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6 遊びに師匠なし

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(ルカ=レーニャ視点)
 
 
 朝目が覚めると、昨日同様に半裸のレオさんに抱き枕にされていました。
 
 この人は一体、何時に眠っているのでしょうか。

 私は彼を起こすまいと、なるべくじっとしたまま、眠るレオさんの観察します。


 今朝は眉間にシワがありますね、嫌な夢でも見ているのでしょうか、可哀想に。

 耳と尻尾の色と同じ、黒髪にグレーのインナーカラーのレオさん……これが、染めているわけではないというので驚きです。
 ラフさんも皆、髪は染めてないそうなので、金髪に黒髪のハイライトなんかも地毛らしです。

 天然のオシャレカラー、羨ましいです。

 あ、レオさん、クマが出来てますね……やっぱり寝不足なのですね……今朝は何時まで眠れるのでしょうか。

 私はお師匠様が、私が眠れずぐずる夜に、音痴ながらも一生懸命歌ってくれた、子守唄を小さな声で口ずさみました。

 すると、レオさんの眉間のシワが消えていきます。

 よかった、大成功です。


 しばらく寝顔を眺めていたら、私も二度寝をしてしまいました。


 次に目を覚ますと、レオさんはすでに起きていて、私の顔を眺めていたのか目が合いました。


「……おはようございますレオさん……昨日も遅かったですね」

「おはようレーニャ……待っていたのか? 悪かった」

「……3時くらいまでは起きてましたけど……すみません、寝ちゃいました」

 レオさんは、昨日とは打って変わってとても優しく柔らかい表情をしています。
 寝起きがいいようですね。

「……レーニャ、昨日の件だが……お前が嫌でなければ今夜は早めにここへ来る」

「……? ……(ッハ)……それは……性行為の為に……ですか?」

「ああ、また他で済まされるくらいなら、俺がレーニャの初めてを貰いたいと思ってな」

 なんと! 私の昨日の行動に呆れただけのようですが、結果的に上手く行きそうです。

 後は、朝立ですら立派なレオさんのおちんちんを、私がすんなり受け入れる事が出来るかが問題です。

「だが、何も今夜最後までする必要はない、徐々に慣らしていくという手も……」

「いいえ! お気遣い無用です! 必ず今夜開通させてください」

 安心して下さい、お風呂の時にしっかり自分で解しておきますね! すぐに挿れられるようにしておきますから!
 レオさんのお手は煩わせません!

 私は前のめりぎみにお願いしました。

「……あ、ああ……わかった」




「だがレーニャ、身体の前にまずはキスをしてみよう」

「はい、お願いします」


 私はそのまま目を閉じました。
 お師匠様から、キスの時は目を閉じるのがマナーだ、と教わりましたので。




 ……チュッ

 ……終わりでしょうか?


 ……チュッ……チュ……


 違いました。



「ん……っ」

 私の唇がレオさんに食べられてしまいました。

 顎を下に引かれ、うっすら出来たその隙間から彼の舌が私の口内に入ってきます。

 レオさんの柔らかな舌に絡め取られた私の舌は、初めて自分以外の舌の感触を知りました。

 なんでしょう……私の舌よりも少しざらついていますね。
 猫さんみたいです。

 ……未知の扉がほんの少し開いた気がします。

 私の心臓は落ち着きなく大きく音を立て、これまでのレーニャさんとして、自分ルカの感情を“無”にした、仕事モードが崩壊しつつありました。

「……初めて人間らしさを見た気がする……お前は良くも悪くも冷静過ぎて、人間味がなかったからな」

 レオさんは私の片胸にそっと手のひらを置き、恥ずかしいほどの私の速すぎる心臓の鼓動とその音をハッキリと感じとろうとしていました。

「すみません……人間味……ですか……えっと……例えば?」

「そうだな……獣人は目には見えない相手の緊張感や警戒心、恐怖心、高揚感や喜びなんかを察知できるんだ、お前からはそれが全く感じられなかった……例えるなら……“無”だな」

