9 / 47
8. 他人でしか、ないような
しおりを挟む
素肌でシーツを感じていると気づいて、私は身を起こした。
やっぱり、裸だった。
流れ落ちた髪の毛先が、肌に当たってくすぐったい。
起き上がったことで、身のうちからとろりと、あわいに垂れる感触があった。
ぬるくて、生々しい。
私、シリルに「出された」んだ。
子どもをつくるために、奥に……
そこまで考えて、顔が昨夜を思い出して一気に熱くなった。
身に慣れない寝具を胸元まで引き上げて、私は室内を見回す。
いたわ、私の──夫になった人。
シリルにとっては初夜なんてたいしたことなかったのかしら、もう端正に身だしなみを整えて、ティーテーブルでお茶をしている。
「あ、あなた……シリル様……?」
なにも私を抱きしめて朝を迎えろとは言わない。
でも、起こしてくれてもいいのに。
自分ばかり完璧に服を着て武装しているなんて、ずるい。
「ああ、おはよう。ダリア」
「いつから起きていたの?」
「夜明けには。朝は早くに起きる主義だから」
「起こしてくれても、よかったのに」
「なぜ?」
シリルはため息をカップに受け止めさせて、言い放つ。
「ぐっすり眠っていたから、起こさなかっただけ」
カップに口つける動作を淀ませず、シリルのはお茶を口にする。
(え? 冷たい?)
私にとっては離婚目的の子づくりだった。
けど、昨夜の彼は協力的で、行為は……やさしかったのに。
「そろそろ、朝食だ。自分で服を着るか、使用人に着せてもらって」
この、態度の落差。
昨日の『子づくり』はただの作業だったって、言われているみたい。
私にだって昨夜のは『子づくり』でしかなかったから、その資格はないのだけど、胸にシク、と痛む。
モーニングルームで朝食をとる間も、シリルは一言も口をきかない。
話しかけてくれないかな、と視線を送っても、一瞥もくれず、流麗な動作で切り分けた食事を運ぶだけ。
公爵家の朝食は、それは豪勢だったけど、私は味がわからなかった。
話しかけるきっかけが掴めない。
「話しかけてくるな」という威圧すら感じる。
仕事にいくシリルを、見送るときも。
彼は「行ってくる」だけで済ませさっさと行ってしまった。
振り返りもしなかった。
˚˙༓࿇༓˙˚
日中、私は公爵家での生活に慣れるため広い館で使用人から案内を受けた。
丁寧に対応されるけど、使用人たちは他人行儀だし、誰も話しかけてこない。
この館で居所がなくて、私は夫婦の寝室内をただうろうろしてばかり。
ドレスの仕立てのために仮縫いに呼ばれて、時間を取られて、かえってよかったくらい。
あっという間に夜がきた。
でも、シリルは夕食の席でも朝食と同じ調子を貫いた。
静寂の夕食は、料理すら冷めて感じさせる。
もう、なんだというのかしら。
私の身体……、抱き心地が良くなかったとか?
それはそれで自信をなくすわ……。
もし、昨日きりで「子づくりしない」と言われたらどうしよう。
気持ちが、ぐちゃぐちゃ。
だから、夫婦の寝室に来たシリルに、食い入るように尋ねた。
「シリル様、昨日の話を忘れていないですよね?」
肩をすくめて彼は、曖昧に微笑む。
「話って、子どもができたら君を自由にさせる話?」
「そう!」
シリルはうんうん、と二回頷いて「覚えているよ」と言った。
伸びた腕が、私の腰を抱き寄せる。
「初夜は過ごしたけど、一回で妊娠が成立することってあまりないからね。回を重ねなきゃ」
ほつれて顔にかかっていた髪を指にかけて避け、シリルの唇が私の耳元に近づく。
息がかかりそう。
「今晩も」
囁きは、昨夜と同じ甘さで。腰から力が抜ける。
そのまま、シリルに身を任せて、『子づくり』に床に入った。
日中からは考えられない、甘い接し方とうねるように与えられる快楽。私は彼に啼かされて、二夜目を過ごしてしまった。
˚˙༓࿇༓˙˚
それから、『回を重ね』てもシリルに変化はなかった。
ずっと彼のペースだ。
平静で冷静。
私のことは、やっぱり血筋目当てだから淡々としているんじゃないかしら。
時折、一歩を詰めたくなる。
けどそんなことをする理由がない、そう気づいて、踏みとどまる。
でも……私たちの関係は夜だけは。
甘く情熱的だ。
溶かされて呑み込まれて、シリルの中に収められてしまいそう。
シリルは私の髪と肌の感触を、嬌声を、我を失った痴態を欲しがる。
そのたび、私は潔癖で無垢な少女性をもぎとられ、シリルの導きで大人の、閨事の神秘に触れていった。
やっぱり、裸だった。
流れ落ちた髪の毛先が、肌に当たってくすぐったい。
起き上がったことで、身のうちからとろりと、あわいに垂れる感触があった。
ぬるくて、生々しい。
私、シリルに「出された」んだ。
子どもをつくるために、奥に……
そこまで考えて、顔が昨夜を思い出して一気に熱くなった。
身に慣れない寝具を胸元まで引き上げて、私は室内を見回す。
いたわ、私の──夫になった人。
シリルにとっては初夜なんてたいしたことなかったのかしら、もう端正に身だしなみを整えて、ティーテーブルでお茶をしている。
「あ、あなた……シリル様……?」
なにも私を抱きしめて朝を迎えろとは言わない。
でも、起こしてくれてもいいのに。
自分ばかり完璧に服を着て武装しているなんて、ずるい。
「ああ、おはよう。ダリア」
「いつから起きていたの?」
「夜明けには。朝は早くに起きる主義だから」
「起こしてくれても、よかったのに」
「なぜ?」
シリルはため息をカップに受け止めさせて、言い放つ。
「ぐっすり眠っていたから、起こさなかっただけ」
カップに口つける動作を淀ませず、シリルのはお茶を口にする。
(え? 冷たい?)
