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11章 魔法少女と精霊の森

355話 精霊少女は勝利を掴む

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 私は脱力気味に石壁に背をつける。別に石壁が崩れたりして「うわっ」となることもなければ、こっちに攻撃が飛んでくることもない。私自身は平和だった。

 でも、ベールは別だ。
 精霊さんは早々に立ち直し、なんとかベール向かってその拳を突き出していた。

 ……地面に落としたからっていきなり弱くなるなんてことはないんだ。でも、少しは弱体化してるかな?
 あんな瞬間移動レベルの動きはできなくなってる、かも。

「私がするのは見守り。もうやることはない……ね。多分。」
こんな時にも関わらず、呑気に欠伸をする私。

 もし負けたら私も一緒に死なないとかぁ。痛いの嫌だなぁ……

 そういう面も込みで、ベールの応援に尽くすことにした。

 ファイトだー!ベール!頑張れー!ベール!

「ほんと、どんなけなのよ!こいつ強すぎよ!」
そう言いながらも、炎を纏わせていなしている。羽が使えないからか、向こうは精霊術を一切使わないのが攻略ポイントだ。

 これがあるからまともにベールと精霊さんが戦える。頑張った甲斐があるね。
 これでベールが成長してくれればいい。今回のは私も成長できたしね、戦闘面で。

「…………でもっ!」
すると、ベールの覇気が変わる。炎の勢いが増し、精霊さんを弾き飛ばすまでになった。

「わたしは、この場所を用意してくれた契約相手の、ソラのためにもっ!自分を信じられるためにもっ!絶対に勝たなきゃいけないのよ!」
叫ぶ。感情が昂ると同時に、炎は蒼く揺らめきだす。右の拳に纏わりつく。小さい体、小さい手が、蒼い炎に包まれる。

「だから、わたしらしく……そう、———みっともない戦い方で、抗ってみせる!」
そう言うや否や取り出したのは、腰に携えられた銃。構え、弾き飛ばされ体を仰け反らせる精霊さんに、1発。

『これは予想外』

 こら、私のセリフを取るな。

 少し言葉を変えて……想定外の成長ぶりを見せてくれたベール。あのベールが、と少し感慨深くなり、目を閉じる。

 そう、そもそもベールに敵なんていない。さっきの言い振りだと、ベールは弱い自分が嫌いでそれを肯定したいけど、肯定するたびに嫌いになっていく……みたいな?

『私にしてはすごい推理じゃん』
『ただのラノベと漫画の知識だよね~?』
『私よ、メンタルを削るのが上手くなったな』
『みんな?一応みんな私なんだから、優しくしない?』
味方が1人だ。これは反旗を翻される日も近そうだ。

 私が言いたかったのは……なんだ?あれ、言葉にすると分からなくなる。
 この現象の名前を教えてほしい。

 まぁ、つまり……開き直れって言いたかった。うん。言い方悪いけどそうなるね。

 精霊さんもこの危機も、全部開き直るための踏み台にして、自分を好きになっちゃえばいい。

 精霊さんが敵じゃない、本当の敵は君の心だっ!なんてかっこいいセリフは残念ながらダサい私からは出てこない。だから言えるのは、現状維持。

 何も変えない、今のままを貫き通せ。そんなことしか言えなかった。

 私は、物語の主人公でもなければイケメン王子様でもない!私は一般の魔法少女で、決定的な何かを変えてくれるのは、いつだってキラキラした主人公か、健気なヒロインだ。

 目を開くと、弾丸が精霊さんの肩を貫通させている瞬間だった。蒼炎の拳はそのまま胸部に叩き込まれ、HPゲージは残り2ゲージとなった。

「わたしは、わたしはっ!勝つのよ!」
拳はそのまま精霊術となり、精霊さんの体内にあるカケラに相殺されつつも彼女の表皮をジリジリと焼いていく。一見すると泥試合、でも確実に、着実に、ベールに勝ちが傾き始めてる。

 はぁ……やっぱり、ベールみたいなのが主人公になるべきだよね。誰か相手がいれば、私なんか必要ないのにね。
 できるなら努力できる相手が相応しい。

 ベールは私が頑張ってると言ってたけど、見当違いだ。借り物の力で、やりたいからやってる。頑張ってるわけじゃない。

 視線をもう1度、2人にやる。精霊さんもやられっぱなしではなかった。体を無理矢理手前に引っ張り、頭突きの要領で突き放す。確実な蹴りを入れ、それを防ぐベール。有利は変わらない。


