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5話 馴れ馴れしい侯爵 その1
しおりを挟むまさかこんなことになるとは、想像していなかった……。私は現在、貴族街に使用人を連れて買い物に来ていたのだけれど。そこでまさかの人物と出会ったのだ。
「やあ、ルシャじゃないか。まさか、こんなところで出会うとはな」
「な、ナイトレイ侯爵……お久しぶりですね」
時間的に考えればそれ程久しぶりの再会ではないけれど、会いたくない相手だったので、随分と久しぶりに感じてしまう。脳が記憶から消去しようとしているのね……。
「ナイトレイ侯爵とは随分と他人行儀じゃないか、ルシャ」
「いえ……侯爵とは他人でございますし……」
「おいおい、連れないな本当に……お互い一度は本気で愛を語り合った仲だろう?」
語り合った期間は3か月だけだ。もちろんその間、身体の付き合い等はなかった。だから本気で愛を語り合ったというのは間違いになる。ナイトレイ侯爵の勘違い……というより思い過ごしということになる。
「ルシャ……もう少しこっちに近づいてきたらどうだ?」
「いえ……そう言われましても」
ナイトレイ侯爵とは他人になっている……それなのにやけに馴れ馴れしいのが気になった。周囲の使用人や護衛もやや戸惑っているようだ。相手が侯爵だからということもあって、私を含めて完全に無下には出来ないのだ。
ナイトレイ侯爵がその辺りをどのように考えているかは分からないけれど、それも計算しているのなら、かなり性質が悪いと言わざるを得ない。
「ルシャは買い物に来たのだろう? お昼はまだなのか?」
「まだですけど……」
「それなら丁度良い。喫茶店でも入ろうじゃないか」
「喫茶店……?」
「その通りだが?」
どうして婚約解消したナイトレイ侯爵と一緒に喫茶店に入らなければならないのか……彼は私の気持ちを理解していないのではないだろうか? 婚約解消した後、女性がどのように感じるかを……。
「ナイトレイ侯爵、私達は婚約解消をしている身なんですよ?」
「それは分かっているが? それがどうかしたのか? お前も婚約解消の時、私と別れたくないと泣いていたではないか」
「……」
確かにあの時は涙を流してしまったけれど、もう過去の話だし。もしかすると、ナイトレイ侯爵の中では過去の話になっていないのかもしれない。だから、こんなにも馴れ馴れしいのか……。
彼の中では時間が止まっているのかもしれない……それか、女性といつまでも仲良く出来るものだと勘違いしているか。
「ルシャか……? こんなところで会うとはな」
「フォール……?」
その時、背後から私を呼ぶ声がした。後ろから声を掛けて来たのは紛れもなくフォール・スタンレー公爵令息だった。
「ん? そちらの人物は……」
ナイトレイ侯爵も顔色が変わっている。まさかこんな時にフォールとも出会うなんて……運命の神様は私の味方をしてくれているのかもしれないわね。本当に助かるわ。
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既にナイトレイ侯爵と呼ばれてる時点で相手にされてないと分かって欲しいものですね!