異世界巻き込まれ転移譚～無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます～

1.ギルド編

第4話 初めての戦闘

 思わず始めての魔獣に悲鳴をあげてしまった僕。

 「お、落ち着け僕！」

 だが本来ゴブリンはそこまで恐れるはずのない魔獣だった。
 いや、正確には群れで動く魔獣であるので、今回のように1匹だけでは恐れる必要はないと言うべきだが。
 群れであれば、中々の危険度になるとは聞いたことはあるが、まさか1匹だけしか居ないのにも関わらずこんなに驚いてしまうなど思わなかった。
 ……情けない。

 「い、1匹なら余裕だ！」

 戦闘を食事の種にしようと思っているのならばこれくらいの相手に怖気づいて居られないと、僕は自分を鼓舞しようとそう声を上げる。
 そして今更ながらだが、急いで短剣を取り出し鞘から抜き、ゴブリンの方へと突きつけた。

 「ギガ！」

 だが、それに対するゴブリンの反応は馬鹿にするような笑いだった。

 「舐めやが……ひっ！剣！？」

 一瞬、その反応に僕は怒りで冷静さを失いそうになる。
 ……だが、その手に握られた錆びた剣に僕は冷静さを取り戻した。
 うん、これはしょうがない。
 何せ僕はこれが初めての戦闘なのだ。
 ついでに武器だって鞘に入っていない状態は、今持っている短剣だけなのだ。
 確かにゴブリンは子供のような背丈で、130センチメートル程しかないが、その剣の刃渡りは60センチメートル程度あった。
 抱えられるのが信じられないほどだ。
 だから少しぐらい怯えても仕方がない。
 そう、ないったらないのだ。

 「ギガガ……」

 「そんな目にするなよ！」

 だが、そう自分に言い聞かせてもゴブリンのまるで僕を哀れむようなそんな目を耐えることはできなかった。
 いや、魔獣に感情はないと聞くし、恐らく被害妄想なんだろうけども！

 「だめだ、落ち着かないと……」

 僕はゴブリンに怒鳴ってから、直ぐにこんなことをしている場合ではないと気づく。
 今は戦闘中なのだ。
 冷静さを失ったほうが不利に決まっている。
 ……で、でも怒りは力を強くするって聞いたことがあるし、怒ったほうがいいのかな？
 いやその前にゴブリン一体だけだって言っても僕は素人なのだし、勝てない可能性があっさりと平静を失う。
 だが、それは絶対にしてはならないことだとそう本能的に悟って僕は思いっきり頬を叩いた。
 そのおかげか、何とか冷静さが自分の中に戻ってくるのがわかる。

 「よし……」

 そしてその頭で僕はこれからどうするか、それを素早く決めた。
 確かに僕は素人だ。
 けれどもこの身体能力強化の能力はかなり強い。
 それを信じて僕は、まずは石を拾って投げ、ゴブリンの意識がそれたその時に素早く接近して短剣で攻撃することを決意する。
 そうすれば恐らくあのゴブリンの長い剣では小回りが利かず、万が一にも傷つく可能性は減るはずだ。
 そう僕は決めて硬く短剣を握りしめる。
 短剣は確かに錆びてはいるが、刃渡りは30センチメートル程ある。
 これで殴ればある程度のダメージを入れることができる！

 「くらえ！」

 そしてそう自分に言い聞かせた僕は、恐怖によって迷いが生じるその前に石を拾って投げつけた。
 その石は確実にゴブリンの方へと飛んで言った確信を持ち、僕は大きく足を踏み出そうとして……

 「ガガッ」

 「なっ！」

 ーーー ゴブリンの笑い声とともに現れた周囲の人影に固まった。

 それは人間にしては低い背丈で、僕はその背丈がゴブリンであることを悟る。

 つまり、僕は嵌められたのだ。

 目の前にいるゴブリン、その狙いは僕の注意を仲間が囲むまで引くこと。
 そしてそのことに僕は今気づく。
 確かに僕は目の前のゴブリンが何故かやけに挑発を繰り返すその姿に違和感を覚えてはいたが、それはこのための布石だったのだ。

 「ギガガガ！」

 「ガガガガ！」

 「しまっ！」

 ゴブリンの方へと駆け出そうとして、大きな隙を晒した僕へと囲んでいたゴブリン達が飛び寄せてくる。
 その瞬間、僕はゴブリンを舐めたことを後悔していた。
 確かにゴブリンは単体ではいいかもだ。
 だがそれでも集団になればどれ程恐ろしい敵となるのか、それをここまでの道のりを教えてくれた人に僕は教えてもらったはずなのに……

 ー 情けない。

 「くっ！」

 そう、僕は覚悟を決めて目を閉じかけて……

 「ガッ！」

 「えっ？」

 ーーー そして次の瞬間、僕が軽く投げた石に当たって頭が爆散したゴブリンの姿にこの場の空気が固まった。