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第8章 将軍夫婦の結末
第70話 将軍デュランダル・エスト・グランテ1
しおりを挟む王城内では、剣戟の音が鳴り響いていた。
「近衛のやつらは殺すな――! 俺たちが目指すのは王太后だけだ――!」
怒号の中を、将軍デュランダルが先導しながら、城の赤い絨毯の上を騎士達と共に駆け抜ける。
彼の進んできた道には、数多くの近衛兵たちが折り重なって倒れていた。
「デュランダル様が、全て倒しちゃうから、俺らの出番がないんですけどぉ」
軽い口調で話しかけてくるのは、普段はデュランダルの屋敷の警護を任されている騎士エムジーだった。
そんな彼の方向に、デュランダルが剣を振りかぶる。
「うわっ――! ちょっ――将軍――!」
デュランダルが気でも触れたかと不安になったエムジーだったが、彼の隣からうめき声が聞こえる。
どうやら、エムジーに襲い掛かってきた近衛兵をデュランダルが一掃したようだった。
「うをあっ――ありがとうございました、将軍――!」
「油断してんじゃねぇよ――ほら、行くぞ――!」
最初は挑んでくる近衛兵もいたものの、将軍デュランダルの強さを知っていることもあり、次第に挑んでくるものがいなくなっていった。
段々と、目的の場所である謁見の間が近づいてくる。
そこには、もしものために王族にだけ知らされている城の抜け道がある。
だが、もうその道についても防いである。
だから、王太后は城から脱出出来ずに謁見の間に留まっているはずだった。
「もう少しだ、絶対に気を抜くなよ――!」
デュランダルは背後をついてくる部下数名に声をかけた。
謁見の間の前へとたどり着くと、彼は勢いよく扉を開け放つ。
そうして、中には――。
「お前が来たかデュランダル……この逆賊めが……!」
――ヒステリックな声を上げる、王太后の姿があった。
彼女の隣には、大きな体躯をした筆頭近衛騎士ベイリンが控えている。
「デュランダル! どうして私の邪魔をする! 忌々しい! お前の母親もそうだ! どれだけ追い詰めたって、ドブネズミのごとく這いあがってくる!」
金切り声でわめく王太后に向かって、デュランダルは至極冷静に返した。
「てめぇの悪政のせいで、民が困窮してんのがまだ分かってねぇのかよ……シュタールが、てめぇと兄貴に何回も教えてやってんだろうが――」
「シュタールに言われるならばともかくとして――王の――我が息子ジョワユースの恩恵を受けて、王弟としてこれまで横着な振る舞いをしてきたお前に、そのようなことは言われたくはないわ――!」
デュランダルは一度瞼を瞑った。
息を吸ってから、続ける。
「そうだな……確かに、俺は横暴な振る舞いをするようにしてきた……」
デュランダルは、ふと、妻が手紙に書いていた内容を思い出す。
『愚王だと言われているお兄様よりも優秀な人材だと思われたら、お兄様の立場がなくなってしまいますから。お兄様である国王陛下は、デュランダル様に優しかったそうで、デュランダル様は恩義を感じていると教えてくださいました。乱暴者として横暴に振舞うことで、国王であるお兄様を護られているのだと思います』
ずっとデュランダルのことを見ていた妻は、彼の本質に気づいてくれた。
「……俺は、自分が優秀でない人物として振る舞いさえすれば、それで兄貴の立場を守ってやれる……そう、勘違いしてたんだ――でも、そうじゃない……そうじゃなかったんだよ……」
彼は続けた。
「王太后、子どもの頃の仕打ちのせいで、お前との関わりを避けたくて、必然的に兄貴に何か進言するのを辞めてしまっていた。もっと早い段階で、俺はちゃんと兄貴と向かい合って、対話しないといけなかったのに……」
「それで……!? 結局、お前がやろうとしていることは、『真の王』きどりの王位簒奪ごっこか? 笑わせてくれるな……お前が王などど愚の骨頂!!! ベイリン――忠実な王家のしもべよ、あの愚かな反逆者を打ち負かしてしまえ――! 私が逃げるための時間稼ぎをしなさい!」
そうして、王太后はベイリンにその場を任せると、数名の近衛騎士を連れて、謁見の間から抜け出そうとする。
「……エム! あの女を押さえろ! ベイリンの相手は俺だ!」
「はいっ!」
名を呼ばれたエムジーは、他の騎士達にてきぱきと指示を出す。
王太后たちは、扉の前で騎士達ともみ合う格好になった。
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