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33.ふたりきりの時間
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シェーンブルン宮殿を出てからは中心部へと再び戻った。予定ではホーフブルク王宮も観光するつもりだったが、シェーンブルン宮殿に時間を取られ過ぎてシュテファン大聖堂と美術史博物館を見て回るだけとなり、その後遅めの昼食を取った。
相変わらずベンジャミンは冗談混じりの軽快なトークでサラを笑わせ、和やかで楽しい雰囲気が溢れる中での観光となった。だが、楽しみながらも、サラは喉に魚の小骨が引っ掛かっているような気分を拭い切れずにいた。
夕方になり、ベンジャミンがオケとの練習のために別れることとなった。
「ハァ……もっと遊びたかったなぁ、残念だよぉ。あぁ、でも今日の練習サボったらコンツェルトマイスター(コンサートマスター=オケの各奏者を統率し、指揮者の意思を伝える役割で、通常は第1ヴァイオリンの主席奏者が務める)にめっちゃ怒られるどころの騒ぎじゃないだろうしなぁ……」
今後に及んで、まだベンジャミンは迷っているような口調だった。
「何を言ってるのですか。さ、早く行かないと遅れますよ」
「ブー。ステファンの意地悪っっ!! あーあ、僕の分まで楽しんできてよねぇ」
「もちろん、そのつもりですよ」
「ブーッ!! じゃぁサラ、また明日ね♪」
ベンジャミンはブスッとした顔から、サラの方へと向き直った時には笑顔になっていた。本当に、表情がコロコロとよく変わる。
「今日は、ありがとうございました。ベンジーがいてくださって、楽しかったです」
「うん、僕もだよ! ステファン抜きでデートしたくなったらいつでも言ってよ。サラの為に予定あけとくからさ♪」
サラに顔を近づけようとしたベンジャミンの額を、ステファンの手が押し戻した。
「冗談言ってる場合じゃないですよ。さっさと行かないとコンツェルトマイスターに絞め殺されますが、それをお望みですか?」
ステファンは自分がベンジャミンを絞め殺しそうな冷酷な口調で、言い放った。
ベンジャミンはウダウダ言いながらも重たい足取りで帰って行った。
陽気で楽しいベンジャミンが帰ってしまい、寂しく思う一方で、もうステファンのウィーン留学時代やラインハルトと兄弟弟子の話を聞かなくてもいいのだと思うと安堵する気持ちも込み上がってきた。あれほど知りたかったステファンとの空白の時間が、知れば知るほどに不安な気持ちが募ってくるのを感じる。
「これから、どうしますか? もし疲れているのなら、少しホテルで休んでから出掛けてもいいのですが」
ベンジャミンの背中を追っていたステファンの視線が、サラに優しく向けられた。
「いえ、大丈夫です。もし、ステファンが疲れていなければ、まだ見て回りたいです」
ステファンとウィーンの街をデート、と考えただけでサラの心が浮き立ち、ホテルに一旦帰る気にはなれなかった。
「では、もし途中で疲れたら言ってくださいね」
優しく微笑むステファンが嬉しくて、サラの頬が緩んだ。
こんな時、ステファンは過保護だとサラはつくづく感じた。幼い頃からいつもステファンに守られ、甘えて生きてきたのだと実感させられる。
そして、それは、自分にだけ向けられている、とてつもなく、心地良いものだということも……
「えぇ、分かりました」
サラは幸せを感じながら、ステファンに微笑んだ。
相変わらずベンジャミンは冗談混じりの軽快なトークでサラを笑わせ、和やかで楽しい雰囲気が溢れる中での観光となった。だが、楽しみながらも、サラは喉に魚の小骨が引っ掛かっているような気分を拭い切れずにいた。
夕方になり、ベンジャミンがオケとの練習のために別れることとなった。
「ハァ……もっと遊びたかったなぁ、残念だよぉ。あぁ、でも今日の練習サボったらコンツェルトマイスター(コンサートマスター=オケの各奏者を統率し、指揮者の意思を伝える役割で、通常は第1ヴァイオリンの主席奏者が務める)にめっちゃ怒られるどころの騒ぎじゃないだろうしなぁ……」
今後に及んで、まだベンジャミンは迷っているような口調だった。
「何を言ってるのですか。さ、早く行かないと遅れますよ」
「ブー。ステファンの意地悪っっ!! あーあ、僕の分まで楽しんできてよねぇ」
「もちろん、そのつもりですよ」
「ブーッ!! じゃぁサラ、また明日ね♪」
ベンジャミンはブスッとした顔から、サラの方へと向き直った時には笑顔になっていた。本当に、表情がコロコロとよく変わる。
「今日は、ありがとうございました。ベンジーがいてくださって、楽しかったです」
「うん、僕もだよ! ステファン抜きでデートしたくなったらいつでも言ってよ。サラの為に予定あけとくからさ♪」
サラに顔を近づけようとしたベンジャミンの額を、ステファンの手が押し戻した。
「冗談言ってる場合じゃないですよ。さっさと行かないとコンツェルトマイスターに絞め殺されますが、それをお望みですか?」
ステファンは自分がベンジャミンを絞め殺しそうな冷酷な口調で、言い放った。
ベンジャミンはウダウダ言いながらも重たい足取りで帰って行った。
陽気で楽しいベンジャミンが帰ってしまい、寂しく思う一方で、もうステファンのウィーン留学時代やラインハルトと兄弟弟子の話を聞かなくてもいいのだと思うと安堵する気持ちも込み上がってきた。あれほど知りたかったステファンとの空白の時間が、知れば知るほどに不安な気持ちが募ってくるのを感じる。
「これから、どうしますか? もし疲れているのなら、少しホテルで休んでから出掛けてもいいのですが」
ベンジャミンの背中を追っていたステファンの視線が、サラに優しく向けられた。
「いえ、大丈夫です。もし、ステファンが疲れていなければ、まだ見て回りたいです」
ステファンとウィーンの街をデート、と考えただけでサラの心が浮き立ち、ホテルに一旦帰る気にはなれなかった。
「では、もし途中で疲れたら言ってくださいね」
優しく微笑むステファンが嬉しくて、サラの頬が緩んだ。
こんな時、ステファンは過保護だとサラはつくづく感じた。幼い頃からいつもステファンに守られ、甘えて生きてきたのだと実感させられる。
そして、それは、自分にだけ向けられている、とてつもなく、心地良いものだということも……
「えぇ、分かりました」
サラは幸せを感じながら、ステファンに微笑んだ。
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