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過保護な悪魔
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角が見える。天に伸びるように、鋭く尖った黒い角が。
長い黒髪はサラサラで、スラリと背の高いその人はう〇こ座りをして、人外の美貌を情けない表情にして私を見ていた。
「あー、僕はロジェ。悪魔で、種族は黒龍なんだ。君は?えっと、年は?」
落ち着いた声は耳に心地いい。
「私は、リュシー。十二歳」
「………うん、後、四年だ。頑張れ僕!」
なぜか拳を握りしめたロジェを見て首を傾げたが、それよりも私は未だ、生きている。
「あの、ロジェ?私を食べないの?」
「食べ?!いや、食べない!食べないよ!いや、食べないけど、あ、愛しても良いならその…」
ぼわっと顔を赤くするロジェは俯き頭を振った。ちょっと挙動不審だ。
ロジェは自分が悪魔界に生まれた黒龍であると話てくれた。龍種には番がいて、自然と愛し合って番になる者も居れば、この生き物の魂を気に入ると龍種の直感から見出した者を番とする者と、番の規定は人それぞれだが、なぜかロジェは惹かれる者に出会う事無く成人を過ぎ、次第に心を壊し狂ってしまうのを待つばかりの状態になって居たと。
ロジェが狂ってしまうのは嫌だと胸がざわついた。現在、私の前にいる泣き虫な龍は優しい眼差しを私に向けてくれる。悪魔なのに私を食べないし、この優しい悪魔が狂って無くて良かったと思った。
でも…
「ねぇ?ロジェはこれから狂ってしまうの?私を抱っこしてくれなくなっちゃうの?そんなの嫌だわ…私寂しくて…ううっ」
一人ぼっちになる自分を想像するとロジェを知る前の自分よりもっと辛い気がする。しくしく痛み出した胸が苦しくて涙が滲んだ。
「大丈夫、だから。悲しまないで、リュシー」
痛みをこらえた顔でロジェが言った。
「もう僕が狂ってしまう事は無いんだよ。」
「本当に?あぁー、良かった!」
にこにこと笑ってそう言った。ほっとして、ぎゅっと抱きついたロジェの胸からドッドと音がする。なんだか落ち着く。
ぴとっと引っ付いてじっとしていた。
それから三日たったお昼。
私は祖父にばったり出会った。
「おじい様?」
来るなんて誰も言わなかったし、継母が私にいつも通り嫌味をぶつけて掃除に追いやっている時に出くわすなんてとても珍しい。
おじい様を見つけた継母が「ひぃ!?な、どうして」と悲鳴をあげるのを見て、あぁ、なるほど。継母もおじい様が来る事を知らなかったのかと納得した。
「リュシー、リュシー!すまない。お前がこんな目にあってるのを見抜けず!
………あぁ、愚かなわしを許しておくれ」
「おじい様………」
抱っこが好きな祖父がもう私を抱っこ出来なくなったのは私が大きくなったから。だけど、それだけじゃ無い。腰を痛めて膝が悪くなった祖父は昔よりも小さくなっていた。忙しいのも、ここから辺境のおじい様の領地とか離れている事も知っている。きっと腰が痛いのに竜馬車を使ってくれたんだ。竜馬車は国に通行税を多く払わなければならない。馬車自体も一度使えば直ぐに壊れてしまうくらい振動が来る。
要塞都市である、トーネソルを治めるトーネソル公爵であるおじい様は忙しくて年に一度のお誕生日でしか会えない。
その日ばかりは綺麗なドレスを着て、日頃話しかけてくれなくなっていた継母も人が変わった様に何くれと無く世話を焼くからおじい様は良い後妻を迎えてくれたと喜んでいた。だから事業があまり上手くいっていない我が家に多額の支援をしてくれているのだ。
そんな訳で継母は誕生日にだけ私のドレスを仕立ててくれていた。
きっと私の部屋はあのままで、誕生日になると使用できるのだろうと、小銭になりそうなレースのハンカチ以外、祖父母から貰ったドレスや貴重品は汚さないように全て置いてきてしまって。
だから私はあの悪魔の黙示録なんて本をインテリア代わりに買ったのだ。がらんとした部屋が寂しすぎて。
「どうして、まさか、リュシーが!!」
