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3 朝寝坊の宵っ張り

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(ラフェド視点)


 自分の尊敬する上司である若の感動的な結婚式の翌朝、私はする事もないので、掃除でもしようと、若の書斎のドアを開けた。

 初夜を済ませた若とレーニャ様はきっと昼過ぎまでお目覚めにならないだろう……そう思っていたのだ。

 しかし……書斎のドアの開けると、若はすでにお一人でいつものように仕事をされていたのである。


 その時に初めて、初夜の直前、レーニャ様が忽然とお姿を消されたと聞き、私は信じられなかった。

 結婚式では、あんなに幸せそうだったのに……2人で愛を誓いあっていたのに……。



 状況からすれば、結婚式のあの夜に、リーベルス家の屋敷に侵入し、誰にも見つかることなく花嫁を誘拐するなど、到底不可能な事なのだ。
 
 事実を知る全員がそう感じていたので、事件性よりも自発的失踪の線で重点的に捜索を広げたが、結局、レーニャ様の足取りどころか、痕跡ひとつ見つからず……3日が経過した。

 若と旦那様は、3日目の夜を最後に、部下へ指示していたレーニャ様の捜索の全てをやめさせてしまったので、せめて自分だけでも、と思い、私は仕事の合間にレーニャ様の行方を探す事にしたのである。



 レーニャ様が行方不明であるというその事実は、絶対に周囲に知られてはならなかった。

 初夜の直前に花嫁に逃げられたなどと知られては、若は一生笑い者……リーベルス家の後継者としては、あってはならない事態だ。



 それだけでなく、若の祖父にあたる御隠居に知られてしまえば、大目玉を食らい、若にリーベルス家当主の座を継がせない、とすら言いかねない。

 それほどに、獣人界では夫婦、つがいは重要視されるのである。

 そのため若と旦那様は相談し、一芝居うつ事にし、若はレーニャ様と新婚旅行と称して海外へ行ったフリをし、半月ほど屋敷には戻らず、1人別宅で生活を送られたのだ。

 そして半月後、若は1人屋敷へ戻るも、それ自体は誰も不思議には思わなかった。

 何故なら、獣人の愛の深さゆえに花嫁がハネムーンで夫に抱き潰され、動けなくなるというのはよくある話で、むしろ仲が良い、早々に子宝に恵まれる、と称賛されるのである。

 レーニャ様はハネムーン先のホテルに滞在しながら身体を休めている、という事にされ、しばらくは事実を隠蔽する事が出来ていた。


 しかし、さすがにそれからさらに半月も新妻が戻らないとなると、怪しまれる可能性があるため、若は時々レーニャ様の滞在先に行くふりをして、実際は別宅に籠もるという生活を何回か繰り返していたのだ。



 そんな生活も、そろそろ限界を感じていたその頃、私はふと、市が運営している人間の迷子センターに脚が向き、 迷子人間の掲示板を端から眺めていた。


「っ!!」

 そして見つけたのである。

 レーニャ様にそっくりの人間・・を。
 あの時の感動は今でも忘れられない。


 私は直ぐ様、若ではなく、旦那様と連絡を取り合い、レーニャ様そっくりの迷子人間を、飼い主として迎えに行く事にしたのだった。

 何故連絡をしたのが、若ではなく旦那様だったのかというと……若はレーニャ様を失ってから、我々よりもあまり会話をされず、無口になられいつも難しい顔をして仕事ばかりされていたのである。

 それだけ、若はレーニャ様の失踪に心を傷めていらしたのだろう。

 そんな方に、そっくりな人間を見つけた、と伝えるのは、かなりの賭けだった。

 だからこそ、私は旦那様に連絡し判断を仰いだのである。


 私の判断は正しかった。

 旦那様はすぐにその人間をひとまずの影武者としよう、とお決めになり、我々は迷子人間が滞在していた病院に迎えに行ったのだった。


 入院中のレーニャ様そっくりの人間を待つ間、飼い主が見る事ができるカルテの入院の経緯の欄を確認していると、“突然空から降ってきた、と男性が担いで来院、患者は意識不明の状態”との記載があり、その内容を不思議に思っていると、病室の方から話し声が聞こえてきた。