 そして、戦いは続いた。
 それは、決して見せ物としていいものではなかったし、見ててスッキリするようなものでもなかった。

 現実じゃ、そんなもんだよね。

 結論から言うと、ベールの勝ちだ。
 ベールの言う通り、私の銃をガンガン使っていった。ゆっくりゲージ減らし、減らされていく。

「…………………………………………………」
ベールは、HPゲージがゼロになり、地に伏せ消えかける精霊さんを見下げる。表情は曇り、口を切ったのか血を垂らしており、それを手の甲で拭う。

「……なんで、気分が晴れないのよ。」
険しい顔で涙ぐむ。

『これが神試戦。確かに、狂人しかクリアできそうにないね』
『あの精霊に名前つけたんだけど、切り札ブレイカーどう?どうあがいても全てを泥試合に連れ込ませる切り札ブレイカー』
『ダサい、却下』

 空気をぶち壊す発言どうもありがとう、私。さすが私だよ。空気ブレイカーと名乗ればいい。

『さすが同じ思考、センスも一緒とは。私も怖くなってきた』
こういう時にこそ軽口を叩くのも私だ。これは無視でいい。

「ベール。」
「…………」
「これはベールの勝利だよ。誇っていい。争った末に、何を失ったかじゃなくて、何が残ったかを、何を得たのかを考えた方がいい。」
どこかで聞いたセリフを使い回す。このくらいしかできない。薄っぺらい言葉しか出てこない。

「そうよ、勝ちは勝ちよ。わたしは勝ったのよ、わたしの方法で!」
宣言するように、強く言い放った。

「わたしは抗って、抗って、それで勝ったのよ!誰がなんと言おうと勝ちよ!わたしたちは、神試戦を勝ち抜いたのよ!」
「……ま、ベールが満足なら私はいいよ。ベールはよくやった、魔法少女の私が直々に褒めて使わそう。」
「誰目線よ。」
そう言うと、どちらともなくクスッと失笑する。そして言う。「わたしたち、勝ったのよ」と。

 こんなしんみりした通夜みたいな空気になってるけど、私達一応勝ったからね?この神試戦が粘り強すぎるせいで微妙な雰囲気になってるだけだからね?

 心で言い訳をする。
 この変な空気を変えるために、視線を彷徨わせ話題を探す……と。

「……よし、念願のミュール様とやらに会いに行きましょうか。ちょうど、お迎えが来たみたいだし。」
「え?」
後ろを見ると、蝶のような何かが群れを成してやってくる。それが巨大な円を描いてゲートが開かれた。

「今日は祝勝会だよ、ベール!ベールの勝利記念。だから、早く行くよ。」
「急かさなくても、分かってるわよ!」
私とベールは、通夜の空気を切り裂くように走り出し、ゲートを潜った。

—————————

 一方で、観客席。

 あの通夜空気はどこへやら。観客達は大盛り上がりをしていた。
 まるで物語のテンプレートのような熱い戦いに身を乗り出し、声援や歓声がとめどなく聞こえてくる。

 励まし合い、成長し、抗って抗って、最後に勝つ。最高のパートナーだ。
 苦い勝利も、2人で手を取り合って良い物とした。その後は突如として映像が途絶え、今は熱狂冷めやらぬ中もう神試戦は終わったと錯覚するような光景が広がる。

「やっちまったな、あいつら。」
その1人、ギリシスもまたそう呟く。

「ベールも、最後の最後まで不屈の精神で戦っていたの、心に刺さったわ。かっこよかった。」
「そんな言葉がナリアから聞けるとは。尊敬するのは父親だけ~って感じのナリアがねぇ。」
アズベルはニヤニヤと揶揄う。次の参戦者は、この光景を見て諦めを決意したり逆に奮起したりする者と様々だ。

 しかし分かることは一つある。これ以上の盛り上がりはもうないだろう。

「今日はみんなで祝ってやろうぜ。あいつも言ってたろ、祝勝会だって。オレらで祝福だ。」
「いいね。ギリシスにしては殊勝な心意気だ。」
「そうね、やりましょう。」
3人、楽しそうに語らう。もう未来へ思いを馳せて。

———————————————————————

 思ってた感じとは真逆の方向突っ走っちゃいましたね。
 でも、途中で思ったんです。精霊術もカケラのせいであんまり効かなくて、龍化も龍法陣も使えず、更には残弾数は7。これでどうやって派手に終わらせるのかと。

 あと、あんな強敵を前触れなく突然覚醒させるのもどうかなと、少しだけ強化して成長という形で頑張ってもらいました。泥試合でも勝利は勝利。今回のことでベールも成長しましたし、今回はそれでチャラ、ということで……
 では、次回は霊神という名の露出狂の登場です。パチパチパチパチー。
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