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第1章 狩人から冒険者へ

第15話 指導

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(凄い圧だ…)

 ゼルはアマンダを見上げる様に見る。
 そしてアマンダの身体を隈なく観察する。

 燃える様な赤い髪に、丸太の様なガッチリとした太い腕。装備は大剣を背中に背負っている物のみ。防具はフルプレートという訳ではなく、致命傷になり得そうな所だけを守った露出が多い皮鎧。身体中には古傷が何個もあり、相当な経験を積んで来た事が伺える。

「おいおい、言っとくが私にはそんな趣味ないからな?」

 その人は身体を隠すような動作を見せる。

 どうやら観察し過ぎたみたいだ。
 そんなに見ているつもりはなかったが、初めて指摘された所為でゼルは少し驚愕の表情を浮かべる。

「す、すみません!」

 すると男が何か勘違いしたのか、頭を下げる。この男も、この女の人を見ていたらしい。

「おい、来たぞ」
「もしかして例の件で来たのか?」
「そりゃあそうだろ」

 周りが先程よりもざわめきを増す。

(何だ? この人達が来た瞬間、雰囲気が…)

「ん? あぁ。別にお前に言ってねぇよ。それよりも今からでもすんのか?」
「は、はい! ちょっと生意気だったので…」

 此方を見ながら言う女の人に対して、男が返事を返すと3人の冒険者らしき人達は横を通り抜けて行った。

「じゃあしっかり頼むわ」

 女の人は俺の方に視線を向けながら言って、ギルドの奥へと入って行った。
 何故俺の方を見ながら言ったのは不思議に思うが…まぁいいか。

 そんなことを思っていると、俺の胸倉を掴んでいた男がある事を呟く。

「へへっ、これはSランクパーティー様からのお墨付きも貰った所で行くか」

 男は舌舐めずりをしながら、外へと出る。

(アレが…Sランクパーティー)

 ギルドの奥を見ると、そのパーティーはカウンターを抜けて奥へと入って行った。

 言われてみれば、後ろからでもその強さが分かる。他の者達よりも自信に満ちた歩き…迷いのない証拠だ。

(…もう少し見て置きたかったな)

 ゼルは眉を寄せながら、今のこの状況に呆れ果てていた。



 *

「あの子、強いですね」
「そうだな。魔法なしだと、ユウも負けるんじゃないか?」
「そりゃあ私は魔導士ですから。しょうがないです」

 私の前を歩いている2人が、先程の胸倉を掴まれていた少年の話をしている。

「中々の逸材だったな。数年すれば私達と対等な存在になれるかもしれない」

 私がそう言うと、センとユウが驚愕の表情を浮かべて此方を振り返った。

「…どうしたんですか?」
「冗談は程々にしとけよ、モテないぞ」
「私は思ったことしか言わないし、色恋には興味がない。それよりもこっちだ」

 私は首で先を指す。

「まぁ、そうですね。じゃあ行きますよ」

 ユウはそう言うと、扉をノックする。

「Sランクパーティー"天上の宴"です。例の件について報告があって来ました」



 *

「そう言えばお前、ランクは何だ?」
「…Fです」
「ぷっ…ははははっ!! お前やっぱFランクかよ!!  俺はDランクだから2ランクも差があるって事だ!!」

 男は1人、声を大にして笑った。
 俺達は今、ギルドが取り扱う訓練場、下級冒険者の訓練場へと来ていた。どうやら訓練場にもランクがあるらしく、中はボロボロで所々壁に穴が空いており、歩く度に木が軋む音が鳴っている。

 因みにこの男のパーティーメンバーであろう女の子達は、見守る様にして遠くから此方を見ている。この男が"1人で十分だ"と言い、女の子達を帰したのだ。

(さっきの”指導”と言う言葉、そして”1人で十分”と言う言葉から、やる事は大体予想出来た)

「おら! 覚悟は出来てんだろうな!!」

 男は近くに転がっている木剣を手に取って構えた。

(やはりこれは…)

「お前も早く構えろよ!! 冒険者はどれだけ危ねぇ職業なのか教えてやるよ!!」
「今から模擬戦でもするんですか?」

 俺が男に聞くと、ニヤリと笑った。

「ちげーよ、これは指導だ!!」

 そう言うと、男は剣を振りかぶりながら突進して来る。

 俺の予想通り指導という名の新人イビリの様だ。しかし思ってたよりも手加減してくれている様で、大分遅い。

(流石にもうちょっと出来る…これだと何も学べない)

 俺は男から振り下ろされた剣を片足を後ろに下げる事で、最小限に攻撃を躱す。

「なっ!?」

 焦った様な声がすぐ近くから聞こえる。

 どうやら驚いてくれた様だ。
 顔を見ると一瞬呆けた顔を見せた後、一層眉間に皺を作っている。

(よし、これでもう少し本気を出してくれる…)

「ふ、ふん!! それなりにはやる様だな! ここからはちゃんとやってやろう!!」

 偉そうに剣先をゼルに向けるアレン。それに対してゼルは、

「はい。よろしくお願いします」

 と言うと、近くにあった小さなナイフの様な木剣を手に取った。

(剣は近くにはない…時間を取らせる訳にもいかないから一先ずはこれで相手をして貰おう)

「くっ!! 舐めてんのか、テメェは!!?」

 激情したアレンが先程と同様、ゼルに迫る。
 またもや振り下ろされた剣に対し、ゼルは滑らかな動作で懐へ潜り込む。

「すみません。もう少しちゃんと指導して貰ってもいいですか?」

 アレンの首には、ボロボロな木のナイフが突き付けられていた。
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