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しおりを挟む「あなたは、大きくなったら青柳家の次期当主、正嘉さまへ輿入れするのですよ。ですから、キチンとした教養を身に付けて、誰よりも美しくならねばいけませんよ」
それは、子供の頃から、呪文のようにずっと言われていた言葉だ。
母は、奏を膝上に抱いては、毎日同じ言葉を繰り返す。
メイド達も、それは同じだ。
「昔は、オメガといえばとんでもなく身分の低い、ただ子供を産むだけの肉人形の様な存在として、随分とぞんざいに扱われていたのですよ」
「そうです、本当に酷い扱われようでした」
そう優しく話しかけながら、メイド達は奏の身体に香油を塗り込めるように、マッサージを繰り返す。
毎日、毎日。とても丁寧に。
「――ですから、あなたは本当に幸運な時代に産まれたのです」
「幸運? 」
「そうですとも。オメガは、昔は奴隷の様な扱いで売り買いされたくらいだもの」
「そうなんだ……」
「ええ。しかし、時代は大きく変わりました。アルファよりもベータよりも、元々オメガは数は少なかったのですが、十年前、オメガだけが罹る奇病により、オメガは更にその数を減らしたのです。そして、アルファやベータにも異変が起こりました。それは、彼らの種族間では、子供がなかなか産まれ難くなってしまうという異変でした」
「――――それは、知ってます。家庭教師の先生が仰っていました」
そう返すと、メイドはニッコリと笑った。
「そうですか。さすが、ご聡明でいらっしゃる」
「ええ。そして僕は、今や貴重な存在となった、子供の産める大切なオメガだって」
その言葉を受け、ますますメイドは笑みを深めた。
「そうです! つまり、この家の命運を握るのは、奏さまに掛かっているのですよ」
「……はい、わかっています。僕は結城の家の再興の為にも、必ず正嘉さまの胤を頂き、見事跡取りの子を産んでみせるよう努力します」
わずか十歳の子供が言うようなセリフではなかったが、連日周囲の大人たちから、呪文のように繰り返された言葉だ。
奏はそれを不思議に思う事も疑問に思う事も無く、一途に信じた。
(正嘉さまは、今年お生まれになったばかりのお子様。その可愛らしいお姿は、写真でしか見た事がないけれど……僕は、将来正嘉さまに寵愛されるような番になれるように、頑張ってこの方に相応しいよう自分を磨かないと……)
そうすれば、自分も幸せになれるし、周りの大人たち全員も幸せになれる。
――――言葉巧みに、奏はそう信じ込まされ育ったのだった。
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