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共通ルート
浮かび上がる影
しおりを挟む娼館に戻ると幸いなことに抜け出したことは気づかれていないようだった。
監視役の魔法省の人間も逃げ出すことはないと安心しているのか、単に近づきたくないのか階下から上がって来ない。
見つかる前にと簡素な服を脱ぎ、普段着ているドレスに着替える。
この格好でいればどこかへ行っていたなんて思いもよらないはずだ。
これからどうなるんだろう。
事件の行く末に思いを馳せる。
完璧に管理されているはずの状態で客として紛れ込んだ過去の事件の被害者。
その相手にさらに魅了を掛け異常を引き起こした。
あの執着が魅了と無関係とは思えない。
執着の籠もった、既視感のある目は幼い頃に見たものと同じだった。
侯爵家の者を二度も危険に晒したことは本人が身分を偽って娼館の審査をすり抜けたとはいえ、許されることではないだろう。
そもそも彼の魅了は解けていなかったの?
高名な治癒師が彼の治療にあたったはずだし、何度も魅了解除の魔法だって施しているはずなのに。
どうして?
魔法省の人間も改めて調べ直していることだろうけれど、それで判明するんだろうか。
自分の力のことなのに、何もわからないことが歯痒い。
悪いことばかり考えてしまう。
もう、寝よう。
出かけていたから遅い時間になってしまったし、寝不足も魔力の制御の妨げになる。
着替える前にベッドサイドに置いてあるグラスを片そうと寝室に入る。
隣室からの明かりで十分だから灯りは持たなかった。
それが間違いだった。
扉から漏れる灯りを頼りにベッドの脇を通りグラスを掴む。
グラスが受けるわずかな光に、何かが映った気がした。
「……!」
腕を引かれ口を押えられる。
いきなりのことに身体は反応できず、他方向から伸びてきた手が鼻先に布のような物を当てた。
途端くらりとする意識に薬を使われたと理解する。
即効性なのか急速に遠くなる意識に成すすべもない。
どうにか視線だけで自分を捕まえている相手を見ようと首を傾ける。
窓から入る光にかすかに浮かび上がったその相手は、事故を装い私に無体を働いた職員と。
それから、客として再び現れたあの侯爵子息だった。
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