「“無”……ですか、ならば上出来ですね、“無”になるようにしていましたので」

 私、やれば出来る子です。


「わざとだったのか……っ……はぁ……初めてのキスの直後に、俺達はなんて情緒のない会話をしているんだ」

 情緒? ……ああ、情緒ですか。

「そうかもしれませんね、すみません、男女の情緒については1人ではどうにも修行できず、不慣れなものでして……」

「……修行?」

「……あ、いいんです、気にしないでください」

 私は笑ってごまかしました。


「……さて、起きるか……今朝はラフェドも気を使ったのか、起こしに来なかった、おかげでもう9時だ、腹が減った」

「そう言われてみると、空きましたね……起きましょう、レオさんっ」

 私はチュッとレオさんの頬にキスをしました。

 これからはスキンシップを増やして、イチャイチャも自然に見えるように頑張ります。

「……上出来だ、だが、次からは頬でなくこっちでいい」

 レオさんはそう言って私の後ろ頭を掴み引き寄せると、唇と唇を重ね合わせました。

「……承知しました」

 次からは、唇にキスすればいいようです。




 ○○●●


(ノーラン視点)
 
 
「なぁ、ラフェド……レーニャ様ってなんか変な子だな」
 
「え? そうですか? 教養もあって真面目で覚えも早くて、素晴らしい人材・・ではないですか?」
 
「人材ってお前……」

 ラフェドは本物のレーニャ様が戻ってくると信じているからか、あくまでも彼女を影武者として扱っているようだ。

 だが俺は、本物のレーニャ様が戻ってくるとも、見つかるとも思えない。
 あの人はきっと、自分の意思で姿を消したんだ。


 だからむしろ、あの人間の彼女は影武者ではなく、彼女が本物の若の嫁さんであり、レーニャ様でいいんじゃないかと思うんだよなぁ。

 でも若は1年後に離婚するってんだから、1年後、あの人間レーニャ様ともお別れなわけだ。

 なら、あんまり親しくなりすぎるのも良くないわな。


 それにしても、あの人間レーニャ様は、俺達以外の前では完璧にレーニャ様を演じている。
 それについては実に見事だが、あの子、なんか危なっかしいんだよな。

 昨日の風俗店事件で直接話してみて、なんとなく感じただけだけどさ。

 それに、仕事だからってあそこまでするか普通……風俗で処女捨てるって……男じゃねぇんだからさ。

 若も若だ、心配して迎えに行くくらいには、あの人間レーニャ様の事を気になっているんだろ。

 そもそも若は、あんな風に他人と同じベッドで眠れる人じゃなかったはずだ……それなのに人間レーニャ様を抱きしめて眠ってる姿を見た時、俺は自分の目を疑ったね。

 俺の野性の勘が言っている……若と人間レーニャ様は、1年後、離婚してはいサヨナラなんて出来なくなるな。




 ……俺の父親はリーベルス家の旦那様の側近の獣人で、母親は人間だ。

 不思議な事に、獣人と人間がつがうと、子供は完全に獣人になる。
 ハーフとか、そんな事にはならずに完全に獣人なのだ。

 とは言え、獣人と人間はどんなに愛し合っていても結婚は出来ないので、俺の両親は戸籍上は飼い主とペットだ。

 だからというわけではないが、俺は若や御隠居の考え方を指示している。

 獣人も人間も、何も変わらない対等な存在であるべきなんだ……今の旦那様は大っぴらにその事について名言されないが、人間と結ばれた俺の親父や、その子供である俺を近くに置いてくださっているあたり、きっと同じようにお考えに違いない。

 俺は姐さんが人間だって気にしないぜ、若!



