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後日談
後日談9 妻は夫の子どもが欲しい(後編)⑥※☆
しおりを挟む疲れてしまったのだろう、繋がったまま、すやすやと眠りについた妻に向かって、デュランダルは声をかける。
『人間の頃の初めての相手……か――』
そんなもの、出来る限り思い出したくはないと、彼は思っていた。
彼が瞼を閉じると思い出す女――銀色の髪に紫色の瞳をした魔女――かつて国母だった女は、今は罪人の島で過ごしていることだろう。
子どもだった彼を、心身ともにずっと虐げ、無理を強いてきた悪女――。
最後に城で会った、あの日が最後だった。
『もう終わったことだ――これできっと完全に、あの女を乗り越えられる――』
瞼を開いた藍色の竜は、愛しい妻を紫の瞳で見つめる。
『なんの役にも立たない――いや、それどころか、フィオが嫌いな竜なんかになっちまったって、嘆くだけで否定してばっかりだったが――』
デュランダルは続ける。
『初めて、竜の自分のことも好きになれた――フィオ、お前のおかげだ――』
彼の頭の中に、先ほど妻が言ってくれた言葉が浮かぶ。
『私、デュランダル様の御子が欲しいんです。だけど、その前に、どんな貴方も受け入れてから、貴方の赤ちゃんを産みたいんです――』
『どんなデュラン様でも、私は大好きなんです』
壊れないように、竜の姿の夫は妻を抱きしめる。そうして彼は、彼女に向かって、愛おしそうに囁いた。
『俺も――どんなお前でも、愛しているよ――フィオーレ……ガキは要らねぇって、ずっと思ってたが、お前との子どもなら、俺も見たい――』
そうして、彼は続ける。
『そうだ、約束したあれを、お前に渡さないとな――もう少し先になるか――お前が母親になる前には渡してやるよ――待っててくれ、フィオ』
彼女を起こさないように、彼は上顎で、彼女の頬に口づけた。
そうして――竜と人の夫婦は、幸せそうに眠りについたのだった――。
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