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1話 合意の婚約解消
しおりを挟む「グローム様……やはり、婚約解消しかないのでしょうか……」
「仕方がないだろう、ルシャ。私達もこの3か月間、付き合って来たが……性格の不一致はどうしようもないからな」
私は目の前に座っている、グローム・ナイトレイ侯爵と婚約をしていた。3か月に渡る婚約生活をしていたけれど、それも終わりを迎えそうだった。やや、軽薄な態度が目立つ彼の性格と私の性格は合わなかったのだ。グローム様は軽い浮気などは紳士の嗜みとして軽く考える方で、私はそれを許すことが出来なかった。
話し合いの末、行きついたのが婚約解消というところだったわけだ。正直、悲しみで涙が出て来そうだったけれど、私はぐっと堪えていた……しかし、溢れる雫を抑えることは出来ない。
「ルシャ……私と婚約解消するのが、そんなに嫌なのか?」
「もちろん嫌でございます……私は貴方様に一生を仕えるつもりで、今まで過ごして来たのですから」
「ルシャ……本当に申し訳ない。私のせいだということは良く分かっている」
「謝らないでください……私が情けなくなってしまいます……」
「ああ、そうだったな」
グローム様は立ち上がり、私を抱きしめた。私は抵抗せずに身体を預けたけれど、こういうことは正直、止めて欲しい。抱きしめるくらいなら、なぜそんな軽薄な態度を取っていたのかと矛盾するからだ。
婚約解消の直前になって、中途半端な優しさを見せるのは止めて欲しい……。
「あの……離れていただけますか?」
「ん? ああ……申し訳ない」
グローム様は素直に離れ、そのままソファに腰を掛けた。
「ルシャ、お互いが合意の上での婚約解消だ。慰謝料等は発生しないが問題ないな?」
「はい……問題ございません」
この点に関しては不満がある。彼の浮気癖が原因だから、婚約解消でも「慰謝料を支払う」くらいは言葉にして欲しかった。実際に支払うかどうかはともかくとして、言葉での誠意が欲しかったところだ。やはり、私とグローム様は根本的なところで性格が合っていない。浮気に対する考え方もそうだけれど、それ以外に細かい部分での不一致というのは多かった。
やはり婚約解消をして正解だったのだろう。私の3か月間が無駄になってしまったので思わず涙が出てしまったけれど、仕方ないだろう。
「私は荷物を纏めたら失礼させていただきます。正式な婚約解消の手続きはまた、後日ということで……」
「そうだな、ゼラード伯爵とも会う必要があるからな」
「はい……それではこれで、失礼いたします」
「うむ、達者でな」
「ナイトレイ侯爵こそ……お達者で……」
私は「グローム様」とは呼ばずに苗字で彼のことを呼んだ。私なりのケジメみたいなものだ。これからはナイトレイ家とは断絶して生活をしていかなければならないのだから。私は簡単に頭を下げると、彼に視線を合わせることなく立ち去った。
本日、グローム・ナイトレイ侯爵との婚約解消が成立したのだ……私は新しい生活を送って行くことになる。
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