王宮ゴシップライターですが、イケメン監察官にバレたら監察補佐に指名されちゃいました

大井町 鶴(おおいまち つる)

文字の大きさ
1 / 1

王宮ゴシップライターですが、イケメン監察官にバレたら監察補佐に指名されちゃいました

しおりを挟む
王宮東棟の人通りのない夜の廊下をウロウロとする侍女の姿があった。

「ないったら、ない~!私のノートどこにいっちゃったの~!!」

気づいたら腰ポーチのフタが開いていた。で、先日、この辺りにネタ帳を落としたと思われる。

(あれを見られたらマズすぎるのに!)

ツェツィーリエは目を皿にしてノートを探していた。

落としたネタ帳に書いてあるのは、この王宮内で見聞きしたネタだ。あんなのを人に知られたら、侍女職をクビになるどころか罰せられる可能性大。

(出てこ~い!)

――ツェツィーリエは没落気味の子爵令嬢で、苦しい実家の生活を助けるために学園を卒業してすぐに王宮で侍女として働いていた。

成績優秀で文章を書くのが好きだったから、新聞社でバリバリと働いてみたいという気持ちがあった。でも、時代は礼法をわきまえている女性を求めている。

(でも、書くのをやめたくない!)

ということで、王宮で見聞きしたことを書いてやろうと決めた。

事実にはこだわり、嘘はかかない。

侍女として働きながら、密かにゴシップ誌で匿名ライターとして活動するのに意外とやりがいを感じていたこの頃だったのだが……。

なのに、ネタ帳を落とした。かなりマズイ。

(王宮にライターが潜んでいる、と言っているようなものじゃないの)

落としたと思われる場所は、王宮住まいをしている者しか立ち入れない場所だ。自ずと疑わしき人物は絞られてしまう。

(ノート、見つかれ見つかれ)

「そこで何をしている?」
「ひえっ!」

自分が見つけられて飛び上がった。

現れたのは背が高くスラリとしている男性だ。月明かりで逆行だからよく顔が見えない。

「わ、私はアンゼルマ様から本を借りて来るように言われてここを通っただけでございます」
「何?アンゼルマ様の侍女か?」
「はい。ツェツィーリエと申しまして、アンペール子爵家の者です」
「ああ、あの没落気味の……いや、失礼。私はフランツ=バルビットだ」

軽く頭を下げる。

彼は、確かバルビット伯爵家の次男で風紀監察官をしている男だ。切れ長な目元と端正な顔立ちで、侍女たちからもキャーキャー言われている。

(ヤバ……私的には会いたくない人なんだけど)

ネタ帳には彼のこともバッチリ書いてある。

「……というわけでして、たいへん急いでおりまして。失礼いたします!」

ツェツィーリエは軽くスカートの裾をつまむと、急いでお辞儀をして立ち去ろうとした。

「ちょっと待て」

鋭い声にピタリと足が止まる。仕方なく、ゆっくりと振り返った。

「君、“本”を持っていないじゃないか。本が見当たらないのはおかしい」
「これから借りにいくところだったんです……」
「アンゼルマ様の侍女は間抜けなのか?図書室はすでに閉まっている」

フランツはジロジロとツェツィーリエを見た。

(な、なにこの人、何気に失礼!)

暗いのをいいことに、ツェツィーリエは思い切り眉間にしわを寄せた。

「実はな、ここでとある物を拾った。それには、ゴシップ誌に載りそうな内容が書かれていてな、この私のことも書かれていた。……というわけで、怪しい者は厳しく尋問することにしている」
「め、迷惑な。私は知りません」

白を切る。

「私は、風紀監察官だ。そんな自分がゴシップ誌などに載るわけにはいかないんだが」
「な、なんで私にそんなお話をするのですか?」

指先をもぞもぞ動かしながら尋ねた。

「私はな、君の書く字をよく知っている。業務報告書のチェックは私もしているのを知らないようだな。君の業務報告書とネタ帳の文字が一致している。意味はわかるな?」
「……!」

