盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 16歳編

登校前

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 丸襟の細かな刺繍の施された白いシャツに袖を通し、小さくとも存在感抜群の、丸型に切り出された真っ赤なルビーが中央を飾るクラバットを首に通す。

 パニエを着用した上に、腰から足元にかけて白から淡い黄色へと変化するグラデーションが施された生地で仕立てられた踝丈のスカートを履く。

 焦茶色のボディスを締めたら、白地に黄色のラインが袖にあしらわれたダブルブレストのジャケットを羽織る。

 ダーツによる効果だけではない括れを強調する為に、または括れから下の裾をふわりと広げさせることで強弱を強調する為に付けられた背中側のボタンにより、全面のボタンを上から順に閉めていくにつれてジャケットが体のラインに沿ってピッタリと適合する。

 制服に合わせて真っ白な皮で作られた編み上げブーツに足を入れると、すかさずアンがブーツの黒い紐を結んでくれた。


 髪はハーフアップにするのが一番似合っているとアンから言われたけれど、それは『ローナ・リーヴェ』と全く同じ髪型なので予め断っておいた。

 なので、私の髪は櫛を通して香油を塗ってから、シニヨンにしっかりと結われる。

 仕上げに、赤い薔薇がモチーフの髪飾りをさして貰えばーー今日から始まる、『シンデレラの恋 ~真実の愛を求めて~』の舞台に挑む戦闘着の完成である。


「本日もとても素敵です、お嬢様」
「ありがとう」


 ……戦闘着は言いすぎかしら?
 でも私の心情としては、過言ではないのだから仕方がない。


 先日、リーヴェ邸に呼びつけたデザイナーと共に相談して構成された私だけの制服は、それなりの思惑を含んで完成した。


 去年から私たちが通っている『私立アーデル学園』には、大変珍しいことに制服が存在する。

 女子生徒に限った話だがーーアーデル学園では入学してから最初の一年間、ドイツの可愛い女性の民族衣装として有名な「ディアンドル」をモデルにしたような、しかしそれよりも露出面積の低い、王族の色である青を基調としたデザインの制服の着用を義務付けられるのだ。

 その理由として実しやかに囁かれるのは、制服を設けなければ際限なしに女子生徒、即ち貴族令嬢らが競い合って派手な装飾の、夜会用ドレスのようなものを着用して学園に登校するからでは、と言われている。

 学園に通う事の主目的は"学び"だが……暗黙の了解のである副目的の"出会い"に重きを置いてしまうとの懸念が後をたたないのである。


 前世のゲームの記憶がある私としては、日本で生まれた乙女ゲームであったが故に「学校=制服」の図式が前提として存在していたが為に、この世界では類を見ない特色である"制服のある学校"になったのだろう、と考えているのだけれど。


 そういう訳で、私立アーデル学園に通う女生徒は制服が指定されているのだがーー最初の一年以降は打って変わって、どんなドレスを着て行ってもいいとされている。

 一年生の時に義務付けられたドレスを基準に、学園での相応しい装いとは何かを己で判断して身につけてくることを求められるのだ。

 指定の制服を次の年にも着て行ってもいいのだけれど、貴族令嬢の社会とは大変面倒くさい事に、そうすると周りから口さがない令嬢らが好き勝手な噂を作り出す。

 やれ制服をアレンジするお金が無いだの、やれ野暮ったいドレスしか作れないだの。

 制服はそれなりに可愛いから気に入って着ていたいという子もいるだろうに、そういう風に煩く言われるのが嫌な伝統として受け継がれているので、程度の差はあれど、皆が何かしらのアレンジを加えていくのだ。


 セシル考案のフリフリドレスや、アンの『ローナのドレス』その物である考案を却下して通した自分の制服の考案は、前世でいう「ブレザー制服」だった。


 ゲームをプレイする際にヒロインの制服はデフォルトの状態、つまり指定制服のままで始まり、そこからイベントをこなしたり、売店で購入する事で手に入るアイテムでアレンジする事ができるのだが……私は常にデフォルトのままでプレイしていた。

 『街でデート』モードで活用する私服の着せ替えでなければ、ヒロインが着用している服によって攻略対象者の好感度に変動する事はなかったので、ただの収集要素であった制服のアイテムを、私は一切利用しなかった。

