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127 怪奇俳優の誕生④
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「自由?」
問い返すテンダーにマリナは頷く。
「そう。動くにせよ何にせよ、枠があったならあったなりに、無いなら大胆にそれを越えて、顧客と必要とされる場に合うものになるのよ。私なぞ長年の肩凝りがずいぶんよくなったものよ」
「肩凝り……」
「ああ、確かに! 私もテンダー嬢の服を普段着にしてから、足腰の痛みが減りましたわ」
「私も。あれは何なんでしょうね」
ああそういうことか、とテンダーは納得した。
「コルセット無しということもあるのですが、バランスの問題もあるんです」
「バランス?」
「私は皆様に靴に関しても申し上げましたでしょう? 皆様それをちゃんと守って下さるのが一番の理由です」
そう、靴。
テンダーは自分の服に合うのは高い靴ではない、歩きやすい低いかかと――ただしぺたんこではない――を主張してきた。
「まるで学生の頃みたい、と思ったけど、確かにあの頃は走り回ったりもしたものね。別に大人になったからそれは止めなくてはならない、という決まりがある訳ではないのに、ついつい流れで高いかかとの靴を用意されるままに履いていたけど。だから言われた通り、出入りの靴屋に低いかかとで足に合ったものを作ってもらったわ。ねえ?」
ええ、と女優達は頷く。
「でも何故靴が?」
「……これはポーレの経験からなんですが、重い肩掛け鞄を持ちすぎるとだんだん肩が下がるんだそうです。常に立ち作業であまり動き回らない料理人は足首や膝をやられやすいし。だけどこれがちょっとした靴の工夫で楽になることがあったというんですよ」
職種は違えど、動き回るものであることは変わらない。
そこで色々考え、時にはセレを通して技術屋達な意見を聞いた結果、バランスが大事だ、ということにテンダーは気付いた。
「足の力が右にばかりかかると、左の腰に負担がかかります。これは下からの力で、右肩に重いものを持った場合、やっぱり左の腰に負担がかかります。これは物を持った場合なんです――服でも同じです」
「服でも?」
「服ならなおさら。重いものはちょっと持っては持ち替えができるかもしれませんが、引きつったり動きが取りにくい服は、少しの我慢を一日中続けなくてはならないですから。肩凝りや腰痛はあって当たり前と思う前に、原因を探った方がいいと思うのです。……というか、私自身が領地でドレスを着なくてはならない時に実感したのですが」
テンダーはそう言って苦笑した。
そして口にはしないが。
常に自分に合う服が無くて何とかあるものを直していたというヒドゥンは、相当無理をしていたのだろうと思った。
大きすぎるシャツは肩がずり落ちる。
布の量も多い。
詰めればその分縫い目が増えて糸の分重さが増す。
初めから彼に合わせたものを作らない限り、常にあの華奢な身体に無駄な負担がかかっていたのだろうと。
時には女性用のブラウスを借りたこともあるらしいが、素材もデザインも男性用ほどシンプルなものが無いのでそれはそれで探すのに苦労したということだった。
とりあえず彼には、せっかく作った型紙でさくさくと注文されたシャツを色や素材違い含めて十枚がところ用意した。
その喜び様と言ったら。
と同時に、確かに女性用のシンプルなものは制服にしか無かったのだな、と改めてテンダーは感じた。
誰もが注文服を着られる訳ではない。
庶民は自分で作る場合もある。
子供の服など特にそうだ。そして使い回しする。
が、その時間が無ければやはり吊るしを買うのだ。
買ったのちにそれぞれに合う様に調整する。
それは庶民の主婦にとって必要な技術だった。
だったら?
