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理想と現実

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 翌日。

 美姫は秀一と共にウィーン・シュヴェヒャート空港に立っていた。

 ウィーンに到着した日のことが、とても遠く感じる......

 運命という荒波に翻弄され続けたような2週間だった。

 日本に帰国したら、どうなるんだろう。
 大学に戻ることも出来ない。私はこれから、前進することができるんだろうか......そんな不安を拭いきれない。

 秀一が腕時計に視線を落とした。

「出発前に少し時間がありますが、どうしますか」

 美姫はふと、ここに来てから薫子に一度も連絡していなかったことを思った。

 心配しているかもしれない。

「あの、メールの確認だけさせてもらってもいいですか」
「では、搭乗口まで行きましょうか。そこなら時間を気にすることなく、メールチェック出来ますので」

 秀一の言葉に従い、美姫は搭乗口へと向かった。

 搭乗口の待合いベンチに座り、秀一のノートパソコンを借りた。

 薫子はどんな年末年始を過ごしたんだろう。悠とは会えたのかな。

 以前会った時に、遼との見合い話をしていたことを思い出し、不安になった。

 普段はスマホでしか連絡を取らないため、パソコンでのメールアドレスを知っているのは家族とごく親しい友達のみだった。

 受信トレイには凛子からのメールも含まれており、無事に日本に着いたこと、工場の機械は修理し、問題なかったことが綴られていた。安堵しながらその先へと進めると、薫子からのメールが入っていた。

『美姫、いつに帰国するの? 帰国したら直接会って話したいことがあるから、すぐに連絡欲しいの。
 こんなこと話せるの、美姫しかいないから...早く、会いたい』

 切羽詰まったような薫子の文面に、先ほど浮かび上がった不安がたちまち墨のように広がっていく。

 薫子、何があったの......

 薫子が大学に入って悠との距離が離れ、無理やりお見合いさせられた相手が遼ちゃんで、薫子が不安になっていることを分かっていたはずなのに......なんで私は、薫子にちゃんと連絡しなかったんだろう。
 あれ程仲が良くて、いつも一緒にいた親友だったのに......

 あの事件をきっかけに、秀一以外の誰とも話す気が無くなり、親友であるはずの薫子にでさえもそんな態度を取ってしまっていた自分自身に、美姫は憤りを感じていた。
  
 きっと、薫子は誰にも話すことなく、一人で悩み、苦しんでいるに違いない。
 早く会って、話を聞いてあげないと......

 美姫は、これから帰国すること、日本に着いたらすぐに連絡する旨を伝え、パソコンを閉じた。

「美姫、搭乗のアナウンスが流れましたよ。行きましょうか」

 秀一に促され、美姫はベンチを立った。
 
 搭乗口の窓から覗く空は暗雲が立ち込めており、今にも雨が降り出しそうだった。

 せめて、東京の空は晴れていて欲しい......

 美姫は小さく拳を握りしめて祈り、飛行機に乗り込んだ。
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