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現れた悪魔、ポケルは前回一瞬だけ見た時よりも人の姿に酷似していた。
漆黒の地の底まで続いていそうな長い髪、先の黒くなった尖りでた耳、渦を巻いた艶やかな黒い角。

顔だけ見れば人知を超えた美貌と神々しさが際立つ天使の様な美しさだった。
しかし雰囲気は禍々しく時折覗く先のとがった歯や舌を見てしまえばおぞましいとさえ思う。不気味な生き物。

進化した悪魔の姿はきっと天使の様な悪魔なのかもしれない。

確か、前に見た悪魔の顔、牛顔だったよね?なんてこの場で思っているのはクリスティナだけだろうか?

騎士達が組んだ布陣は円形だった。それぞれが魔道具を手に持ち魔力を流しだす。その魔力の集まる先はダグラスの刀だった。


ビリビリと悪魔独特の厄介で禍々しい力が空気に含む魔素を破壊しようと走る。マクシミリアンが舌打ちするのが聞こえた。

悪魔の魔力にはこの世界の魔素を破壊し吸収する力がある。
このままではこちらの魔法は高位魔力持ち以外満足に魔力を成形出来ずに騎士達が魔法攻撃を放てない。
「…マクシミリアン様、わたくしは聖なる魔法が使えます。合図をください。」
「………わかった。無理はするなよ」

マクシミリアンに球体形の防御膜を張られその中でクリスティナはマクシミリアンの合図と共に聖なる光の魔法を放つ。

前回を知るマクシミリアンはやはりクリスティナには前回の記憶が残っていると気付いただろう。

でも構わない。

この悪魔は一刻も早く消さなければならない。たくさんの人の犠牲で進化したこの悪魔の召喚主は成功報酬にとんでもないモノを望んでいるだろう。

これ以上悪魔に尊い命などやらない。


悪魔の魔力をクリスティナが放った光りが包み込み暖和していく。

先程まであった悪魔の魔力による圧が消え空気が清廉に戻り魔法を生み出せる環境が戻ってくる。

その隙をつき騎士達が魔法陣を作り出す。

『ぐぁぁぁぁー!!!』
輝く魔法陣は悪魔を縛り魔力の圧をかける。
もがき苦しむ悪魔の放つめちゃくちゃな魔法攻撃をマクシミリアンやライナス達が防ごうと動くが全方向を防ぐ事は難しくダグラスからも魔法攻撃を飛ばし悪魔の魔法を相殺する。
マクシミリアン、ダグラス、ライナス以外の騎士達はいくら攻撃しようと全く歯が立たない状態だ。
「雷獣アクスバルディッシュ」
客人の中から現れた淡く発光する斧を持った男が現れ悪魔の攻撃を打ち砕き、相殺していく。

「フロヒオン様!」
クリスティナは驚きの声をあげた。

男はふわりと風を纏い降り立つとその精悍な顔を向けてきた。
「クリスティナを助けにきた。俺も力を貸そう」
そう言って斧の柄の部分を肩に掛ける。

ぎらりと光る瞳がまるで野生の獣みたいだ。

マクシミリアンは視線を悪魔に固定したまま「あぁ、宜しく頼む」と片眉を上げた。あまり納得はしていないらしい舌打ちでもしそうな口調だが致し方ないと言わんばかりだ。

悪魔の動きが弱り出した瞬間を狙いマクシミリアンは構えを解き刀を抜く。

狙うは悪魔の瞳だ。

「俺は左」「じゃ俺は右だ!」

マクシミリアンは目を細め飛び立つ。
まるで銀の龍が如く襲い掛かる。獰猛でそれでいて神聖な一閃の攻撃。

同時に飛び出したフロヒオンは跳躍し飛び跳ねた。地を蹴る獣は龍にも負けぬ速さでその獲物に牙を剥く。

両者から得物を振り下ろされた瞬間に悪魔が絶叫した。
瞳から炎が上がり煙となり次第に消滅していった。


翌日、公爵家から遥南の地でやせ細った男達が、瞳だけ燃えた焼死体で発見される。
その中の一人、悪魔信仰集団の幹部になったフードを被った男はその顔を恐怖に歪めて焼死していた。
悪魔の召喚主である悪魔信仰集団の幹部達と召喚された悪魔は一部が繋がっている。

召喚主と悪魔は繋がっている。
悪魔の瞳は召喚主の瞳。

それこそが悪魔の弱点となる。


─────────


ふかふかの柔らかな布団の中で微睡み、あと少しで夢の世界に旅立とうかと言う瞬間にパタンと扉が音を立てた。

天蓋付きの大きなベットの枠に誰かが座った気配がし、ギシリと音が鳴った。

「……マクシミリアンさま?」

寝惚け眼でクリスティナが呟くとマクシミリアンが「起こしたか?すまない。」と言いながらクリスティナの頬を撫でた。

クリスティナは気にしないでと首を振った。マクシミリアンが無事に戻り、自分の元に来てくれたのが嬉しかったのだ。
「事件の後処理は、終わったのですか?」
「…ん?ああ、まぁ後はダグラスとライナスがやるだろう」
「あら、ダグラス達に押し付けては後で怒られてしまうんじゃありませんか?」
ねちっこいテオファンと血の繋がりを感じさせるねちっこさをダグラスからも感じていた。
昔おやつのケーキをテオファンに奪われた際には子供ながら空恐ろしい報復をしていたが。

「いや、大丈夫だ。アイツらには後日父がコレクションしている希少酒を渡す事で手を打った」
ニヤリと笑うマクシミリアンは悪い笑みが良く似合う。

それよりも、とマクシミリアンはクリスティナを横抱きにしてベット横にあったブランケットをクリスティナにかけると顔を覗き込む様にしてクリスティナを見つめてきた。

「…クリスティナ、お前には前回の記憶が、あるのだろう?」
「……………………」

クリスティナは一瞬答えに窮した。

あっさり頷く予定だったのに。

実際は胸が傷んで不安が心を締め付ける。

例えば、これ(前回の記憶)がキラキラした楽しい記憶なら直ぐに頷けただろう。

でも私のこれは違う。人に知られたくない冷たくて無様で哀れな記憶だ。
でも私の前回の記憶を、人に知られたくない冷たく無様で哀れなものにしたのは他ならぬマクシミリアン様で…

瞳がじんじんと熱を持ち痛む。

平気な振りをして頷かなくちゃと思っても目の縁に溜まった涙が流れ落ちやしないかと心配だし違う事を考えて気をそらせ無いだろか。

真顔で固まってしまったクリスティナをマクシミリアンが見つめていた。
その真意を確かめるように。




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