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71:故郷の武器店で
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クレアはアデリオとマルリエッタを連れて王都のスラムの中にある「灰色通り」に来ていた。
軒を連ねるのは、朽ちかけた古い石造りの建物と掘っ立て小屋。
通りを歩くのは、いかにも素性の怪しい者ばかり。道の端には物乞い。
あちらこちらで怒鳴り声が響き、道の真ん中で喧嘩が勃発している。
薄汚れたマントを羽織り、慣れた様子で進むクレアとアデリオを、戦々恐々といった様子のマルリエッタが早足で追いかける。
どんなに強くても、マルリエッタは田舎の貴族令嬢だ。このような場所を訪れるのは、初めてに違いない。
「クレア様、こ、ここは……一体なんなのですか?」
「ああ、俺の故郷だ」
「故郷!?」
素っ頓狂な声を上げるマルリエッタを、アデリオがからかうような目で見る。
「お嬢様には刺激が強すぎるんじゃない? 今からでも帰ったらどう?」
「ふ、ふざけないでください! これぐらい、どうということはありません!」
通りの隅に佇む建物の間に、地下へと伸びる細く小さな階段が見える。
周囲を見回したクレアは、その階段を足早に下りていった。アデリオとマルリエッタもあとに続く。
薄暗くほこりっぽい階段を下りれば、洞窟のような部屋が広がっている。
ゆらゆら黒い影を落とす壁際のたいまつの明かりを頼りに、クレアたちは部屋の奥へ進んだ。
少し歩くともう一つ部屋がある。
扉の前で、クレアはドアに付いている鐘を三回鳴らした。続いて、五回ドアをノックする。
ここの主は用心深く、決まった手順を踏まないと扉を開けてもらえないのだ。
しばらくして扉が開き、顔に傷のある大男がぬっと姿を現す。
「なんだ、クレオとアデリオか。最近、めっきり姿を見せないと思ったら」
「なんだとはなんだ。上客だぞ」
男はクレアたちを部屋の奥に案内し、くたびれた長椅子へ座るよう促す。
部屋の隅には、武器やゴミが積まれていた。
あまり衛生的ではない場所なので、マルリエッタが固まっている。
「で、今日はなんだ? ナイフの追加か?」
「それもある。あと、女向けの武器が欲しい」
「そっちのお嬢さんの武器か?」
「……そんなところだ。フリフリのドレスの中に隠れるものを頼む。金額は問わない」
「ドレス? きれいなお嬢さんだと思ったら、どこぞのご令嬢なのか。アデリオのコレか?」
小指を立てる大男に向かって、アデリオとマルリエッタが同時に反論する。
「冗談じゃない!! なんでこんな相手と……!」
二人の言い分を気にせず、大男は奥の棚から冊子を取り出して机に置いた。
「あいにく、洒落た武器は揃えていなくてな。特注になるがいいか?」
「頼む。できあがったら、公爵家に送ってくれ」
「伯爵家じゃないのか?」
「ちょっと今、ごたごたしているんだ」
ナイフの追加分を選んでいると、ベルとノックの音が鳴った。大男は「やれやれ」と言って立ち上がる。
扉を開けると、奥からサイファスとハクが現れた。
「こりゃあ、懐かしい顔だ」
この店は、密偵時代にクレアたちが使っていた武器屋なのだ。裏家業向きの店で、表では扱えない品なんかも置いている。
ハクも、ここの店主とは知り合いだった。
今にも同窓会が始まりそうな雰囲気だが、そんな時間はない。
必要なものを購入し(なぜかサイファスが払ってくれた)、クレアたちはミハルトン家へ向かうのだった。
軒を連ねるのは、朽ちかけた古い石造りの建物と掘っ立て小屋。
通りを歩くのは、いかにも素性の怪しい者ばかり。道の端には物乞い。
あちらこちらで怒鳴り声が響き、道の真ん中で喧嘩が勃発している。
薄汚れたマントを羽織り、慣れた様子で進むクレアとアデリオを、戦々恐々といった様子のマルリエッタが早足で追いかける。
どんなに強くても、マルリエッタは田舎の貴族令嬢だ。このような場所を訪れるのは、初めてに違いない。
「クレア様、こ、ここは……一体なんなのですか?」
「ああ、俺の故郷だ」
「故郷!?」
素っ頓狂な声を上げるマルリエッタを、アデリオがからかうような目で見る。
「お嬢様には刺激が強すぎるんじゃない? 今からでも帰ったらどう?」
「ふ、ふざけないでください! これぐらい、どうということはありません!」
通りの隅に佇む建物の間に、地下へと伸びる細く小さな階段が見える。
周囲を見回したクレアは、その階段を足早に下りていった。アデリオとマルリエッタもあとに続く。
薄暗くほこりっぽい階段を下りれば、洞窟のような部屋が広がっている。
ゆらゆら黒い影を落とす壁際のたいまつの明かりを頼りに、クレアたちは部屋の奥へ進んだ。
少し歩くともう一つ部屋がある。
扉の前で、クレアはドアに付いている鐘を三回鳴らした。続いて、五回ドアをノックする。
ここの主は用心深く、決まった手順を踏まないと扉を開けてもらえないのだ。
しばらくして扉が開き、顔に傷のある大男がぬっと姿を現す。
「なんだ、クレオとアデリオか。最近、めっきり姿を見せないと思ったら」
「なんだとはなんだ。上客だぞ」
男はクレアたちを部屋の奥に案内し、くたびれた長椅子へ座るよう促す。
部屋の隅には、武器やゴミが積まれていた。
あまり衛生的ではない場所なので、マルリエッタが固まっている。
「で、今日はなんだ? ナイフの追加か?」
「それもある。あと、女向けの武器が欲しい」
「そっちのお嬢さんの武器か?」
「……そんなところだ。フリフリのドレスの中に隠れるものを頼む。金額は問わない」
「ドレス? きれいなお嬢さんだと思ったら、どこぞのご令嬢なのか。アデリオのコレか?」
小指を立てる大男に向かって、アデリオとマルリエッタが同時に反論する。
「冗談じゃない!! なんでこんな相手と……!」
二人の言い分を気にせず、大男は奥の棚から冊子を取り出して机に置いた。
「あいにく、洒落た武器は揃えていなくてな。特注になるがいいか?」
「頼む。できあがったら、公爵家に送ってくれ」
「伯爵家じゃないのか?」
「ちょっと今、ごたごたしているんだ」
ナイフの追加分を選んでいると、ベルとノックの音が鳴った。大男は「やれやれ」と言って立ち上がる。
扉を開けると、奥からサイファスとハクが現れた。
「こりゃあ、懐かしい顔だ」
この店は、密偵時代にクレアたちが使っていた武器屋なのだ。裏家業向きの店で、表では扱えない品なんかも置いている。
ハクも、ここの店主とは知り合いだった。
今にも同窓会が始まりそうな雰囲気だが、そんな時間はない。
必要なものを購入し(なぜかサイファスが払ってくれた)、クレアたちはミハルトン家へ向かうのだった。
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