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エピローグ ─ 自由になった君は─
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陽の射すテラスに腰かけ、私は整然と並ぶ木々をのんびり眺める。
かつての私は、自由になることを望んでいた。
親や、結婚相手に血筋だけでみられて利用されるんじゃなく、自分の勉強した結果を活かして生きていくことを。
そして、いま私は自由になった。けど──
隣には、シリルもいる。
シリルは私にパスコヴィラダ家の持つ荘園運営を任せてくれた。
元は自由になってからの生業にしようと学んでいたことだったけど、結婚を継続したまま、パスコヴィラダ夫人として知識を役に立てている。ただ彼に寄りかかって生きていくんじゃないことは、密かに誇らしい。
膝に置いていた封筒をとって、手紙をめくった。アルジェンの丸っぽくて可愛らしい文字で、私への言葉が綴られている。
「あら、アルジェンまた活躍してきたみたい。国王様もいっしょに。二人で国民に熱狂されているのね」
「ちょっと度が過ぎた人たちがお城に押しかけてくることが増えたから、困るんだけどね。警備の費用がかかる」
皮肉った調子で返してきたけれど、シリルも表情が優しい。
きっと近い将来、彼女は王妃として受け入れられるだろう。
私の願った、『血筋に縛られない世界』は着実に芽生えはじめている。
「ダリア、愛しているよ」
「私も、あなたをとっても愛しているわ」
「年季が入っているのは僕の方だから」
「競わないでよ。それなら私が負けてしまうけれど、悔しいわ。あなたを愛しているってことを侮られるのは」
「侮りなんかしない。……うれしいよ」
「ねえ、シリル」
私は彼に問いかけた。ずっと引っかかっていたことを今なら聞いていいかと思えたのだ。
「結婚した日の……『子どもさえできれば君の自由にしていいから』って言ったあれは、本気だったの?」
私の視線をしっかり受け止めたシリルは、頷く。
「本気ではあったよ」
「なんですって!?」
驚く私を見て、シリルは苦笑する。
「だって──自由になった君に僕を選んでほしかったから」
「え……?」
「君を閉じ込めて、僕だけ見ないようにして愛してもらう、そんな方法もあったんだろうけど……それは嫌だったんだ。僕はもっと、もっと欲深かった。自由に、すべてを手に入れられる君に選んでもらうこと、それが僕の望みだった」
「ま、まあ……それは壮大ね」
「もし叶わなかったら……君が自由に羽ばたいて戻ってこなかったら、僕は生きていられなかったかもね。もしそうとしても、君の選んだ自由に従っただろう」
「そんな……! そんなのはだめ」
「大丈夫、叶ったからね。君は僕を選んでくれたから」
シリルの手が、私のお腹にそっと触れた。そこにはもう一つの未来が芽生えている。
「だからもう離婚はしてあげられないよ?」
「それでいいわ」
彼の耳に唇を寄せて、私は彼に囁きかける。秘密を明かすように、やさしく響くといい。
「君は自由で、どこにだって行ける。けど……帰ってくる場所はここだ。僕のそばだよ」
「ええ」
私は手にした自由で、シリルと──そして、やがて生まれる彼との子どもと生きていく。
そう選んだ。
自由であることはこの先もずっと続くけど、何度だってこの人を選び続ける。
見つめたライラックの瞳の中に映る水色に、私は自信を持って笑いかけた。
これが私の自由の行方。
かつての私は、自由になることを望んでいた。
親や、結婚相手に血筋だけでみられて利用されるんじゃなく、自分の勉強した結果を活かして生きていくことを。
そして、いま私は自由になった。けど──
隣には、シリルもいる。
シリルは私にパスコヴィラダ家の持つ荘園運営を任せてくれた。
元は自由になってからの生業にしようと学んでいたことだったけど、結婚を継続したまま、パスコヴィラダ夫人として知識を役に立てている。ただ彼に寄りかかって生きていくんじゃないことは、密かに誇らしい。
膝に置いていた封筒をとって、手紙をめくった。アルジェンの丸っぽくて可愛らしい文字で、私への言葉が綴られている。
「あら、アルジェンまた活躍してきたみたい。国王様もいっしょに。二人で国民に熱狂されているのね」
「ちょっと度が過ぎた人たちがお城に押しかけてくることが増えたから、困るんだけどね。警備の費用がかかる」
皮肉った調子で返してきたけれど、シリルも表情が優しい。
きっと近い将来、彼女は王妃として受け入れられるだろう。
私の願った、『血筋に縛られない世界』は着実に芽生えはじめている。
「ダリア、愛しているよ」
「私も、あなたをとっても愛しているわ」
「年季が入っているのは僕の方だから」
「競わないでよ。それなら私が負けてしまうけれど、悔しいわ。あなたを愛しているってことを侮られるのは」
「侮りなんかしない。……うれしいよ」
「ねえ、シリル」
私は彼に問いかけた。ずっと引っかかっていたことを今なら聞いていいかと思えたのだ。
「結婚した日の……『子どもさえできれば君の自由にしていいから』って言ったあれは、本気だったの?」
私の視線をしっかり受け止めたシリルは、頷く。
「本気ではあったよ」
「なんですって!?」
驚く私を見て、シリルは苦笑する。
「だって──自由になった君に僕を選んでほしかったから」
「え……?」
「君を閉じ込めて、僕だけ見ないようにして愛してもらう、そんな方法もあったんだろうけど……それは嫌だったんだ。僕はもっと、もっと欲深かった。自由に、すべてを手に入れられる君に選んでもらうこと、それが僕の望みだった」
「ま、まあ……それは壮大ね」
「もし叶わなかったら……君が自由に羽ばたいて戻ってこなかったら、僕は生きていられなかったかもね。もしそうとしても、君の選んだ自由に従っただろう」
「そんな……! そんなのはだめ」
「大丈夫、叶ったからね。君は僕を選んでくれたから」
シリルの手が、私のお腹にそっと触れた。そこにはもう一つの未来が芽生えている。
「だからもう離婚はしてあげられないよ?」
「それでいいわ」
彼の耳に唇を寄せて、私は彼に囁きかける。秘密を明かすように、やさしく響くといい。
「君は自由で、どこにだって行ける。けど……帰ってくる場所はここだ。僕のそばだよ」
「ええ」
私は手にした自由で、シリルと──そして、やがて生まれる彼との子どもと生きていく。
そう選んだ。
自由であることはこの先もずっと続くけど、何度だってこの人を選び続ける。
見つめたライラックの瞳の中に映る水色に、私は自信を持って笑いかけた。
これが私の自由の行方。
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ストレス少なく、甘さを楽しめるお話を目指していたので、
そう言っていただけて本当に嬉しいです!
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ありがとうございました!