 それくらい、指定制服のデザインが好きだったのだ。


 だって普通に可愛いし。
 基調の色が青なのだけが問題で、それは黄色に変えてしまえば良いだけなので。

 でも色を変えるだけでは、制服チェッカーの令嬢らは満足してくれない。

 気に入っている元の形を崩さないように、しかし文句を付けられないようなデザインは、と考えて思い浮かんだのが、一枚羽織るだけで様相を変える"ブレザー制服風"だったのだ。


 首元を飾るクラバットは、元々男性貴族だけが身につける物だったが、ここ最近のハーン王国の女性貴族の間で大流行しているとの事で、デザイナーによって追加された。

 ジャケットという男性的なアイテムに合わせるには丁度良く、またクロイツ王国では最先端をいく業界人しか知らない流行を取り入れる事で、私が学園制服のインフルエンサーとなる事を期待されている。


「おはよう、ローナ……新しい制服も、とても良く似合っている。とても可愛い」
「おはようございます、兄さん。兄さんが可愛いと仰ってくれて良かった。今から自信を持って登校できます」


 廊下で出会した兄さんから褒め言葉を受け取って自信を得たーーと言っても、去年も全く同じ言葉を貰ったのだけれどーーことで、玄関で待っているだろうセシルのもとへ向かう足取りが軽やかなものになる。

 王都一の腕前を疑う訳じゃないけれどーー恋する乙女はいつだって、好きな人に会う前は自分の服がピエロのように思えてならないので。


「ローナ!」


 アンの誘導によって階段の手すりに手をかけたところで、玄関からセシルの声がした。

 途端、慌てて駆け寄る足音が聞こえ始め、段々と音が私に近づいてくる。


 カツ、と靴底が床を蹴る音が目の前で聞こえた。


「おはよう、セシル」
「おはよう……」


 挨拶の後に続くかと思われた私の名前は紡がれる事はなく、代わりに穴が開きそうな程に強い視線を全身に感じる。

 新しい服を着て見せて帰ってくる反応が黙りなのは、ちょっと怖い。セシルから言葉で何か、感想が欲しい。

 促す代わりにドレスの裾を持ち上げて、セシルに向けて軽く微笑んだ。


 すると、ドレスを摘んでいた手を取られて大きくて温かな手に包まれたかと思うと、甲に軽く触れるだけのキスが降ってきた。


「……驚いたな。これ以上君を愛するには人智を超えなければならいと思っていたのに、今日のローナを見たら容易く今まで以上に想いが連なった。どうして君は、こう毎日"可愛い"も"美しい"も更新してしまうんだろう」


 思っていた以上のセシルの返答に、火が灯るように頬が熱くなる。


「もう……大袈裟なんだから」


 私が照れ隠しで呟いた言葉に隠れてしまい、アンが小声で「真顔……」と囁いていたのには気が付かなかった。


「首に手を回して……このまま学園になど行かず、連れ去ってしまいたい」


 階段を下りる事など私としては慣れたものなのだけれど、セシルは不安がって、毎回こうして横抱きにして運びたがる。
 最初こそ恥ずかしいからと断っていたのだけれど……セシルから悲しみを滲ませた声色で心配だと告げられて断れる私はいない。


「また今度、連れ去ってね」
「ああ」


 人一人抱えているとは思えない程に安定しているセシルの歩みに安心して完全に身を任せ、肩に頭を付けて緩やかな振動に目を閉じる。

 セシルはきっと階段を下り終えたとしても、私を抱えたまま馬車まで行くつもりだろう。
 いつも通りの流れだ。


 体が傾くのは馬車に着いた合図も同然で、その通り、私は座席に下された。
 セシルが私の前に座したのに続き、私たちの後ろについていたアンが運んでくれた車椅子を馬車の中に積む。


「それではーー行ってまいります」
「「「行ってらっしゃいませ、ローナ様、セシル様」」」


 私の挨拶の何倍にもなって返ってきた声に微笑みを浮かべ、馬車の戸が閉まるまで見送りに来てくれた使用人たちに手を振り続ける。

 学校に行くだけなのに、毎朝たくさんの人が見送りに来てくれるのを申し訳なく思う反面ーーこれが貴族令嬢として当たり前なのだと受け入れられるようになったのは、果たして成長と言っていいのだろうか。

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