 そして私は、目的の人間と対面する。



「っ!」


 髪は短いが、あまりにもレーニャ様にそっくりなその姿に、思わず言葉に詰まってしまった。

 迷子センターの写真で見た際は、少し幼く見えたが、実物は身長もあり、身体の造りも成人しているようだったので、問題なくレーニャ様の代わりになりそうだと安心する。



 きっと、若も旦那様も驚かれるだろう。








 その後屋敷へ到着し、2ヶ月ぶりとなるレーニャ様の突然のご帰宅に、使用人達はとても驚いていた。
 誰一人として、別人とは思っていなかっただろう。

 頭に耳がない事と、髪の短さを隠すため、帽子を用意しておいて正確だったと、自分で自分の機転の聞いた行動を褒めてやる。


 私は旦那様の書斎に人間を案内した後、そのまま部屋の隅で待機し、旦那様と人間の契約成立を待ち、成立した後、すぐに雇用契約書を回収した。

 雇用契約書には、口頭では伝えていない内容も記載してあったからだ。

 人間は契約書の内容をきちんと読む事もなく、あっさりサインしたので、こちらとしてはラッキーだった。







 その後、私が人間のレーニャ様と2人で話した限りでは、物わかりもよく、かなり知性のある人間であるようだったので、かなりいい拾い物だったと感じた。

 何故、あんなにお利口で可愛らしい子が捨てられたのだろうか。

 だが、もしも本当に迷子で、本当の飼い主が血眼で探しているとなると大変な事になるかもしれない。

 でも、血眼で探しているならまずは迷子センターですぐに見つかるはずだ。

 私が彼女を見つけた時には、すでに迷子の掲載から一週間は経過していたので、飼い主は探していないのだろう……と、いう事にしておこう。


 彼女の存在が少しでも若の心を救ってくれるといいのだが……。


 私はお二人を全力でサポートしようと心誓った。


 そして、本物のレーニャ様探しも引き続き行って行くつもりだ。




 ○○●●


(レオポルト視点)
 

 レーニャが消えてから、俺の生活は一変した。

 存在しない妻を溺愛しているフリをし、別宅と本邸とを行ったり来たり……自分でしていて、実に滑稽で仕方ない。



 誰にも話してはいないが、今回のレーニャの失踪は俺とレーニャが事前に計画していた事だった。


「愛する人がいるの、貴方とは結婚できない」

 見合いの日、まっすぐに俺の目を見てそう言い放った彼女は美しかった。


 しかし、我々の気持ちなど関係ないこの縁談は回避する事など到底不可能。

 ならば、と、2人で計画したのだ。


 しかし、事件は起きてしまった。


 彼女の恋人は、彼女の父親の組の幹部だったため、俺の父親の指示で御取り潰し……つまり皆殺しにされてしまう事が決まっていた。

 しかし俺は彼女に頼まれ、御取り潰し決行の前に彼女の恋人を逃がしたのである。


 そして彼女は怪しまれないためにも、予定通り俺と結婚したフリをした、というわけだ。


 こんな事が父上や祖父にバレれば、俺は破門になるだろう。

 そうなればそれはそれで俺はよかった。


 だが、リーベルス家の一人息子である俺には、自分の気持ちとは別に、組を維持していく義務がある。

 決して胸を張れる稼業ではないが、それでもリーベルス家以外に行き場のない者が沢山いる事も事実だ……リーベルス家がなくなれば違う組が出来るだけではあるが、裏社会の秩序は乱れに乱れるだろう。

 さすがにそれは俺とて望んではいない。

 ゆえに、出来る限りはレーニャの事はバレないように穏便に離縁しようと考えていた。


 上位種の獣人は子孫を残す意味合いから、1年以上経っても子が出来ない場合のみ、離縁し、次のつがいを持つ事が許されるのだ。

 もちろん獣人は一夫一妻が大原則である事から、2人妻を持つことは許されない。

 愛し合う2人で子が出来ない場合は大変残酷ではあるが、子を諦めるという選択もないわけではない。
 男に問題があれば、そもそもが無駄な話しなのだから。


 レーニャをハネムーン先に、別宅に、と囲って愛し合うフリをし続け、なんとかして1年間は周囲を欺こうと考えていた。

 一方で事情を知る者達の前では、妻を失い傷心したように振る舞い、仕事に打ち込むフリをしたのだが……それが裏目にでてしまったようである。

 傷心した様子が俺の演技とも知らず、ラフェドと父上が、レーニャそっくりの人間を見つけてきてしまった。


 その日、彼女が父上とラフェドと共に俺の部屋に現れた時、とにかく驚いた。


「レオポルト、ラフェドがレーニャに似た人間を見つけてな、1年は影武者として飼う・・事にした、今日から夫婦として怪しまれぬよう過ごせ」

「……」

 レーニャそっくりの人間は、俺の目をじっと見つめていた。
 人間は我々獣人に対して、じっと視線を交える事など、よほどの信頼関係が無ければありえない。
 何故なら、我々獣人はじっと見つめられるとついつい敵意を感じてしまうからだ。

 だがレーニャにそっくりのその人間は、俺の顔をじっと見つめ、何か他の事を考えている余裕すら感じられた。


 しかし、俺はどうリアクションすればいい?
 レーニャそっくりの彼女の登場に喜ぶべきか? それとも、所詮偽物、と素っ気なくするべきか?