「――ンダー、ねえ!」
ヘリテージュが呼んでいたのにはっとする。
「ああごめんなさい、ちょっと考え事していて」
「何かまた、事業のヒントになること?」
「どうかしらね」
そう前置きしつつ、テンダーは考えていたことの断片を友人に告げた。
「うーん…… それはまだまだ市場調査とか必要よね。でも面白いわ。吊るしにしてもちゃんとサイズを決めたらどうか、ってのは」
「大きな人も小さな人も自分で選ぶことができたらいいと思って」
はいはい、とヘリテージュは意味ありげに笑った。
問い返すテンダーにマリナは頷く。
「そう。動くにせよ何にせよ、枠があったならあったなりに、無いなら大胆にそれを越えて、顧客と必要とされる場に合うものになるのよ。私なぞ長年の肩凝りがずいぶんよくなったものよ」
「肩凝り……」
「ああ、確かに! 私もテンダー嬢の服を普段着にしてから、足腰の痛みが減りましたわ」
「私も。あれは何なんでしょうね」
ああそういうことか、とテンダーは納得した。
「コルセット無しということもあるのですが、バランスの問題もあるんです」
「バランス?」
「私は皆様に靴に関しても申し上げましたでしょう? 皆様それをちゃんと守って下さるのが一番の理由です」
そう、靴。
テンダーは自分の服に合うのは高い靴ではない、歩きやすい低いかかと――ただしぺたんこではない――を主張してきた。
「まるで学生の頃みたい、と思ったけど、確かにあの頃は走り回ったりもしたものね。別に大人になったからそれは止めなくてはならない、という決まりがある訳ではないのに、ついつい流れで高いかかとの靴を用意されるままに履いていたけど。だから言われた通り、出入りの靴屋に低いかかとで足に合ったものを作ってもらったわ。ねえ?」
ええ、と女優達は頷く。
「でも何故靴が?」
「……これはポーレの経験からなんですが、重い肩掛け鞄を持ちすぎるとだんだん肩が下がるんだそうです。常に立ち作業であまり動き回らない料理人は足首や膝をやられやすいし。だけどこれがちょっとした靴の工夫で楽になることがあったというんですよ」
職種は違えど、動き回るものであることは変わらない。
そこで色々考え、時にはセレを通して技術屋達な意見を聞いた結果、バランスが大事だ、ということにテンダーは気付いた。
「足の力が右にばかりかかると、左の腰に負担がかかります。これは下からの力で、右肩に重いものを持った場合、やっぱり左の腰に負担がかかります。これは物を持った場合なんです――服でも同じです」
「服でも?」
「服ならなおさら。重いものはちょっと持っては持ち替えができるかもしれませんが、引きつったり動きが取りにくい服は、少しの我慢を一日中続けなくてはならないですから。肩凝りや腰痛はあって当たり前と思う前に、原因を探った方がいいと思うのです。……というか、私自身が領地でドレスを着なくてはならない時に実感したのですが」
テンダーはそう言って苦笑した。
そして口にはしないが。
常に自分に合う服が無くて何とかあるものを直していたというヒドゥンは、相当無理をしていたのだろうと思った。
大きすぎるシャツは肩がずり落ちる。
布の量も多い。
詰めればその分縫い目が増えて糸の分重さが増す。
初めから彼に合わせたものを作らない限り、常にあの華奢な身体に無駄な負担がかかっていたのだろうと。
時には女性用のブラウスを借りたこともあるらしいが、素材もデザインも男性用ほどシンプルなものが無いのでそれはそれで探すのに苦労したということだった。
とりあえず彼には、せっかく作った型紙でさくさくと注文されたシャツを色や素材違い含めて十枚がところ用意した。
その喜び様と言ったら。
と同時に、確かに女性用のシンプルなものは制服にしか無かったのだな、と改めてテンダーは感じた。
誰もが注文服を着られる訳ではない。
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が、その時間が無ければやはり吊るしを買うのだ。
買ったのちにそれぞれに合う様に調整する。
それは庶民の主婦にとって必要な技術だった。
だったら?
「――ンダー、ねえ!」
ヘリテージュが呼んでいたのにはっとする。
「ああごめんなさい、ちょっと考え事していて」
「何かまた、事業のヒントになること?」
「どうかしらね」
そう前置きしつつ、テンダーは考えていたことの断片を友人に告げた。
「うーん…… それはまだまだ市場調査とか必要よね。でも面白いわ。吊るしにしてもちゃんとサイズを決めたらどうか、ってのは」
「大きな人も小さな人も自分で選ぶことができたらいいと思って」
はいはい、とヘリテージュは意味ありげに笑った。
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