 ○○●●


(レオポルト視点)


 ……レーニャは……まさかキスまで初めてだったのだろうか。

 今日は何をしていても今朝のレーニャとの事が何度も頭に浮かんできた。

 獣人よりも柔らかで滑らかな舌……甘い吐息……俺とのキスにトロけたような彼女の表情。


 クソッ……煩わしい……なんで俺がこんなっ。

 ……欲求不満なのか俺は……。

 そういえば、レーニャと結婚式を挙げて以来、店に抜きにも行ってないな……。
 だが、今はなんとなくそんな気にもならない。



 レーニャだってただの人間の女だ。

 ウチで経営する店にも、人間の嬢は何人もいる……彼女らは平気で獣人相手に股を開き、淫らに誘い、自ら腰を振る。
 性に対して、獣人と何ら変わらない。

 いや、むしろ発情期でもないのにあれだけ毎晩官能的になれるという点では、人間は獣人よりも性に貪欲なのだろう。


 俺は店の嬢とはキスをしない、だから、人間とキスしたのはレーニャが初めてだ。
 人間の舌があんなに柔らかで滑らかなものである事を自分の舌で知ったから、こんなにも考えてしまうに違いない。
 
 そうだ、間違いない……美味いものを食って、また食いたいと思い返すようなものだ。


 いやっ、決して、またレーニャとキスしたいと言っているわけではないがっ。



 その時だった。


「若、下請けの現場で事故がおきました」

 ペイスが嫌な報告に来た。
 
「被害状況は?」
 
「作業員が1人、救急で運ばれましたが、命に別状はなく一晩検査の為入院し、異常がなければすぐに退院出来るだろうとの事です」

「そうか……怪我人の家族と本人のフォローと保証を頼む、念の為、顧問弁護士を派遣しろ……現場の方は?」

「かしこまりました、現場は重機が一台倒れたので、すぐに別の物を手配しました、倒れた重機はそのまま回収して整備に回します、工期に遅れは生じないかと」

「……よし、労基は? ……原因はなんだ」

「報告済です、どうやら重機の釣り上げの際の固定金具が一部破損したようです」

「人為的なミスではないんだな?」

「はい、現場責任者の話ではそのようです」

「……わかった、後でその壊れた金具を持って、破損の原因を業者に確認させろ、再発を防止させるんだ」

「かしこまりました、では失礼します」

「ああ」





 俺はリーベルス家の組織の中で、裏社会だけではなく、フロント企業であるゼネコンも取り仕切っている。

 もちろん、表向きには俺の名前やリーベルス家の名前は一切出していないため、何かあって俺が直接動く事などはほとんどないが、やはり有事には金銭的に責任を取る必要があることから、それなりに真面目にやっているつもりだ。

 その他にも、廃棄物の処理場やスクラップの輸出などの事業の統括を任されているため、なかなか忙しい。

 つまり、女にかまってる暇などないわけで、本物のレーニャが見合いの席で結婚できないと言ってくれた時には、正直、助かった、とすら思っていた所だった。

 だが、結婚して式を挙げてしまった以上は、離婚するしかない……と、言っても、俺と本物のレーニャは実は入籍していないので、戸籍上は赤の他人だったりする。

 父上と祖父にバレたら大目玉を食らうだろうな。


 今頃、本物のレーニャは名前や見た目を変えて、好いた男と幸せになっている事だろう。


 とはいえ、俺もいつかは後継ぎを作る必要があるわけで……。

 それには相手おんながいる。


 基本的に獣人の女は皆、プライドが高く気が強いため、本当に惚れた男にしか気を許さず、常に警戒心を漂わせている。

 その警戒心というのも、向けられ続けるとなかなか疲れるもので、結局、一緒にはいられないのだ。



 俺の立場と金、たまに顔目当てに寄ってくる獣人の女は山程いるが、そいつ等は警戒心ではなく、下心が見え見えで萎える。

 それに比べると、俺といるのは仕事だと割り切っている人間のレーニャは嫌な感じはしない。


 ……今夜は早く帰らないとな。



 ○○●●


(ルカ=レーニャ視点)


