落とされる。その低く優しい響きにジュリアンの躰が温かくなり、和らいでいく。

「僕こそ、ごめんなさい。
 ……リアムに迷惑かけちゃって」

 リアムは抱き締めていた手を緩め、ジュリアンの肩に埋めていた顔を上げると深い藍色の瞳で見つめた。

「お前がどうやってここに来たか……」

 途端に、ジュリアンの肩がギクッと大きく波打つ。

 ど、どうしよう。エリックが怒られちゃうかな……

 唇をギュッと結び、何も言おうとしないジュリアンを見つめたあと、リアムはニヤッと笑った。

「まっ、大体の予想はついてるがな」

 リアムはそれ以上追求することなく、ジュリアンはそっと息を吐いた。

 よかった……

 だが、リアムは急に険しい目つきになり、ジュリアンの鼻先まで近づいた。

「お前、なんであんな人目につかない奥に座ってた?ここじゃあれは『襲って下さい』って言ってるようなもんだ。なんでここに入ってすぐ俺のとこに来なかった?」

 射るような視線が突き刺さり、この追求からは逃れられそうもない。

「そ、それは……」
 それは、リアムが綺麗な女の人と話してたから……」
「あ?」
「カウンターに立って、リアムの頬に手を添えたり、耳を寄せたりして話してたでしょ……」

 自分が嫉妬しているということをリアムに知られるのは嫌だけど、こうなったら仕方ない。

「あぁ、アイツのことか……」

『アイツ』って……そんなに親しい仲なの?

 リアムの言葉を聞き、ジュリアンの中でまた黒い気持ちが渦巻き始める。すると、リアムがニヤリと笑う。

「安心しろ。俺に、"そのケ"はねぇ」

 "そのケ"って?

 目を点にするジュリアンに、更にリアムが口角を上げる。

「アイツは男だ」

 え? えぇーーーーーっ!!

 確かに酒場は薄暗くて、しかも遠目だったし、後ろからしか見てなかったけど、完全に女の人だと思ってた。唖然とするジュリアンにリアムが説明する。

「アイツはここらでは名の知れた男娼婦だ。自分を売り込むだけでなく、娼婦宿も幾つか持ってて、顔もきく」

 そ、そうなんだ……だから、後ろ姿からでもあんなに色気が漂ってたのかな。
 
「アイツからあの時ちょうどこの界隈の娼婦宿で阿片の売買がされてるって情報を仕入れたところだったから、全くタイミングよかったぜ」

 あ、あの時の……

 リアムが荒くれ者達に言った言葉を思い出す。

『今マージンとってる売春宿、あそこでも阿片捌いてるらしいじゃねぇか。騎士団の調査が入ったら、潰されんな』

 そう、だったんだ……

「ま、アイツは俺に気があるみてぇだがな」
「なっ!!」

 思わず声を上げてしまったジュリアンに、リアムが意地悪な笑みを浮かべる。

「お前ってほんと単純だな。からかいがいがあるぜ」
「もうっ!リアムってほんとに意地悪……それに僕だって男だし、あの人が男だって聞いたからって、安心できるわけじゃないじゃん……」

 そう言って剥れたジュリアンを、リアムが再び抱き締める。

「好きな奴に意地悪するのは男の性だろ? 
 余計な心配すんじゃねぇよ。ノンケの俺を惚れさせちまうぐらい、お前が魅力的ってことだ。俺は男でも女でも、もう誰もいらねぇ。お前、以外はな……」
「ぼ、僕だって……リアム以外、欲しくない。リアムは、僕が初めて好きになった人……だから」

 顔を赤らめながら必死に告げるジュリアンに、リアムの理性の糸が切れる。

「お前……俺を煽った責任とれよ」

 リアムの唇がジュリアンのうなじに寄せられ、熱い舌で撫で回される。

「はっ、ぁん……」

 突然のことに思わず声を漏らしたジュリアンに、リアムがニヤリと笑う。

「いい声出すじゃねぇか……ゾクゾクするぜ」

 リアムの大きな手がジュリアンの後頭部を支え、もう一方の手がフロックコートのボタンを外していく。

 え、ちょっ、ちょっとっ……

 コートが外され、ブラウスのリボンが解かれた上から手を差し入れてこようとするリアムを、ジュリアンが慌てて制する。

「リ、リアム……待って!!」
「っんだよ」

 リアムは止められて、不機嫌な声をあげる。

「ここじゃ、嫌だ……」

 バックヤードを見廻してそう言ったジュリアンに、

「面倒くせぇ奴だな」

 そう言いながらも、リアムはジュリアンを抱え上げるとバックヤードから連れ出した。

 ドサッ

 表のバーカウンターの上に降ろされる。

「これ以上は、待てねぇからな」
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