25 / 60
25話 真相 その3
しおりを挟むネプト様の言葉……それはまさしく、犯人捜しをしているようなものと言えた。少なくとも、私にはそう感じられたのだ。ニーナ以外に黒幕が居る……? いえ、そんなはずはないと思うけれど。
「ノーム伯爵……大変なことをしてしまいましたね」
「国王陛下……」
「えっ、お父様……!?」
「えっ……!?」
ネプト様の一呼吸置いてからの第一声は……お父様に向けられていた。おかしい……だって今は、ニーナを責めている状況のはずなのに。どうして、お父様に話が向かっているの?
ネプト様とお父様……それなりの沈黙が二人を包み込んでいた。
ニーナも意外な人物に矛先が向かったと判断したのか、素っ頓狂な声をあげているし……。
「寂れた教会の屋根は当時から老朽化が進んでいました。ですので、立ち入り禁止区域ではあったのです。そして、子供達の遊び場になっていた……この辺りの情報は当時からお持ちだったでしょう?」
「そうですね……スラム街の情勢は今よりも深刻でしたし。その話の流れでそういった危険な場所があることは認知していました」
「なるほど……では、情報収集をしている間に、あなたの娘であるアーチェ嬢が、お忍びで通っていることもご存知だったのではないですか?」
「それは……」
「お父様……?」
「父上……?」
あれ? お父様はさっき、私がお忍びで寂れた教会に行っていたことを知らない風だったけれど……実は知っていたの? まあ、確かにバレていても不思議ではないんだけれど。私の傍に立っているアクリーがお父様に伝えたとかは、十分に考えられるし。
でも、崩落事件とはどのように関係してくるのだろうか?
「ニーナ嬢」
「は、はい! ネプト国王陛下……!」
「君は先ほど、ジョンという人物を驚かせようとしたと言っていたな? 具体的にはどのように驚かせようとしたのだ?」
「それは……」
ニーナはとても答えにくそうだった。まあ、当然だろうけれど……話を聞く限り、彼女は罪を犯してしまっている。その暴露は相当にキツイだろう。
「屋根のほんの一部を崩して、ジョンを驚かせるつもりでした……それで、この場所は危険だと思わせようとしたのです」
「ほう、それで……?」
「そしたら……想定以上に崩落が起きてしまって……」
「なるほど……それで、ジョンという少年は巻き込まれてしまったということか。まあ、私本人なんだが」
「うっ……も、申し訳ございませんでした……! で、でも……ネプト国王陛下のお話では、元々、細工がされていた形跡があったと伺いましたが!?」
「そうだな……まあ、そんな話があったことも事実ではある。そして……」
「こ、国王陛下……」
嘘……? まさかお父様が細工を施した張本人だと言うの? いえ、直接的にはしていないとしても……命令を下した可能性がある……?
「現国王である私に対しての殺人未遂……ニーナ嬢」
「お、お待ちください、国王陛下……! 私は本当にジョンに対して怪我をさせたかったわけではなくて……! 驚かせようとしただけで……!」
「ほう、その理由についても詳しく話して貰えるか? 君の口から直接な」
「は、はい……」
ニーナは完全に固まってしまっていた。自分に掛かってくる罪の重さを想定して、耐えきれなくなっているのかもしれない。
「……」
「……」
……? ネプト様とお父様は目配せをしているような……どういうことだろう? さっきも多少の沈黙時間があったけれど。そんな時、フォルセが早口気味で口を開いた。
「ち、父上……! なぜこのようなことを……!?」
「フォルセ……?」
「落ち着くんだ、フォルセ。お前は将来、ノーム家の当主となる男なのだぞ?」
「これが落ち着いていられますか? 話を考えると……父上が屋根の細工をした本人ということになってしまう!」
フォルセの言葉は核心に迫っているようだった。私もそうなのではないか、と感じていたのだから。聡明な弟が気付かないはずはない。
「……」
ニーナは少し微笑んでいるようにも感じられる。自分の罪が軽減されると思っているのか……。
でも私としてはこの時、お父様とネプト様の二度に渡る目配せや沈黙が気になっていた。
236
あなたにおすすめの小説
寵愛していた侍女と駆け落ちした王太子殿下が今更戻ってきた所で、受け入れられるとお思いですか?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるユーリアは、王国の王太子と婚約していた。
しかしある時彼は、ユーリアの侍女だった女性とともに失踪する。彼らは複雑な事情がある王国を捨てて、他国へと渡ったのだ。
そこユーリアは、第二王子であるリオレスと婚約することになった。
兄と違い王子としての使命に燃える彼とともに、ユーリアは王国を導いていくことになったのだ。
それからしばらくして、王太子が国へと戻ってきた。
他国で上手くいかなかった彼は、自国に戻ることを選んだのだ。
そんな彼に対して、ユーリアとリオレスは言い渡す。最早この国に、王太子の居場所などないと。
七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。
木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。
しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。
ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。
色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。
だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。
彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。
そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。
しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
夏芽みかん
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。
そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。
しかしその婚約は、すぐに破談となる。
ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。
メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。
ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。
その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。
民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。
しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。
第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。
婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。
そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。
その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。
半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。
二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。
その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる