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25ディミトリー視点

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 その頃ディミトリーはすっかり気を落としていた。

 国王である父親からは、ステイシーを側妃にするのは認めないとはっきり言われた。

 そんな事知るものか。彼女がどんな生まれだろうと関係ない!

 僕にはステイシーが必要なんだ。僕の心を癒してくれる存在が…



 ディミトリーはたまらず王妃の部屋で働くステイシーを訪ねようと母のところに出向いた。

 「母上、ステイシーはどこです?」

 「ディミトリーこんな時間にどうしたのです。あなたは帰って来たばかり、仕事も溜まっているはずこんな所に来る暇はないでしょう?」

 「ですが母上、父上からもステイシーを側妃にすることは無理だと言われました。僕は知りませんでした。ステイシーが彼女がクーベリーシェ家ゆかりの女性だとは…ルヴィアナの義理の姉になるんです。母上はそうと知っていたのですか?」

 「それは本当なの?ああ…何てこと」

 クレアは大きくうなだれソファーに座り込んだ。



 「あれは…流行り病にかかった後で…あの時侍女も次々に倒れてこの部屋の世話をする侍女が亡くなったのは知っているでしょう?それで急きょステイシーはここに回されてきたのです…だから今まで知りませんでした。彼女もこのようなことになるとは…いえ、まさか…」

 クレアの口元が強張った。



 「母上どうされたのです?」

 「ディミトリー、あなたステイシーから言い寄られたの?もし彼女が積極的にあなたに近づいたなら、これは罠かも知れません。ルヴィアナは嫉妬深い女性です。もし義理の姉があなたとそのような関係になったと知ったらルヴィアナは絶対に結婚をやめると言い出すに決まっています。ああ…私としたことがそんな事に気づかなかったなんて…いいですかディミトリー。ステイシーの事は諦めなさい。あんな子の変わりは他にいくらでもいます。よく気が付いてあなたに優しくしてくれる女性は数え切れないほどいますから」

 クレアは頭痛がするとでも言いたげにこめかみを指先でマッサージする。



 ディミトリーは驚く。

 「ステイシーはそのような女性ではありません。彼女は僕と距離を置こうとしていました。そんなステイシーだから僕はひかれたのです。母上はおっしゃったじゃないですか。ステイシーを側妃にしてもいいと、まあ次期は結婚後になるのは仕方がないけれどと。一体何が問題なのです?生まれが伯爵家でないのがだめならどこかの伯爵家の養女として…いえ、側妃が無理なら籠妾でもいいんです。彼女をそばに置ければ僕はそれで…」

 ディミトリーはしつこく食い下がった。ステイシーがそばにいてくれればそれでいいと。



 「ディミトリーまだわからないのですか?そんな立場にステイシーが満足するとでも?あの子わざとあなたに取り入ったのよ。ルヴィアナに復讐するために、ずっとステイシーはクーベリーシェ家の人から疎外されていたのよ。それに何よりルヴィアナがそんなこと許すはずがないでしょう?そんな女をそばに置くと言われて彼女のプライドはズタズタに傷つくはず…それがどういう事になるか、あなたにはまだわからないのですか!」

 クレアはディミトリーを叱る。



 「ですが母上。僕はステイシーが好きなんですよ。この気持ちに嘘はない。僕はずっと小さいときから色々な事に制約を受けて来ました。王太子として振る舞うようにと…だからルヴィアナの婚約だって受け入れたんです。どんなにわがままで好き放題にするルヴィアナにもじっと我慢して来た。そんな僕がたった一つくらいわがままを言ってはいけないんですか?お願いです。母上からも父上に頼んでください。ステイシーを僕の籠妾でもいいから置いてもいいように…」

 ディミトリーは初めて心を奪われたステイシーの事を諦めるなんてできないと思った。だからしつこく母に頼んだ。



 「だめなものはだめなんです。それが出来ないから諦めなさいと言ってるのです。もう、話はありません。ステイシーはすぐに辞めさせます。これ以上クーベリーシェ家を怒らせるべきでないと言っているのです。わかったら仕事に戻りなさい。帰ったばかりで忙しいのはわかっているはずです。さあディミトリー行きなさい」

 「母上お願いします。ステイシーをやめさせるなんて、そんな事やめてください」

 ディミトリーは母にしつこく頼むが、一切取り合う暇もなく部屋を追い出された。



 ディミトリーは、その足で侍女が詰めている部屋に出向く。

 時間は午後3時過ぎ、今は侍女たちは休憩の時間だった。

 侍女の控え部屋のドアをノックする。

 「失礼する。ステイシーはいるか?」

 「はい、どなたで…」

 ドアを開けた侍女が驚く。

 「ディミトリー殿下…このようなところにどんな御用でしょうか?」

 「いや、驚かせたならすまない。ステイシーに会いたい。ここにいるか?」

 「はい、おります」



 ディミトリーはステイシーを呼び出すと一緒に中庭を通って人気のないところに連れ出した。

 「殿下、一体どうされたのです?私困ります。こんな事されたらみんなが何と言うか」

 「困らないさ。ステイシー君は僕との事どう思ってる?僕はルヴィアナが結婚を断ってきたらちょうどいいと思っているんだ。僕は君と結婚したい。ステイシーはどう?」

 「殿下、私の事はもうご存知ですよね?今まで黙っていましたがルヴィアナは義理の妹に当たるんです。私こんなことになってルヴィアナ様に恨まれます。ほんとにこんな事になるなんて考えてもいなかったんです。ただ殿下に惹かれる気持ちに嘘はありません。でも、こんなこといけません。私たちは一緒になどなれるはずがありません。そんな事をすれば…私…恐い」



 「何も恐れなくていい。ステイシーは僕を思う気持ちは本物なんだね?」

 「ええ、もちろんです。でもそれは許されません。どうかお許しください。殿下はルヴィアナ様と結婚して下さい。そうしなければ何を言われるか…」



 「大丈夫僕は何があっても君と結婚する。父にもそう言うつもりだ。だって僕は次期国王になる人間なんだ。誰にも僕の邪魔は出来ないさ。もしここにいるのが無理なら僕の所に来てもいい。そうだ。そうしよう。今から帰ったら荷物をまとめておいて、後で迎えに来る。侍女の仕事など辞めてしまえばいい。これからは僕のそばにいればいいんだ」

 「でも…」

 ステイシーがその先を言おうとした時ディミトリーの唇が重なった。

 甘い口づけにステイシーはめまいを起こしそうになる。

 ディミトリーがステイシーの背中っを抱きしめると彼の腕にしがみつくようにぎゅっとつかまった。



 「大丈夫。僕を信じて…さあ、行って…愛してる」

 「ええ、殿下…愛しています」

 ディミトリーはステイシーに荷物をまとめさせるため部屋に帰らせた。

 暗くなったらステイシーを王宮の外にある別邸に連れて行くつもりだった。

 

 ディミトリーは自分は王になるんだから、ステイシーの事もどうにでもなると考えていた。

 伯爵家の養女にして…いや、公爵家でもいい。そうすれば何の問題もない。ルヴィアナが結婚を断るならそれもいい。

 そうなれば晴れてステイシーと結婚出来るじゃないか。考えただけでもワクワクする。

 ディミトリーの未来はばら色に輝き始める。


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