彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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 しかし、わずか数日前までは、年甲斐もなくウキウキしながら訪れたものだが。
 今はその足取りも重く、我ながら一気に老け込んだような気さえする。

――――まぁ、これが現実か。

 オレは二十歳だった頃の若造じゃない、もうとっくに四十に入っている中年だ。
 だが、多生の中では、咲夜は永遠に若く美しい姿のままだろう。
 なら最初から、咲夜には勝てる筈がない。

(みっともねぇな、オレは。ターさんも、こんな中年男に言い寄られても……嬉しい訳がねぇか)

 小さくため息を吐くと、聖は意識を切り替えるように一度だけキュッと唇を噛み、面を上げた。

【ガチャ】

「……入るよ、ターさん。ゴメン。今日は仕事が長引いて、来るのが遅くなっちまった」

 そう声を掛けながら、聖はマンションの扉を開く。
 すると、室内は暗かった。

「ターさん?」

 もしかして、もう寝たのだろうか?
 訝しみながら壁のスイッチに手を伸ばそうとしたら、月明かりの中で、ダイニングで静かに佇んでいる多生が目に入った。

「びっくりした、脅かせるなよ」
「――ああ、holyか」

 パチッと明かりをつけたところ、多生がクシャリと笑う。

「すまん。考え事をしていたら、ずいぶんと時間が経っていたようだ」
「……こんなに暗くなっても気付かない程、その考え事・・・に没頭していたのか?」

 そっと探りを入れてみたところ、それを知ってか知らずか、多生はコクリと頷いた。

「ああ。ずっと考えていた」
「悩み事なら、相談に乗るぜ?」

 さり気なく言うと、多生は何かに気付いたようだ。
 濃い緑の瞳に深い影を落とすと、しばらく無言のまま逡巡する。
 そんな多生の傍に寄り、聖はひっそりと呟いた。
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