真っ青になった継母が私を睨みつけ何かを言う前に、おじい様は有能な執事と弁護士の先生に「後は任せたぞ。」と言って私を馬車に乗せてくれた。
「リュシー!ま、待って!今日は、今日はあなたがイタズラばかりするから、だからお母様がお叱りになって掃除をしていたのよね!?ねぇ、そうだと─」
義姉が馬車の外から、大きな声で、縋るような眼差しでそう言った。けれど、おじい様の護衛の騎士に制止され屋敷に戻されている。
「失礼、お下がりください」
と言っては義姉の背を押す騎士の声はちょっと冷たい。
「ちゃんとわかっている。昨日、先行して密偵を放ち、ちゃんと調査をしていたんだ。」
「そう…ありがとうございます。おじい様」
ちょっと滲んだ涙をおじい様は謝罪しながら拭き取ってくれた。
私をおじい様の元にやる事にしたのだろう悪魔は、馬車の屋根から「あんな家に置いておけないからな」と言っているようだ。
なるほど、ロジェのおかげかと納得した。
今の扱いを祖父に伝える手段はあったけど、継母が全て握りつぶしているのに気が付いて、直ぐに諦めてしまっていた。
心が折れたし、やさぐれてしまったのかめしれない。私は大きくなったら家を出ようと王宮の侍女や神殿など、独身の貴族令嬢が就ける職業を探していた。
けれどロジェ曰く、貴族の令嬢ってのは大抵、父親の駒として政略結婚するものだと聞いて、それは嫌だとべそをかいた。だから、こうなったのだろう。
おじい様なら私を私の意思に反するほど嫌な相手にはやらないかな?と思う。
母が死に際に娘をお願いしますとおじい様に言っていたらしくて、おじい様はもっとたくさん会いに来ればと悔やんでいるけれど。
私はお母様に気にしてもらっていた事に驚いていた。
そっか、お母様は私の事を心配して下さっていたんだ。
長い黒髪はサラサラで、スラリと背の高いその人はう〇こ座りをして、人外の美貌を情けない表情にして私を見ていた。
「あー、僕はロジェ。悪魔で、種族は黒龍なんだ。君は?えっと、年は?」
落ち着いた声は耳に心地いい。
「私は、リュシー。十二歳」
「………うん、後、四年だ。頑張れ僕!」
なぜか拳を握りしめたロジェを見て首を傾げたが、それよりも私は未だ、生きている。
「あの、ロジェ?私を食べないの?」
「食べ?!いや、食べない!食べないよ!いや、食べないけど、あ、愛しても良いならその…」
ぼわっと顔を赤くするロジェは俯き頭を振った。ちょっと挙動不審だ。
ロジェは自分が悪魔界に生まれた黒龍であると話てくれた。龍種には番がいて、自然と愛し合って番になる者も居れば、この生き物の魂を気に入ると龍種の直感から見出した者を番とする者と、番の規定は人それぞれだが、なぜかロジェは惹かれる者に出会う事無く成人を過ぎ、次第に心を壊し狂ってしまうのを待つばかりの状態になって居たと。
ロジェが狂ってしまうのは嫌だと胸がざわついた。現在、私の前にいる泣き虫な龍は優しい眼差しを私に向けてくれる。悪魔なのに私を食べないし、この優しい悪魔が狂って無くて良かったと思った。
でも…
「ねぇ?ロジェはこれから狂ってしまうの?私を抱っこしてくれなくなっちゃうの?そんなの嫌だわ…私寂しくて…ううっ」
一人ぼっちになる自分を想像するとロジェを知る前の自分よりもっと辛い気がする。しくしく痛み出した胸が苦しくて涙が滲んだ。
「大丈夫、だから。悲しまないで、リュシー」
痛みをこらえた顔でロジェが言った。
「もう僕が狂ってしまう事は無いんだよ。」
「本当に?あぁー、良かった!」
にこにこと笑ってそう言った。ほっとして、ぎゅっと抱きついたロジェの胸からドッドと音がする。なんだか落ち着く。
ぴとっと引っ付いてじっとしていた。
それから三日たったお昼。
私は祖父にばったり出会った。
「おじい様?」
来るなんて誰も言わなかったし、継母が私にいつも通り嫌味をぶつけて掃除に追いやっている時に出くわすなんてとても珍しい。
おじい様を見つけた継母が「ひぃ!?な、どうして」と悲鳴をあげるのを見て、あぁ、なるほど。継母もおじい様が来る事を知らなかったのかと納得した。
「リュシー、リュシー!すまない。お前がこんな目にあってるのを見抜けず!
