【R18•完結】「子どもさえできれば自由にしていいから」と言った夫が執着溺愛して離婚してくれません

紀ノこっぱ

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25.宝石細工缶の、特別なお茶2

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「おかえりなさいませ、ダリア様」

 家に帰り着くと、取り込んだリネン類を運ぶフィンと鉢合わせた。

「あ、っと、と」
「あぶない!」

 たくさん積み重ねていて、傾いたリネンの塔を支える。

「ありがとうございます! お手を煩わせてしまいました」
「これくらいのこと……」

 なんでもないわと微笑んだのに、フィンは真剣な表情で私と目を合わせて見つめあう。

「どうかした?」
「ダリア様の瞳、ほんとうに水精霊と同じだなって思って」
「え……? なんでそんなことを?」

 同じって、フィンは水精霊を見たことがあるのかしら。
 疑問が顔に出ていた私に、フィンは笑ってみせる。

「私、水精霊に会ったことがあるんです。溺れていたのを助けてもらって……だから、知っているんです。ダリア様も、同じ瞳。キレイな、湖沼の水色で、懐かしくなっちゃいました」
「水精霊が、あなたを……」

 抱えたリネン類があるから、目礼してフィンは廊下の奥に消えた。
 精霊は滅多に人に干渉しない。でも、フィンを助けたのだ、水精霊は……。
 レミントンにはもはや何することもなかった、衰退して力を振るえなくなったとレミントン家もみんなも思っていた。

(でも、違うのかしら)

 考えながら進んでいたせいで、うっかり居室の前を通り過ぎてしまったのだった。


 ˚˙༓࿇༓˙˚ 


 湯浴みのあと、ナイトガウン姿で私はマニョリア様にいただいたお茶を淹れる支度をする。

「今日は見た目でも楽しめるお茶なんですって」
「それは楽しみだね」

 テーブルにティーセット一式を持って行き、頃合いを見計らってティーカップに注ぐ。

「わあ、キレイだわ」
「うん、こんなお茶ははじめてだよ」

 茶葉の時はぜんぜんわからなかったけれど、湯で温められることによって茶葉の中に混ざっていた花がお茶の中で開いたのだ。

 お茶の上に、金木犀に似た青い小花がたくさん浮いている。

「カップ中にできた花畑を飲むようだね」

 私は、喜んでカップに口付けるシリルが見られて幸せ。
 満ち足りた気持ちで、お茶を口に運んで、花の蜜の香りに舌鼓を打つ。
 喉を滑り、胸を温かにしてくれるお茶だわ。

「お茶の間に、朝の話の続きをしようか」

『水精霊の加護』について。
 シリル、私が気にしていたこと、忘れないでいてくれたんだ。
 カップを置いて話を聞くことにした。
 のだけど、話に身が入っていかない。
 なんだか……お腹のあたりがぽかぽか、熱い。

 お茶の、効能かしら。
 熱くて、はあはあと、息が漏れる。
 ぐらつきそうになった体を支え、ぐっと前を見ればシリルも口元に手をやっていた。
 彼も異変を感じている?

「……ダリア、このお茶、ペンネ夫人なにか言っていなかった? お茶の効能とか」
「言ってたというか。『子どもができやすくなるお茶』で。マニョリア様そういうものも知っているって前におっしゃっていて……」

 シリルが、額に手を当てている。嘆かわしいと、言わんばっかりに。

「ダリア、それってさ……媚薬って言うと思わない?」
「び! 媚薬!?」

 とんでもない単語が出てきて、びっくりよ。
 だって私、そういうつもりでマニョリア様に頼んだんじゃない。
 子どもができやすい体に、体質改善するつもりだっただけなのに!?

「ちょっとはそういうの期待できるだろうけど……まずはシなきゃできないんだから、シたくさせるんだと思うよ……」

 シリルが、私の手首をつかんで目を合わせてくる。
 いつも澄んでいる瞳に、急いた情熱を宿して。

「君も、僕も」

 シリルの視線だけで、炙られているみたいに熱い。

「あ……やだ、そういう? 私そういうふうに考えてなくって」

「今回は考えが足りなかったね、ダリア」

 振り払うように首を振ったシリルは切なそうな声をあげる。

「──っ。ああ……嘘だろ……すごく効いてきてる──」

 私を捉える紫の瞳が、理性と情熱の間で揺れている。 
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