「っ……むむ……なんという感触! 未知の領域です!」


 その夜、私はお風呂で自分で自分の穴に指を突っ込んでいました。

 女性がどこをどうすれば気持ちがいいかは、試した事はありませんでしたが、ひと通り把握しています。

 私は今、それを自分に試していました。

 ラフェドさんにローションを貰い、レオさんとの開通式を直前に控え、現在通路を解し中です。

「……こんな場所に出入りして、男性は気持ち良くなるんですね……まぁでも確かに……我ながら、絡みつくような凹凸と締付けはなかなかかもしれません」

 私はブツブツと独り言を言いながら、ズボズボと自分の指を抜き差しし、1本、2本、と増やしていきました。


「ローションに頼らず、自分の身体から粘液を分泌させないことには、男性にとってはつまらないと学びました……あわよくば、潮なるものを出すと悦ばれるとか」

 潮は無理でも、粘液くらいは分泌させたい所です。


 私はシャワーでローションを洗い流し、まっさらな状態で自身のソコに触れ、あの手この手で濡れるように工夫します。


 ……が。

「……どうしましょう! 全く濡れません! カラカラの砂漠です!」


 とはいえ、時間は迫っていました。

 仕方ありません、今夜は自分の唾液と、足りなければローションでご勘弁頂きましょう。


 私は身体をキレイにし、お風呂から出てると、そのまま裸にバスローブ姿でベッドに座り、レオさんを待つことにしました。





 午後9時。


 寝室のドアが開き、お風呂上がりで髪のおりたレオさんが現れました。


「……今日もお疲れ様、レオが寝室に入って来る所、初めてみた……いつも先に寝ちゃってたから……」

 私はレーニャさんの演技のまま、開通式を迎えるつもりでいました。

 しかし……。

「レーニャ、初めての時くらいは演技しなくていい、さすがに俺も相手が演技していると思うと萎えるからな」

「…承知しました、では、“無”で?」

「いや、“無”もやめてくれ、今朝のようにドキドキしたり頬を染めたり……とにかく、自然で頼む」

「自然……承知しました」




 レオさんが私の座るベッドに上がると、スプリングが軽く弾みます。

 いよいよです!


 と、思いきやレオさんは私の太ももに頭を乗せ、目を閉じてしまいました。


「……レオさん?」

「……気合い入りすぎだ、それじゃ最後までもたないぞ」


 気合い……は確かに入ってますね。
 
「すみません、なにぶん初めてなもので……好奇心が前に出てしまって……」
 
「っふ、処女を失うってのに、好奇心か」

「はい、先ほどお風呂で自分の指3本まで慣らしましたが、全く気持ちよさを感じませんでした、本当に男性のおちんちんの出入りで気持ちよくなるのか、とても疑問です」

「っ!? ……自分で慣らしたのか?」

 レオさんはパッと閉じていた目を開き、信じられない、とでも言いたそうな表情で私を見ています。

「はい、私が未開通である事でクライアントであるレオさんのお手を煩わせるわけにはいきませんので……?」

「……お前なぁ……」

「大丈夫です、私の開通さえ済めば、万が一レオさんの御子息がご不満を感じられましても、私の口婬テクニックでご満足頂けるかと!」

「……」

 あれ? レオさんの表情が“無”になりました。
 もしかして、私、何かおかしな事を言いましたでしょうか。


「お前のテクニックとやらは興味深いが、今夜の主役はお前だ、俺の事はいいから、まず自分が感じる事に集中しろ、お前が感じていないと俺も満足できない」

「……っしょ、承知しました」

 なんと……私が感じる事がレオさんの満足度達成に必須だったとは……早速、難題にぶち当たりました。

 お風呂の感じでは、私は不感症の可能性も……。

 演技は駄目、感じないと駄目……。

 お師匠様……どうしましょう……。

 
 
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