正体バレしていて言葉を失う。

「わ、私をどうしようと?お言葉ですが、私はあんな娯楽誌でも事実だけを書くようにしています。それに、報酬分は家に送金していて……大目にみてもらえないでしょうか?」
「人の個人的な情報を売って得た金だぞ?」
「うちの実家が没落気味だと知っているではないですか。まだ幼い弟と妹がいるんです。……それに、あれは私のやりがいでもあるんです……」
「君の個人的な理由じゃないか」

月明かりに反射する彼のダークグリーンの瞳が冷たさを放っている。

(もう終わりだわ)

顔を固まらせ下を向いた。

「……だが、私も悪魔ではない。条件を出そう」
「じ、条件?私にできることでお願いします。愛人になれとか、そういう方向は勘弁してください!」
「君……なかなか失礼だな」

フランツはモテ男だから下心があるのではないかとつい口走ってしまった。だが、なんだか声を引くしたところを見ると、怒っているらしい。

「私の仕事は、王宮内の秩序を守ることだ。不埒なやつらと一緒にしないでくれたまえ。条件を持ち出したのには理由があるからだ。……ノートを見る限り、君は観察眼がなかなかのものだ。だから、私の“監察補佐”として働け。報酬も支払ってやろう」
「えぇ!? 」
「ライターを続けたいならばそちらも続けてもいい。だが、私が精査したもののみ許可する。あと、私については一切、書くな」
「え、めちゃくちゃ好条件じゃないですか。お金が増えるってことですよね」
「それに、私の仕事を手伝うという名誉も得られる」

笑わせようとして言ったのかと思ったが、彼は真顔だった。

(でも、確かに観察補佐なんて私が認められたってことよね)

フランツの提案は、ツェツィーリエの好奇心を刺激しまくった。

「嬉しそうだな。やる、ということでいいな?」
「はい!ありがとうございます」

フランツの目が柔らかく細まったが、暗い中ではツェツィーリエは気付かない。

「では、さっそく仕事をしてもらうぞ」
「え、もうお仕事ですか?」

展開の早さに戸惑った。

「君のネタ帳に“女王陛下の侍医が美女と密会”とあったな?その美女は王弟の親類だ。きな臭いだろ?君のゴシップネタは深刻な事件になるかもしれない」
「え、まさか……」

予想しない話に頬がこわばる。

「これから確認することがたくさんある。君も忙しくなるな」

これはもはや、ゴシップの範疇外なんじゃ……と思いつつ、フランツに言われるまま新たな仕事をすることになったのだった。

――最近、侍女たちの集う休憩所ではこんな話がささやかれている。

「フランツ様とツェツィーリエさん、よく一緒にいるのに、なぜ記事にならないのかしらね?」
「さすがに風紀監察官のことをネタにするのはマズイと思っているのではないかしら?」

そんな侍女たちの噂を背に、ツェツィーリエは今日も書類を抱えて東棟へ向かっていた。フランツに提出する定期報告だ。

いつものように扉をノックをしてフランツの執務室に入る。彼はペンを走らせていたが、顔を上げた。

「おお、来たか。例の件の続報、気になっていたんだ」

現在、派手に高位令息たちに近づいている美女について調査中である。ちなみに、王弟案件の方は、ただのゴシップで平和に終わってホッとした。

「はい。あの美女、どうやら様々な令息を骨抜きにしているみたいで、庭でよく密会をしています。さすがのフランツ様も狙われたら落ちちゃうかもしれませんね」
「そんなわけない」
「なぜです?」

フランツが席を立つと、ツェツィーリエに近づいてくる。

「私は、美しさだけでなく、観察眼と文才のある女性の方が断然、惹かれるな」
「そ、それはどういう……」

目の前でダークグリーンの瞳が妖しく揺れた。

「君は、案外、自分のことには鈍いのだな。こうしたら分かるか?」

フランツはツェツィーリエの髪をすくうとキスして見せた。

「……なんの謀略ですか?」
「疑い深い性格だな」

笑みを深めると、フランツはツェツィーリエを抱き寄せて意地悪く微笑んで見せたのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...