………あぁ、愚かなわしを許しておくれ」
「おじい様………」
抱っこが好きな祖父がもう私を抱っこ出来なくなったのは私が大きくなったから。だけど、それだけじゃ無い。腰を痛めて膝が悪くなった祖父は昔よりも小さくなっていた。忙しいのも、ここから辺境のおじい様の領地とか離れている事も知っている。きっと腰が痛いのに竜馬車を使ってくれたんだ。竜馬車は国に通行税を多く払わなければならない。馬車自体も一度使えば直ぐに壊れてしまうくらい振動が来る。
要塞都市である、トーネソルを治めるトーネソル公爵であるおじい様は忙しくて年に一度のお誕生日でしか会えない。
その日ばかりは綺麗なドレスを着て、日頃話しかけてくれなくなっていた継母も人が変わった様に何くれと無く世話を焼くからおじい様は良い後妻を迎えてくれたと喜んでいた。だから事業があまり上手くいっていない我が家に多額の支援をしてくれているのだ。
そんな訳で継母は誕生日にだけ私のドレスを仕立ててくれていた。
きっと私の部屋はあのままで、誕生日になると使用できるのだろうと、小銭になりそうなレースのハンカチ以外、祖父母から貰ったドレスや貴重品は汚さないように全て置いてきてしまって。
だから私はあの悪魔の黙示録なんて本をインテリア代わりに買ったのだ。がらんとした部屋が寂しすぎて。
「どうして、まさか、リュシーが!!」
真っ青になった継母が私を睨みつけ何かを言う前に、おじい様は有能な執事と弁護士の先生に「後は任せたぞ。」と言って私を馬車に乗せてくれた。
「リュシー!ま、待って!今日は、今日はあなたがイタズラばかりするから、だからお母様がお叱りになって掃除をしていたのよね!?ねぇ、そうだと─」
義姉が馬車の外から、大きな声で、縋るような眼差しでそう言った。けれど、おじい様の護衛の騎士に制止され屋敷に戻されている。
「失礼、お下がりください」
と言っては義姉の背を押す騎士の声はちょっと冷たい。
「ちゃんとわかっている。昨日、先行して密偵を放ち、ちゃんと調査をしていたんだ。」
「そう…ありがとうございます。おじい様」
ちょっと滲んだ涙をおじい様は謝罪しながら拭き取ってくれた。
私をおじい様の元にやる事にしたのだろう悪魔は、馬車の屋根から「あんな家に置いておけないからな」と言っているようだ。
なるほど、ロジェのおかげかと納得した。
今の扱いを祖父に伝える手段はあったけど、継母が全て握りつぶしているのに気が付いて、直ぐに諦めてしまっていた。
心が折れたし、やさぐれてしまったのかめしれない。私は大きくなったら家を出ようと王宮の侍女や神殿など、独身の貴族令嬢が就ける職業を探していた。
けれどロジェ曰く、貴族の令嬢ってのは大抵、父親の駒として政略結婚するものだと聞いて、それは嫌だとべそをかいた。だから、こうなったのだろう。
おじい様なら私を私の意思に反するほど嫌な相手にはやらないかな?と思う。
母が死に際に娘をお願いしますとおじい様に言っていたらしくて、おじい様はもっとたくさん会いに来ればと悔やんでいるけれど。
私はお母様に気にしてもらっていた事に驚いていた。
そっか、お母様は私の事を心配して下さっていたんだ。
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