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しおりを挟むシャーロック様は食事を私とよく一緒に取りたがる人だった。
男爵の地位を捨て、銀行家になって忙しく働いていた父とは、なかなか食事を共にすることが出来なかった。
だからこそ、誰かと食事が出来るのが嬉しくて仕方がない。
「アメリア、よく食べて。結婚したら、元気な子どもを産んでほしい」
そんな風に言われて、うっかりカトラリーをガチャンと取り落とした。
「う……あ……はい……」
私の心臓はドキドキと跳ねるばかりだ。
(シャーロック様は、私に恋しているんじゃないかと錯覚してしまう……)
さすが浮名を流してきた人物と言わざるを得ない。
とはいえ、確かに軽口を叩いたり、びっくりするような口説き文句を言ってくることがあるけれど、シャーロック様は基本的に優しくて紳士的な人物だった。
特に私が健康かどうかはよく気にしてくる。
それに、自分の店を持ちたいと考えていた話をすると、彼は穏やかに返してくれた。
「裁判中の友人に事業を展開しているやつがいるから、君が店を構えるのを手伝おうか? 貴婦人が開店するなんて、面白そうだし」
(裁判中の友人って、いったいどんな知り合いなの……?)
気にはなったが、それもシャーロック様の度量の広さなのかもしれないと思うことにした。
(貴婦人が店を開くのを面白がるなんて……やっぱり少し享楽的な男性ね。だけど、女性の社会進出や夢に対しても分かってくれる男性は、今どき珍しくて貴重だわ……)
彼が優雅に肉料理を食する姿を見て、ぼんやりとそんなことを思ったのだった。
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