 俺は脳内で素早く最善の答えを導き出した。

 どうせ夫婦のフリをするならば、素っ気なくすると気まずくなるだけだ。

 それであれば……。


「……レーニャ! 会いたかった……」

 俺は立ち上がり、あたかもレーニャに会えて嬉しい、とばかりに人間をギュッと抱きしめる。


 実際は、本物のレーニャすら抱きしめた事などない。

 しかし、偽物のレーニャは柔らかく温かかった。


 俺が偽物のレーニャを受け入れた様子に満足したのか、父上とラフェドは俺達が抱き合っている間に、静かに部屋を出て行ったようだ。





「……」
「……」

 2人きりの室内。

 俺はすぐにパッと身体を離し、念の為部屋に鍵をかけ、防音魔法を発動した。


「……」
「……」


「あぁ……レーニャ、と呼ぶべきか? ……いきなり抱きしめて悪かったな、適当に楽にしててくれ……」

 俺の豹変ぶりに、少し驚いた表情を見せたレーニャ。

 ……こいつには事情を話しておくべきか?
 いきなり夫婦になれと言われて色々と心配しているかもしれないな。


「父上とラフェドがどんな経緯でなんと説明したかはわからないが、悪いが俺はレーニャを失って本気で落ち込んでしたわけではないんだ、事情があって演技していた」

「……そうですか、それはよかったです」

 声までそっくりな人間のレーニャは、ニコリとして相変わらず俺を見たまま視線をそらす様子はない。

「私は今日から1年間、レーニャさんのフリをしてレオさんと仲睦まじい夫婦を演じるために雇用されました、仕事ですので、私の事はどうぞお構いなく、今日から宜しくお願いします」

 そう口にした目の前人間のレーニャは、いつしかの見合いの日に見たレーニャに似ていた。

 私が美しいと感じた、凛として、自分の意志を持つ目をしている。

 ……今日から彼女がレーニャだ。

「……そうか、それならばいい、お互い骨が折れるが、1年間、仕事として頑張ってくれ、そちらがそうならば、俺も良き夫のフリを頑張るさ」


 楽にしろと言われたからか、レーニャは俺の部屋にある大きなソファーにちょこんと座った。

 耳と尻尾は父上が魔法で生やしたのだろうが、本物の獣人ではないからか、レーニャからは獣人特有の警戒心や威圧感が全く感じられない。

 むしろ、人間が獣人を前にしているというのに、恐怖心どころか緊張感すら感じられなかった。


「……レーニャは獣人が怖くないのか?」

 つい話しかけてしまった。

「怖くありません、むしろ、その愛くるしい耳と尻尾に萌っと思ってます」

 も、もえ? もえとはなんだ? ……?


