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5 背に腹は代えられぬ

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(レオポルト視点)
 
 
「……あの……若、少しよろしいでしょうか……」
 
 
 
 レーニャをペイス達3人に紹介した後、しばらくして、屋敷のコンシェルジュが気まずそうに訪ねてきた。
 
 話しを聞けば、レーニャに頼まれて人間の男がいる風俗店をいくつか紹介したというではないか。

 そしてレーニャはそのままタクシーでどこかへ出かけた、と。

 
 ……何考えてんだあの人間……。


 先ほどティルに、俺達が夫婦に見えない、とからかわれ、仕事のためにセックスしようと俺を誘うような馬鹿野郎だ。

「まさかレーニャ、若を満足させたいがために実践練習にでも行ったか?」

 ティルが冗談を口にするが、冗談ではなく、あの人間ならやりかねない。
 なんとなく、俺の直感がそう告げている。
 

「ったく……面倒だなっ……ノーラン、表に車まわしとけ」

「へ~い、お迎えですね」

 俺は上着を羽織り、コンシェルジュからレーニャに紹介した店を聞き出し、ひとまずは屋敷から一番近い店へと向かった。


「若、Honeyは……ここですね」

「……はぁ……ノーラン、レーニャがいるかだけ確認してこい」

「へ~い」

 コンシェルジュはレーニャが屋敷を出てすぐに知らせに来たと言うから、レーニャが店に入っていたとすれば、まだそんなに時間は経っていないだろう。



 コンコンッ


 ノーランが店に入り、車で待っていると、車の窓をノックする音がした。

 面倒なので、無視だ。



 コンコンッ

 しつこい……。


「もしかして黒豹のお姉さん探してはります?」

「……」


 レーニャを知っているようなその言葉に、俺は窓を少し開け、話しを聞いてみる事にした。


「黒豹の女を見たのか?」

「やっぱりぃ~、見たも何も、自分、さっきまでここでお姉さんとおしゃべりしてたんですわ、でも5分くらい前に、この店に入ってしもて……自分、心配で待ってたんですわ」

 当たりだったようだな。 
 ならば今頃、ノーランが回収しているだろう。

 一軒目で見つかって、手間が省けた。


「そうか、情報提供感謝する、彼女はもう心配いらない、君はもう帰るといい」

 俺はそのまま、車の窓を閉めようとしたのだが……。

「猫科は皆ツンケンしとるなぁ、仲良くやりましょうや……ね、リーベルスの若頭はん」


 その獣人は何故か俺を知っていた……俺は窓を閉めるボタンを押す手を止める。

「……お前、狼か?」

 狼だとすれば、下っ端ではないだろう……。

「ヴォルフィート家の直系か……ウチのシマで何してる」

「さっすがリーベルスの若頭! 頭がキレるって本当やったね!」


 リーベルス家が猫科のトップだとすれば、ヴォルフィート家は犬科の中ではトップの家だ。

 犬科と猫科とは、西と東で一定の距離と均衡を保ってきているため、争いなどは起きていないのが現状である。

 それなのに、何故直系の雄がこんな所にいるんだ……。

「いや~謎が解けましたわ! 俺の人間・・・・横取りしたん、リーベルスの若頭だったんや~……あ、俺はアルベルト・ヴォルフィート、よろしゅうたのんます」

 アルベルト・ヴォルフィート……

「なるほど、お前が噂の・・ヴォルフィートの問題児か……横取りとは人聞きが悪い、我が家には人間が沢山いるが、誰のことだ?」

