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12 ローマは一日にしてならず 【完結】

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(ルカ視点続き)


「そうですか、ありがとうございます……でしたら私は……私は……“戸籍”が欲しいです」

 レオさんも旦那様も困惑しているようですが、お祖父様は、想定外の私の願いが愉快だったのか、またもやニヤニヤしています。


「え、ルカお前……戸籍? 人間のか? またそれは……難しいもんを……」

「いいえ、私は“獣人”として戸籍を入手し、きちんとレオさんと結婚したいのです、そうしなければ、ディーとフィーには戸籍上母親がいない事になってしまいますし、ましてや母親がペットでは……私が嫌なのです」

 私の戸籍には、生みの親の欄が空欄でした。
 母親の欄もありませんでした。

 私にはそれが……ほんの少しだけ、寂しかったのです……。

 ディーとフィーにはそんな思いはさせたくありませんし、きちんと母親としての威厳も欲しいです。

「魔法でまた私に耳と尻尾を生やしてください……そうですね、ディーとフィーには私の要素が全くないので、次は私もレオさんと同じブラックタイガーでお願いします、戸籍もブラックタイガーでお願いします」

「ルカっ本気か?!」

「マジです、本気と書いてマジです」


 とにかく私は、ペットという立場は絶対に嫌です……ならば、郷に入れば郷に従え、のスタンスです。


「よしわかった! ルカちゃんのその願い、このわしが叶えてあげちゃろう! 任せておけ!」

「親父……っ」
「じ、お祖父様……」


「ありがとうございますお祖父様」

 さすがはお祖父様、許容範囲が広大で素晴らしいです。



 こうして私はお祖父様のチカラによってその場でブラックタイガーの獣耳と尻尾を生やしてもらい、どうやったのか戸籍もすぐに貰う事が出来たのでした。




 そして私とレオさんはすぐに婚姻届を提出し、正式に夫婦となり、ディーとフィーの出生届も同じ日に提出しました。

 子供達の戸籍には、私の名前とレオさんの名前が揃って記載されています……間にあってよかったです。


「……ルカ・リーベルス……なんかいいな……」

「そうですね」

「なぁ、ルカ、俺、振り返ってみたんだけど……俺多分、お前の事ずっと好きだったんだよな」

 何でしょうかいきなり。

「……ずっと、とは?」
 
「多分、初めて会った瞬間から、お前のまっすぐな凛とした視線に惹かれてたんだ……でなきゃ、初日から同じベッドで抱きしめて寝たり、風俗行ったお前を迎えに行ったり、処女相手に首に噛みついたりしなかったと思う……」

「それに、ルカのドレス姿も着物姿もとにかく可愛く見えて仕方なかったな、俺のスマホのロック画面は実はルカの着物だ……それに、ルカがレーニャを助けた時は、色々と驚かされたが、カッコイイとも守ってやりたいとも思った……」

 まぁ、たしかに、レオさんが冷たそうな印象だったのは、本当にほんの最初だけだった気がします。

 本当の夫婦になった事ですし、私もレオさんに気持ちを伝えましょう。


「レオさん、私は恋愛経験がありません、友人とその手の話しをしたこともありません……ですので、色々おかしな態度を取るかもしれませんが、私の気持ちとしては現状、レオさんの隣は気を使わなくていいので、凄く居心地が良くて、獣耳は萌え萌えですが、そのカッコイイお顔に、たまにドキドキしたりします」
 
「1日のうちに、何度もレオさんの事を考えますし、帰りが遅いと身体が心配になります……以前のように風俗に行ったと聞けば、今はモヤモヤすると思います」
 
「夜の行為も……常識の範囲内の頻度であれば、“嫌な事”ではありません……むしろ、肌を重ねていると安心できて心地いいですし、気持ちがいいです」

「今はまだ……“好き”や“愛してる”と言う言葉の意味を自分の中で消化できていないので、お返しする事はできませんが、いつかは、レオさんに伝えたいと思っていますので、待っていてはくれませんか?」

 私は思いのたけの全てをレオさんに正直に伝えました。

「……レオさん?」

 どうしたのでしょうか、レオさんの顔が真っ赤です。

「……ルカ……十分だ、十分過ぎるほど伝わった……お前も、俺の事大好きだったんだな、わかったわかった、よしよし」

 何でしょうか、1人で納得して満足気です。


 まぁ、よしとしましょう。











 そして私がリーベルス家に来て1年が過ぎたある日の事でした。


「ルカ様、お客様です」

「お客様ですか?」


 またディーとフィーのお祝いの方でしょうか?
 離婚発表から再婚発表、そして後継ぎの誕生発表と、リーベルス家はおお忙しいでした。

 アレコレ言う声もあったと思いますが、お祖父様が『わしが認めたんじゃ』のひと言で、全てを黙らせてくださったようです。

 それからというもの、子供達と私への挨拶参りが後を絶いません。

 子供達の側には、私だけでなく、ティルさんやノーランさんが交代で用心棒兼子守りとしていてくれるので、安心して子育てが出来ています。





「ルカちゃん、行っちゃ駄目だ」

 お客様や所に行く前に少し身支度を整えていると、慌てた様子のティルさんに、来客対応に待ったをかけられました。

「どなただったのですか?」

「それが……なんで来たのかサッパリわからないんだが、黒髪のお姉さんを迎えに来た、若には話がついているとの一点張りでな……今、若がこっちに向かってるから、少し待っててくれ」