私にとっては離婚目的の子づくりだった。
けど、昨夜の彼は協力的で、行為は……やさしかったのに。
「そろそろ、朝食だ。自分で服を着るか、使用人に着せてもらって」
この、態度の落差。
昨日の『子づくり』はただの作業だったって、言われているみたい。
私にだって昨夜のは『子づくり』でしかなかったから、その資格はないのだけど、胸にシク、と痛む。
モーニングルームで朝食をとる間も、シリルは一言も口をきかない。
話しかけてくれないかな、と視線を送っても、一瞥もくれず、流麗な動作で切り分けた食事を運ぶだけ。
公爵家の朝食は、それは豪勢だったけど、私は味がわからなかった。
話しかけるきっかけが掴めない。
「話しかけてくるな」という威圧すら感じる。
仕事にいくシリルを、見送るときも。
彼は「行ってくる」だけで済ませさっさと行ってしまった。
振り返りもしなかった。
˚˙༓࿇༓˙˚
日中、私は公爵家での生活に慣れるため広い館で使用人から案内を受けた。
丁寧に対応されるけど、使用人たちは他人行儀だし、誰も話しかけてこない。
この館で居所がなくて、私は夫婦の寝室内をただうろうろしてばかり。
ドレスの仕立てのために仮縫いに呼ばれて、時間を取られて、かえってよかったくらい。
あっという間に夜がきた。
でも、シリルは夕食の席でも朝食と同じ調子を貫いた。
静寂の夕食は、料理すら冷めて感じさせる。
もう、なんだというのかしら。
私の身体……、抱き心地が良くなかったとか?
それはそれで自信をなくすわ……。
もし、昨日きりで「子づくりしない」と言われたらどうしよう。
気持ちが、ぐちゃぐちゃ。
だから、夫婦の寝室に来たシリルに、食い入るように尋ねた。
「シリル様、昨日の話を忘れていないですよね?」
肩をすくめて彼は、曖昧に微笑む。
「話って、子どもができたら君を自由にさせる話?」
「そう!」
シリルはうんうん、と二回頷いて「覚えているよ」と言った。
伸びた腕が、私の腰を抱き寄せる。
「初夜は過ごしたけど、一回で妊娠が成立することってあまりないからね。回を重ねなきゃ」
ほつれて顔にかかっていた髪を指にかけて避け、シリルの唇が私の耳元に近づく。
息がかかりそう。
「今晩も」
囁きは、昨夜と同じ甘さで。腰から力が抜ける。
そのまま、シリルに身を任せて、『子づくり』に床に入った。
日中からは考えられない、甘い接し方とうねるように与えられる快楽。私は彼に啼かされて、二夜目を過ごしてしまった。
˚˙༓࿇༓˙˚
それから、『回を重ね』てもシリルに変化はなかった。
ずっと彼のペースだ。
平静で冷静。
私のことは、やっぱり血筋目当てだから淡々としているんじゃないかしら。
時折、一歩を詰めたくなる。
けどそんなことをする理由がない、そう気づいて、踏みとどまる。
でも……私たちの関係は夜だけは。
甘く情熱的だ。
溶かされて呑み込まれて、シリルの中に収められてしまいそう。
シリルは私の髪と肌の感触を、嬌声を、我を失った痴態を欲しがる。
そのたび、私は潔癖で無垢な少女性をもぎとられ、シリルの導きで大人の、閨事の神秘に触れていった。
135
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる