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キャーラの嫁入り(1)

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誰かぁー!?嘘だと言って!

私には前世の記憶らしき物がある。
とは言っても、美人の姉に嫉妬して、対抗意識を燃やしてぶりっ子をしていた様な極々残念な頭の女の子の記憶だ。

高校一年の夏に交通事故で亡くなった私だけど、なんでかその記憶を持ったままこの世界の侯爵家の令嬢に産まれてしまった。
あれ?記憶ってこの世界の人はもしかしてみんな持って産まれて来るものなの?なんて思っていたけれど。どうやら違うらしい。


私に、前世の記憶が何故あるのか。それを知ったのは母に抱かれ、教会に慰問に行った時だ。
教会に行き、祈りを捧げている時にそれは起きた。
キラキラと輝く光が私に降り注いだのだ。
びっくりだった。その光は女神の加護ってやつらしい。女神はキャーラを特別愛して下さっているのね。と母が興奮していたけど。私はその時はっきりと女神の声を聞いたのだ。
『愛しき娘よ。ソナタの美しく輝く魂はこの世界で生きる喜びを感じる事によって、この世界を守る力となる。魂の疲弊が著しく、ソナタは輪廻にて浄化を受ける事に耐えきれないからな。この地で愛を糧に癒されると良い。多くの精霊や妖精に愛され、多くの人間達から慈しみ、愛される様、妾の美を分け与えているのだ。どうかこの世界を愛してやっておくれ。そしてどうかこの世界を守ってやって欲しい。』

漸く歩ける様になったばかりの幼児に何を言うのよ。脳の発育は肉体の能力に引きづられちゃうから何を言われたのかなんて理解出来ないのに!

まぁ、良いや。この世界を好きになってね?この世界を私が愛する事が世界を守る力になるんだー。みたいな感じだったと思う。大丈夫。私この世界好きだよ。キラキラしててとっても綺麗なんだもん。
でも、なんで私が世界を愛すると世界を守る力になるの?

『この世界を守る精霊や妖精の力が弱まって来ておるのじゃ。精霊や妖精の力が弱まれば大地は衰え、空気は淀み、相反する様に魔物達はその力を増す。ソナタの魂の輝きは精霊達に力を与える。愛をしり更に魂が輝けばその力は増幅される。』

この世界の空気が淀んでいるなんて驚きだ。
私にはこの世界が輝いて見えていた。
煌めく夜空には青い精霊が居て、世界に休息を与え、銀の精霊は青い帳が降りたら空を優しく照らすのだ。
そして一際美しい、煌びやかな黄金の月は光のベールを纏っている。

教会から帰ると、二歳児の私はお眠の時間になって、すやすやとお昼寝をして。

目が覚めると部屋には青い精霊が居て、私に元気を貰いに来たと言った。
なるほど。でも、彼にどうやって元気をあげたら良いの?

精霊は笑顔を見せてと言う。

私は箸が転げても面白く感じるお年頃だったけど。何も無いのに本気で笑えそうに無い、と言うと精霊がちっちゃな妖精をたくさん呼んだ。妖精が私の手を取り踊り出す。ヤダ楽しい!

それからは、青い精霊と一緒に銀の精霊もやって来て私と遊んでくれる様になった。
結界を張ってくれるから、みんなでドッタンバッタンと暴れたって平気。

そんなある時、私は女神の言葉の断片を思い出した。『妾の美を分け与えているのだ』ってヤツだ。

あれは私が三歳の時。初めて鏡を見た時だった。

鏡に人外美幼女が映っていたのだ。
しかも私が手を動かせば鏡に映る美幼女も手を動かしていて。うん、これは私だね。そう理解してびっくりした。
両親は確かに美男美女だし、兄も美形だ。でもコレはなんか違う。
人では有り得ない様な、異様なまでの美貌だったのだ。
私美幼女だった!!そんな事実を知って私は浮かれた。

ちょっと調子に乗って愛想を振り撒いて人々の反応を見てニマニマしてみたり、ちょっと調子に乗ってオネダリをしたりと。
本当に、調子に乗っていた。
だって、前世ではいくら可愛らしく笑おうと無視されるのが関の山。姉なら絶対に可愛い、可愛いって言われただろうけど。前世の私は母を散々嫁いびりしていた祖母とそっくりな平凡顔だった。
美しい母や姉を殊の外大切にしていた父は、私には無関心だった。

だから、人に関心を持ってもらえる事が嬉しくって仕方なかった。

今世の両親や兄は私が笑えば嬉しそうに笑ってくれて、私を可愛いと言ってくれるのだ。

だけど、直ぐに後悔する事になった。

何だか侍女ダナの様子がおかしい。

いつもは冷静で有能な侍女が、お嬢様至上主義になってしまった様な。
そんな感じに見えるのだ。

私が何をしても、何を言っても、恥を忍んで癇癪を起こしてみても、はい喜んで!!とか、お嬢様は何をなさっていても可愛らしいですわ!とか言い出すのだ。

私が言えば大抵の事は叶えられてしまう勢いだ。

両親や兄も私を叱らないし、私の我儘は全て通ってしまうのだ。

これ、おかしな我儘とか言ったらヤバくない?

そう、気づいてしまった。もしや、この顔がいけないのか?

そんな訳で、私はこの顔の良さを隠す為に母の化粧品から眉墨を失敬して眉を太くして(薄い金色が太ましい濃い金色になった)更に前髪を伸ばして、髪は絶対に結わないと言って鳥の巣のようなボサボサ頭になる様に逆毛を作って頑張ってみた。
けれど、この髪。やたらとサラッサラなのだ。櫛でとかずともサラッサラなのだ。逆毛を瞬時にサラッサラにしてしまうくらいのサラッサラなのだ。

そして不細工に見えるメイクを自ら施してみても、常に浄化魔法でも掛けられているのかと疑いたくなる様に、瞬きの間に化粧が消えている。

え?眉墨どこ消えたの!?

最早こうなってくると、嬉しさは霧散して、ちょっと恐ろしくなってくる。

そんな私にある日、婚約者が出来た。
かなり生意気な男の子で、礼儀のれの字も無いひねくれ者だった。

けれど、この時、私は兄ディエゴの優秀さに前世の姉の事を思い出してしまっていた。
優秀な姉と比較されて、ひねくれ思考になり、ぶりっ子をして両親や周囲の関心を引こうとして失敗していた前世の記憶を思い出し、ちょっと悲しい気持ちを思い出していた。

「俺様は第二王子様だ!」仁王立ちしてそう言ったダニエーレは、頭が悪そうな残念王子で、けれど顔だけは可愛らしかった。この子、私の同類だわ。なんて思った。顔しか取り柄が無い私にはピッタリの相手の様に思えたのだ。

「俺様な、第二王子様!わたくしは、ロリエローズ侯爵家の娘。キャーラでごさいます!」
なんて頓珍漢な挨拶をして馬鹿同士、私達は馬があった。
親分と子分的な感じで。

たぶんダニエーレからはバカな子分が出来たと思われていたと思う。五歳の私と七歳のダニエーレ。私も私で、ダニエーレの事をキャーラとしての年齢では年上だけど、なんだかおバカな弟が出来た様な気分だったもん。
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