「え、俺、そんな二つ名ついてるん?! だっさ! ……誰のことって、さっきの黒豹のコスプレしたお姉さんの事やんっ怖い顔してとぼけんといてっ」


 まさか、ラフェドが病院のカルテで読んだという、空から降ってきたレーニャを病院に担ぎ込んだ男とかは、こいつの事なのだろうか。

 だとしたら厄介極まりない……よりにもよって……アルベルト・ヴォルフィートとは。


 アルベルト・ヴォルフィートは、“人間の国”を作っていると噂の、腹の底で何を考えているか誰にも理解出来ない男だ。



 俺はノーランとレーニャのいる店の方に視線を移す……丁度、店長が扉を開けて二人の見送りをしていた所だった。

「悪いな、アレはコスプレではなく本物だ、彼女は結婚したばかりの俺の妻だ……人違いだろう」

「嘘やん、お姉さんからあんさんの匂いせぇへんかったで? つがっとらんのなら、まだ本当の妻とは言えへんやろ?」

 どいつもこいつも、番番つがいつがいと……。

「っま、俺にはお姉さんが人間だろうが獣人だろうが関係あらへん、多分、一目惚れや……なぁ~、もろてもええやろ? あんさんええ男やもん、すぐに新しいつがい見つかるやろ」

 一目惚れ? レーニャに?

 病院に運んだ時は男だと思っていたくせによく言う……まぁいい。


「……1年後もまだ彼女から俺の匂いがしていなければ、どの道俺達は離婚だ、その後は口説くなり連れていくなり、好きにしたらいい」

「っほんま!? 言うたな? 聞いたで?! 1年後やな! 承知や! お迎えの準備して待ってるわ! ……あ、無理やりつがわんといてな? ほな、俺行くわ! さいならっはい、ドロンッ」

「……」

 アルベルト・ヴォルフィートは魔法でその場から消えた。

 やはり、あいつも超上位種だけあり、魔法を使うのか……だとすると、レーニャが獣人でない事はすぐにバレるだろうが……あの様子を見るに1年は大人しくしているだろう。



 彼女の1年後の事は俺には関係ない、と、俺は奴の事はひとまず忘れる事にした。





 ○○●●


(ルカ=レーニャ視点)


「いらっしゃいませ」

「人間の男をお願いしたいの」

「かしこまりました、写真の中からお選び下さい……この時間ですとこちらの数人しかおりませんが、きっとご満足頂けますよ」

「……わかったわ」


 そのお店は、思ったよりもシンプルで清潔感のある店内に、顔の見えない爽やかな声の店員さんが1人の空間でした。

 カラオケのように奥にプレイルームがあるのでしょうか。

 私は渡されたタブレットから男性を選びます。

 ……こ、これは……っ!


 い、イケメン揃いです……ホストクラブでしょうか……いいえ、間違いなくここは風俗店のはずです。

 各男性キャストのページには、身長、体重、勃起時のおちんちんのサイズが記載されていました。

 レオさんは、一体どのくらいのサイズなのでしょうか……。

 ですが、初めてはやはり小さめの方がいいかもしれません……。

 私はおちんちんのサイズを優先に選ぶ事にして、一番小さい方を探し、そして、レオさんと同い年くらいの優しそうな男性を見つけたので、この方で、と店員さんにお願いしました。



 そして、やはり奥のシャワー室とベッドしかない部屋に案内され、待つように言われます。
 シャワーを浴びて待っていた方がいいのでしょうか? 初めて利用するので勝手がわかりません……。


 しばらく待っていると、何やらドアの向こうが騒がしくなってきました……何かあったのでしょうか?