「レーニャ、2人の時まで敬語を使う必要はないぞ」

「わかりました、ですがこの話し方の方が楽なので演技中以外はこのままでお願いします……“安心してレオ、人前では上手くやるから”っ」


「……っ」


 突然の気安い言葉と、自分の名を呼ぶと共に向けられた彼女の屈託のない笑顔に、一瞬戸惑う。

 父上が選んだ者である以上は、見た目以外もレーニャの影武者としての能力は合格だったのだろう。
 
 知性のかけらもないただの愛玩人間であれば、とてもじゃないが、極道のサラブレッドであるレーニャのフリをするなど無理である事は父上もわかっているはずだ。


 正直俺は、祖父と同じ考えで、人間をペットになどする奴の気が知れなかった。

 人間は俺達と何も変わらない。

 ただ、獣人特有の身体的特徴がないだけで、それ以外は同じだ。
 それは我が家で働く人間達がすでに証明している。


 だからとは言わないが、俺はペットとしての人間とはあまり関わりがなかった。

 おそらくレーニャは、父上に見つけられるまではどこかでペットとして飼われていたはずだ。
 飼い主と死別か捨てられたか……。

 さすがの父上なラフェドでも、誘拐はないだろう。


「レーニャ、少し早いがそろそろ夕食の時間だ、行こうか……初仕事だぞ」

「承知しました」







 2人で手をつなぎ食事の部屋に入ると、すでに待っていたらしい父上がラフェドと話しをしていた。

 父上は、チラっと俺達の手元を見ては、満足そうにしている。

 レーニャからは相変わらず緊張感は感じられない、初仕事とはいえ、とてもリラックスした様子で自然だ。
 これが演技であれば、とんでもない逸材だろう。


「早いですね父上……おいでレーニャ、一緒に食べよう」


 俺はレーニャを小さな子供のように自身の膝の上に乗せ、食事を口に運んでやる事にした。

 俺が幼い頃、父上が母上にしていた事を真似してみる事にしたのだ。
 もちろん、本物のレーニャにはしたことはないし、俺自身、演技でなければ絶対にしない。


 その様子に、父上もラフェドも、配膳を行う使用人他、その場にいる全員が、信じられない物でも見るかのように動きを止めて、じっと俺達を見ていた。


 言われるがまま、俺の膝の上に素直に乗り、美味しそうに食事を頬張るレーニャは、周囲のその様子に、嬉しそうにコソッと私に耳打ちする。

「仲良し夫婦のフリ、大成功ですねっ」

「……ああ、そのようだな、その調子で頼む」

「承知しましたっ(にっこり)」


 なんだ……ノリノリか、俺。


 
 
 ○○●●

 
(ルカ=レーニャ視点)


 夕食の前に、夫となるレオさんと初対面でした。

 レオさんは……ラフさんの言っていたとおり、とんでもイケメンでした。
 が、やっぱり耳があるせいか、萌えキュンです。

 ブラックタイガーというだけあり、本当に耳の虎柄が黒かった事には驚きました。

 旦那様のような通常の黒と黄色の虎柄ではなく、レオさんはグレーと黒の虎柄でとてもカッコイイ。


 旦那様が私の事を簡潔にそれはそれは簡潔に紹介すると、レオさんは何かを考えた後立ち上がり、私を抱きしめました。

「……レーニャ! 会いたかった……」


 と、感情のこもっていないセリフと共に……。


 とはいえ、旦那様やラフさんの事は騙せたようです。
 普通であれば気付かない程度のものですが、忍者である私には演技だとわかりました。


 その後、2人きりになると急に態度が変わったレオさんが、これまでに旦那様達に見せていたのは全て演技だったと話してくれましたが、私には正直どうでもいいです。

 私は与えられた仕事を全うするだけ。

 私は今日から1年間、愛され獣人妻となり、1年後、人間に戻って報酬を得たら、自由に生きるのです。

 私達は、互いに頑張ろうと気合いを入れ合いました。






 夕食の時、いきなりレオさんの膝の上に乗せられて餌付けされた時は、正直びっくりしましたが、その行動は周囲へのラブラブアピールには効果てきめんだったようです。

 私は初仕事の成功に、嬉しくなり、いたずらが成功した子供のようにレオさんにコソッと耳打ちすれば、レオさんも耳打ちで返してくれたので、またもや一見すると親密さアピールになりました。

 レオさんは思ったよりも愛妻家の演技がとても上手です、愛妻家だという獣人ですから、身近にいいお手本夫婦でもいるのかもしれませんね。

 正直私は、獣人の愛妻家ぶりがいかほどなのか、全く想像もつかないので、レオさんのする事に乗っかるしか手立てはありません。
 ラフさんは、上位種ほど愛妻家だと言っていたので、レオさんもそのつもりで過剰に演じているのでしょう。


 無事に初仕事をこなした後は、寝るだけです。




 そして夕食の後、お風呂にゆっくり入った私は自分の部屋と扉1枚で繋がる夫婦の寝室のドアを開けました。

 もちろんレオさんの姿はありません。

 夕食の後、もう少し仕事をすると言っていたから、きっとまだ仕事中なのでしょう。

 共に眠る、そのまま一緒に寝るだけであれば、別に起きて待っている必要はないかもしれないが、レオさんと2人きりで話しが出来るのは今の所、寝室だけな気がするので、今夜は待っていようと思います。


