〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩

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171 発表会の準備④シンプル+柄

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 とりあえずテンダーはメインにもってきたいラインの意匠画を幾つか描いて工房の皆に見せた。

「もの凄くまっすぐですね」

 サミューリンは首を傾げた。
 テンダーが挙げたのはともかく上下が分かれたものだった。
 ブラウスとスカートの組み合わせ。

「今回は形はあまり変えないで、色柄の組み合わせでどれだけ雰囲気が変えられるのか、というのを試してみたいの」
「色柄」

 テンダーはかつてから色々使ってみたいと思っていた南東辺境領産の薄い布を取り出した。

「極東の島国の服は、形が皆一緒なんですって。違いはただもうその布にかかっていると言っていい程、と読んだこともあるし、少し前にその件を手紙で南東の友達に聞いてみたの」

 キリューテリャは相変わらず市場に敏感で、何かというとテンダーにこちらではどうだ、ということを伝えたり、現物を送ってきたりする。
 テンダーもその一つを使ってドレスを作ったこともあるのだが――残念なことに、その頃前の工房で作っていたものには今一つ合わなかった。

「形がすっきりしたものの場合、色柄が何よりものを言うわ。同じ形でそれこそ厳粛な場にも華やかなお祭りにも出られるのよ」

 成る程、と三人は頷いた。
 「画報」の特集号もその場で開いてみる。
 色鮮やかな花を大きくぽん、と染め付けたもの、濃い地に白抜きで細かな模様が描かれたもの、かと思えば布の端の部分だけにわんさかと繰り返しの模様が描かれたもの――

「で、向こうは常に春夏の様なものでしょう?」
「そう言えばそうですね。着るものは現地で考えた方がいい、と私も言われました」
「キリューテリャ曰く、向こうの夏は蒸し暑くて、できるだけ屋内で風を送ってもらわないといけないくらいということよ。ポーレもがんばって」
「……それで、こういった向こうの布を使うんですね」
「まあね。で、うちの通例でコルセットではなく、簡単な下着。今回はスカートの下が透けないため、ということもあるの。向こうの布は薄いから」
「ああ、以前の蝉の羽根……」
「蝉の羽根を利用したものも考えたのだけど、ちょっとあれはうちの服を買ってくれるお嬢さん方には手が届きにくいし。まだ今の段階ではね。そのうち安価になったら透け感を使って重ねた下の柄を見せると言う方向でもいいわ。でもその前に、まずは向こうの布を生かすのが来年の目的」

 そして、とテンダーは意匠画の一つを取り上げる。

「どの布地を使うにしても、今回見せる側としてはルールを決めようと思うの」

 どういう意味だろう、と三人は首を傾げた。

「柄ものは基本的にはスカート。できるだけたっぷりふんわりとする様に。だけどその時の上着は絶対に無地。できれば白地。上着に柄を使うならば、スカートは無地の、あまり広がらないものにする」
「ああ!」

 つまり、とサミューリンは二つの意匠画を出す。

「こっちのラインが柄スカート、こっちのラインが柄上着、ということですね」

 テンダーは満足げに頷いた。

「ひらひらしたスカートは、そうね、舞台に出てくるりと回ると花の様に感じるような。お嬢さん方としては、ほら、舞踏会のドレスの広がりをも思わせる様にね。で、こっちのすっと…… 真っ直ぐとまではいかないけど、わりとすとん、と落ちる様なものは、落ち着いた奥さん達の外出着にいいんじゃないかな、と思うの」
「柄+柄で注文する人が居たら?」

 ポーレは訊ねた。

「まあその時は、注文する人の意向に任せるけど。でもそれはちょっと、上下ともごちゃごちゃしたものはどう? というのが私達の工房の今回の主張でもあるのよね」

 そう言えば、とポーレも思う。

「確かに割と今まで上下込みのドレスが多かったですが、その場合一枚が高価になるし、それでいて着回しができませんからね」
「そう。分けて、それを外出着にできるよ、ということを示せば、お客様もそれまでと同じ価格で、違うものを幾つか買って着回すことができるんじゃないかしら」
「そうすると注文が増えかねないですね」
「だからこそのこのデザインそのものの簡略化よ。まあ正直、作ろうと思えばちょっと裁縫を学んだ人なら作れるわ。その場合は布を注文しなくてはならないけどね。その手間が難しいと思えば、うちに注文が来る」
「うちは南東とのつながりがあるから!」
「そう! ポーレもこれからはよろしく」

 がしっ、とテンダーは乳姉妹の肩を掴んでにっこりと笑った。
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