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 すると、正嘉は逡巡する素振りもなく答えた。

 正嘉にとっては、奏が身籠ったのは恋敵である栄太の胤だ。

 迷う理由もない。

「ああ、そうだ。オレが欲しいのは赤子ではなく、結城奏、お前だけだ。こんなに自分以外の誰かのことを考えたことは、今まで一度としてなかった。それに……オレにとってはどうでもいい人種である筈のベータの男に対しても、どうにも意趣返しをしなければ気が済まない思いを味わうなど、初めての事だった」

「ベータの男? 栄太さんのことですか? 」

「そうだ。お前はオレのモノだと、口と態度で示さずにはいられなかった」

 土地売買に絡んで取った己の態度が、今更ながら、恋敵に対する意趣返し意地悪に他ならないと気付いてしまった正嘉だ。

 冷静になって考えると、やはり答えはそれしかない。

 正嘉は、栄太に対して嫉妬したのだ。

 奏のお腹には、馬淵栄太の子が宿っている。

 番である自分を差し置いて、奏に受胎させたことを思うと――――やはり、どうにも気分が悪くなる。

 こんな嫉妬のような感情など、今まで味わった事の無い正嘉だ。

 少年だった頃、本気で好きになりかけていたオメガの令嬢もいたが、その令嬢のあまりの浅ましさ淫乱さに、相手の男に対しては嫉妬など抱きようがなかった。

 ただただ、哀しかった記憶がある。

 それ以来、オメガなど本気で愛する価値もないインチキで破廉恥な種族だと思っていたが。

 だが、ここに、それを裏切るオメガがいた。

「何度も言うぞ、結城奏」

「はい」

「オレは、お前が好きだ。お前だけを・・・・・・愛している。オレはそれを――――自覚した」

「…………はい」

 奏は正嘉の言葉を受けて、幸福そうに微笑んだ。




 正嘉とは紆余曲折あったが、今度こそ信じてみようと――――愛していけると、そう感じた。
 




 奏は、我が身に宿った新たな命も、当然、正嘉にとっては宝だろうと思っていた。

 この時……もっとよく確認するべきだったのに。

 正嘉と栄太は知っていて、奏だけが知らなかった。




 子供の父親が、栄太だという事を。




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