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16 マクシミリアンside
しおりを挟む部屋に戻ったマクシミリアンは、眠る妻の姿を見つめながら、過去に想いを馳せた。
彼の留学先だったアルスター王国。そこで、テレーゼの父親と交友を深めた。
親友となった数年後、彼は政略結婚で結ばれた妻との間に一女を儲けた。
どちらかといえば父親に雰囲気の似た女児。
育児を使用人に任せるのは普通ではあるが、親友の妻は良い妻とは言い難かった。
次期国王なのに腰の低い親友は、しかしながら娘テレーゼのことをよく可愛がっていた。赤ん坊だった彼女のことを一緒によくあやしたりした。おしめだって変えてやったし、はじめて名前を呼んだのがママでもパパでもなく「マク」だったのに、親友はちょっと残念そうにしていた。
十歳になる前には、テレーゼは大層な美少女に育っていた。
国王になって忙しくなった親友に代わって、彼女を馬に乗せて遠駆けしたり、覚えることが多すぎるると不満を話す彼女に勉学を教えたり、時に息抜きと城を抜け出したりして――すっかり気分は父親気取りだった。
母親の愛情に恵まれなかった自分たちは、どことなく共鳴できるものがあった。
「マクシム様、私に何かあったら必ず駆けつけてくださいますか?」
「ああ、もちろん」
「それと……私が成人を迎えたら、こうやってまたコスモス畑を一緒に見に来てくださいますか?」
「ああ、約束だ」
小さな小指と長い小指が絡み合った。
――この頃のマクシミリアンは、本当にただの家族のようにテレーゼのことを思っていた。
数年経ち、思春期を迎えた彼女が彼に憧れていることにも気づいていた。
だけれど、身近にいる皇子や騎士に惚れるなんてのは、若い時の通過儀礼ぐらいに思っていて、そこそこ軽くあしらっていたのだ。
成人を迎える前に、彼女は他の男と結婚したくはないと言っていた。マクシミリアンとの結婚を望んでいることだって気づいていたのだ。
だけれど、まだ彼女は若いし魅力的だ。
あとは老いていく三十五も過ぎそうな自分よりも、もっと若くて良い男がゴロゴロ出てくる。
甥っ子のベルナルドはテレーゼのことを慕っている。年の近い二人で過ごせば良いと思っていたのだ。
気持ちを伝えたら、聡明な彼女のことだ。
マクシミリアンに対して、気持ちを覗かせるような発言はなくなった。
しばらくツンとして避けられた。
(もう俺のことは諦めたんだろうな)
とはいえ、彼にとって彼女が大切な少女であることは代わりない。
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