 が……私としたことが、寝てしまったみたいです。


 ……まだ日が昇らない朝方、目を覚ますと隣には虎の耳の生えた男性が上半身裸で眠っていました。

 そして何故か、私の身体をギュッと抱いて眠っていらっしゃる。

 男性の裸くらいは、お師匠様が自宅裸族であった事から、慣れておりますので動揺はしませんが、身動きが取れないのは問題です。

 ですがここは異世界。
 私はペット……妻……危険はさほどないでしょう。

 これ幸いに、と、私はレオさんの顔を観察します。


 ヒゲの痕すら無いつるつるスベスベの肌に、長くて濃いまつ毛……形のいい眉にすっとした鼻筋からのなんかエロい唇……。

 レオさんもお風呂に入ったからか、日中は上がっていた前髪がおりて、なんだか私と同い年くらい見えます。

 と、ここでふと見上げれば、虎耳がピコピコと動いていました。


「……レオさん、もしかして起きてますか?」

「……寝てる」

 起きてますよね。
 
 そんな冗談も言えるんですね、この人……案外、仲良くやれるかもしれません。


「獣人は、耳と尻尾で色々とバレバレなんですね」

「仕事中はそうでもないぞ」

 どうやら、リラックスしている時ほど耳や尻尾に感情が現れるのだそうです。


「あの、寝たままでいいので話ししてもいいですか? 昨日の夜、レオさんと話したくて頑張って起きていたんですが、いつの間にか寝ちゃいました」

「ん……」

 レオさんは一体、何時に寝たのだろうか……凄く眠そうだ……でも、今話さないと忙しいレオさんとゆっくり話すチャンスはなかなかないはずです。

「レオさん、私が偽物と知ってるのはレオさんとラフさんと旦那様以外に誰かいますか? ラフさんが、それはレオさんに確認するようにと……」

「あぁ……そうだな……ラフェド以外には……話す必要はないと思っているが……」

「ジャガーのペイスさんとピューマのティルさん、チーターのノーランさんとは……」

「……ラフェドが教えてくれたか? よく覚えているな」

 記憶力には定評がありますので。
 
 私はコクリと頷きます。

「……そうだな、その3人はレーニャがいなくなった事を知っているからな……そのうちに、レーニャが本邸に戻ったと噂を聞いて飛んでくるかもな」

「そうしましたら、私はどうしたらいいでしょう?」

「……どうしたい? レーニャでない事を知るのが俺と父上とラフェドだけであれば、バレる可能性は限りなくゼロに近いが、偽物として接する相手が増えれば増えるほど、バレるリスクは高まるぞ」

 レオさんはここでやっと眠そうな目を開け、私を見ました。

 深く吸い込まれそうなレオさんの黒い眼に、私が映り込んでいます……ハッキリとした切れ長の二重まぶたは少し垂れ目がちです。

 あ、目尻にホクロを見つけてしまいました……セクシーです。


 っじゃなくて……っ!


 バレるリスクについては、レオさんの言ってる事はもっともなのですが……。

「その3名様は、本物のレーニャさんと面識はないのでしょうか?」

 レーニャさんは結婚前にはほとんどこの屋敷には来なかったので、屋敷のほとんどの人がレーニャさんとは結婚式当日くらいしか関わりはなかったと聞いています。

 とは言え、新郎の側近までも、花嫁に面識がないなんて事はあり得るのでしょうか?


「どうだったかな……全く無いということは無いだろうが……行方を捜索させていたから、色々調べているかもしれないな」

 ならば……。

「レオさんの近くにいる人達に怪しまれるくらいでしたら、知っていて貰った方が、私は助かるかります」

 私はこの世界の常識すら怪しい女です……怪しまれたら完全にバレるに決まっているので、バレるくらいなら最初から共犯になって貰いたいです。

「そうか、なら話しておく……他に話しはあるか?」


 レオさんは私の気持ちを優先してくれたのでしょうか? それとも、眠くて何も考えていないのでしょうか……。


「……1年を待たずにレーニャさんが見つかったら、私はお役御免でしょうかね……」

「……」

 え、そこで黙るのですか?! ……ん? 寝ました?!


「……そうだな……見つかれば・・・・・な、2人もレーニャがいたらおかしいからな」

 よかった、起きてました。

「ですよね…」

「……だが、見つからないだろうな彼女は……」

 まるでレーニャさんの行き先を知っているかのようなレオさんの意味深な言葉が少し気にはなったが、期間満了前の解約でも、満額の報酬が貰えるかの方が心配な私。


「話しはそれだけか? 悪いがあと2時間だけ寝かせてくれ……」

「はい、とりあえずは以上です……眠い所すみませんでした、ありがとうございます、おやすみなさいレオさん、ゆっくり寝てください」

 レオさんにゆっくり寝てもらうために、私はレオさんの腕から逃れ、ベッドから出ようとしたのだが……どこから現れたのか、黒とグレーの虎柄をした長く滑らかな毛並みの尻尾が、どこからともなく、私の腰に巻き付いてきました。

「……どこへ行く?」

「どこって、私がいたらレオさんがゆっくり休めないと思いますので…」

「ここにいろ……」

 レオさんの尻尾は私に巻き付いたままだが、レオさんはそのままウトウトしています。

 そして最終的に、再び私を抱き枕の如く羽交い締めにしたまま、彼は警戒心ゼロの猫の如く、寝てしまったのでした。



 
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