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43 サラダとだらだらと①

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「あたしさー、この番組嫌い」

 と不意にサラダは言った。
 平日だったが、時間が合ったので、彼女はうちに来ていた。
 最近その回数が増えつつあった。
 そんな時には無意味にTVをつけている。
 格別見たいという番組があるという訳ではないから、BGMのようなものである。

「嫌い?」

 それは、今まで事業やら店やらに失敗した人々が、TVの力を借りて、立て直そうという企画番組だった。

「ああこれ。結構うちの会社のひとも見てるけど」
「何かさあ、嫌なかんじ」

 それは私も感じていた。
 無論そんなものだったら、BGMにする必要は無い。
 チャンネルを変える。

「確かに貧乏から脱出しよう、って人が、本気になるために、というのは判るけれど、何かそれだけ? って感じちゃうんだよね。じゃあ、それ以外の、もっと気楽に、貧乏でもいいから、って生きてる人は生きてちゃいけないのか、って気がしちゃうんだもの」

 なるほど、と私は彼女にお茶をつぎながら思った。

「だけどああいう番組に出るひとの場合は、それでも一応そうしようって決めたひと達なんだからさ」
「それはそうだけど。だけどあたしは、自分が楽しいと思えることにしか真剣にはなれないよ。だからそれ以外には、そうそう大きなエネルギー使えないし、そのせいで貧乏しても仕方ないって思うもん」
「たぶんさあ、貧乏の度合いが違うんだよ。それこそ毎日のおかずにも困るとかさ、家族を養っていかなくちゃいけないとか」
「そりゃあそうだけどさ」

 彼女はまだ何か言いたそうだった。
 そういうことじゃなくて、とぶつぶつとつぶやいている。
 だが確かに私もその番組は好きではない。
 どのあたりが嫌か、と言えば。
 サラダの言い分に近いのだが、彼女のように、「楽しいこと」が強烈でないとしても、だ。
 無論「どうしてもしなくてはならないこと」があったなら、それに立ち向かう方法を、熱意を、根性を必要とするのだろうが、どうしてその時に、誰かが通ってきた方法を取らせようとするのだろう。
 確かに時間が無い時には有効な手段かもしれない。
 教えるひとは、それしか知らないのかもしれないし、それが最良の手段と思っているかもしれない。
 だがそれは、そこまでその人がたどってきたやり方というものを、全く否定するということではなかろうか。
 その方法で上手くやってきた人は自信を持ってその方法を勧めるのかもしれないし、受ける相手は、藁にもすがる思いなのかもしれないが。
 それでも、だ。

 そのあたりが、納得いかないのだ。

 私は自分が自分であることが時々無性に嫌になり、悩んだり嫌になったり、時には全部投げ捨ててしまいたくなることがあるのだが、そういう自分に関しては、実はあんまり嫌いではない。
 そんな試行錯誤と、迷ったり悩んだりした時に逃げ場として手を出したものも、全く役に立たない訳ではないからだ。
 無論それは、私が一応腰掛けだろうが何だろうが、「OL」という位置で不安定な安定を手にしているという前提の上だ。
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