 コンコンッ

「はい」
 
 ガチャッ
 
「お待たせしましたぁ~ご指名ありがとうございます~ノーランでぇす」
 
「っ!? の、ノーランさん! 何故こちらに?!」
 
 現れたのは、私が選んだキャストさんではなくリーベルス家の獣人、ノーランさんでした。
 
 
「レーニャ様、駄目じゃないですかぁ、こんな所に来たら若が妬いちゃいますよ」
 
「あ、いいえ、私はレオさんのために……」
 
「……まさか本当に若の為にテクニック磨きに来たんすか?」
 
「いいえ……テクニックには自信がありますが、いかんせんその……穴の方が未開通なもので……レオさんを煩わせてはならないと思いまして……」

「は!? まさか、こんな所で処女済ませようとしてたんすか?! いやいやいやいや! 駄目っしょ、処女くらい、若なら優しく貰ってくれますって、心配いりませんよ」

「ですが……私は仕事ですので……クライアントにご迷惑は……」

「なかなか頑固っすね……うーん、いいですか? むしろ、処女を若に献上した方が、夫婦っぽい雰囲気がでるんじゃないっすか? お互いに」

「……そういうものなのですか?」

「そういうものです」

「……獣人であるノーランさんがそうおっしゃるなら……きっとそうなんですよね、わかりました、帰ります」

「よかった、若も心配して車にいます、一緒に帰りましょう」

「えっ!? レオさんまでいらっしゃるのですか?! なんというご迷惑を……私は(忍者)失格です……」

「……忙しい人ですね……本当に……」


 こうして、私は未開通のままリーベルス家へと戻る事になりました。


 そして、私の今回の失態は、全てノーランさんから旦那様とレオさんに報告され、夕食の際に旦那様から無理はするな、と温かいお言葉を頂きました。

 レオさんは帰りの車の中からずっと、口を聞いてくれません。

 仕事だと言って、食事も別々でした。

 ……はぁ、やってしまいました……どうやって挽回しましょう……。

 仕方ありませんね、今夜は私の必殺テクニックでご満足頂く事にしましょうか。
 自分で解すと言う手もあると聞きました。



 こうして、私は夜を迎えるのでした。







 しかし……何時になってもレオさんは寝室に現れません。

 ヤクザですから、夜に色々あるのでしょうが、深夜を回っても、2時、3時と過ぎても現れませんでした。


 ……避けられているのでしょうか……。

 諦めて寝ましょう、また明日、考えればいいです。



 ○○●●


(レオポルト視点)


 レーニャが風俗店に駆け込んだ理由をノーランから聞き、俺はかける言葉が浮かばなかった。

 仕事柄、これまでに女なんてピルを飲ませて数えきれないほどに抱いて来た。
 もちろん、懇願されて処女も何人か経験がある。


 だが……レーニャはただの仕事だぞ?
 ましてや、風俗嬢でもなければ1年後他人になる関係だ。

 本人が俺に・・抱かれる事を心から望んでいるならば、抱くくらいなんでもないが、俺の為に……俺と夫婦に見えるようにするために、という理由は違う気がする。

 仕事熱心なのはいいが、もう少し自分を大切にすべきだ。


 とはいえ……。

 風俗店の適当な人間で済ませようとするくらいなら、俺に言えばよかったのに、と思ってしまった。

 やはり、初めてが獣人と、というのは怖いのだろうか?

 風俗店でも、アレの小さい男を選んでいたとノーランが言っていた。

 自慢ではないが、俺の息子はなかなか立派な方だ。
 猫科特有のトゲはないが、奥まで入れてしまうと、人間には大変かもしれない。


 本当に今夜、する気で待っているのだろうか。

 そう考えると、ついつい寝室ヘ向かう足取りが重くなり、無駄に仕事を入れてしまったのである。


 午前3時半、俺はようやく寝室ヘ行き、すでに眠るレーニャの横に腰を下ろし、しばらく彼女の寝顔を見ていた。


「……馬鹿な女だ……仕事だからと他人の為に……」


 どんなに夫婦に見えるように演技をしても、ティルの言うように心が通っていない以上、所詮演技でしかない。

 祖父の目は誤魔化せないだろう。


 ……。


「ヤッてみるか……」


 何が変わるかはわからないが、身体を重ねる事で何かがいい方に変わるなら、試してみてもいいかもしれない。

 何より、彼女がそれで自分の仕事に満足できるなら、他で済まされて変に噂されるよりずっといい。

 1年後、すんなり離婚するためには、十分に愛し合って、それでも子に恵まれない場合、とされている。

 十分に愛し合って、の、その部分が大事なのだ。

 その判断はありとあらゆる方面への聞き取りなどにより審議されるようなので、買収する事も難しく、とにかく見せつける他、愛し合っている事を周知する方法はない。


「レーニャ……明日、お前を抱くからな……覚悟しておけよ」


 俺は眠る彼女の耳元にそう囁き、昨日と同様に彼女を抱きしめて眠りについた。



 
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