 黒髪のお姉さん……? お姉さん……私の事をお姉さんと呼んだのは、過去にもたった1人だけです。


「……もしかして、地方なまりの狼の獣人ですか?」

「そうだ、知り合いか?」

「知り合いと言うかなんというか……恩人? でしょうか」

 空から降ってきた私をキャッチして、病院に運んでくれたので、恩人というか……なんというか……。

「レオさんが来る前に少しだけ会って話しをします」

 ティルさんには止められましたが、私は子供達をティルさんにお願いし、狼さんのいるエントランスに向かいました。





「お! お姉さんや! やっと会えた! この1年長かったわぁ~、ほな、一緒に行きましょかっ」
 
 
「……私はレオポルト・リーベルスの妻です、どこにも行きません」
 
「……なんやて? ちょい失礼して……(クンクン)……っ! ホンマや! 若頭の匂いえげつないわ! あの野郎っ」

 なんでしょう、穏やかではなさそうですね。

「でもお姉さん、獣人ちゃうやろ? 人間やんな? ……ならかまへんやん、リーベルスの若頭の匂いは、俺が上書きしたるわ」

「……上書き? 確かに私は人間でしたが、獣人のペットでもコスプレでもなく、ちゃんと自分の意思を持って生きてます」

「そらええ事や、俺と一緒になってもそのままでいてなっ」

「あの、先ほどから、何故貴方と一緒に行く事が決定事項のようにおっしゃるのですか?」

 良く見れば彼は、ヤクザの屋敷にはとても場違いな白いスーツに真っ赤な薔薇の花束を持っている。

「何故って、こちらさんの若頭が1年前俺に、1年後自分は離婚するさかい、そしたらお姉さんの事は好きにせえ、言いはったんや」

「……レオさんが? 確かに1年前はその予定でしたけど、今ははレオさんの側を離れるつもりはありませんし、レオさんも私を手放さないと思います、第一、乳飲み子二人いますし」

「……ち、乳飲み子二人? まさか虎の獣人かいな? しゃあないな、その乳飲み子はここに置いて行くとして……」

「乳飲み子置いて行けるわけないでしょう」



 その時、レオさんが息を切らせて現れました。


「ルカっ! ったく、お前はまたどうして俺を待てないんだ……ん? こらっ」


 現れるなり、狼さんに見せつけるように、私の腰を抱き寄せ向かい合い甘さを全面に出しながら、私の鼻先とツンと指で弾きます。

 ……なんのつもりでしょうか。

「若頭はん! 話しが違うやんけ!」

「違わないだろ、俺は言ったはずだ“1年後もまだ彼女から俺の匂いがしていなければ、どの道俺達は離婚だ”とな、今、俺の愛する妻からは、俺の匂いがしているだろう、丁度今朝たっぷり愛し合ったからな」

 ……何を自慢しているのです。

「つまり、離婚していないっちゅうことかい! ……そりゃないわ……俺のこの1年なんやったん……」

「すまないな、アルベルト・ヴォルフィート、お前に俺の愛する人はやれない」

 アルベルト・ヴォルフィート……? どこかで聞いた名前ですね……。

 あ!

「アルベルト・ヴォルフィートさん、貴方はもしかして、“人間の国”の創設者のアルベルト・ヴォルフィートさんですか?」

 その名前は以前、レーニャさんから人間の国の情報としてメッセージを貰った時に目にした名前でした。

「……ふぇ? ……なんや、知っとるんか?」

「はい、私は離婚したら一度は“人間の国”に行ってみたいと思っていたのです」

「今から連れてってるわ! ほな、行こか!」

「待ってください! 私は行きません! ……ですが……“人間の国”については素晴らしいと思います、アルベルトさん、ぜひこれからも人間の権利の確立にご尽力ください、いつか、この世界でも人間と獣人とが対等な関係になれるように、私は心から願っています」


 “人間の国”はドM獣人の国でも、創設者のペット王国でもありませんでした。

 本当に人間のみで構築された国家だったのです。

 もちろん、そのスポンサーはこの狼さん、アルベルト・ヴォルフィートさんです。

「アルベルトさん、人間に対する貴方の考えとレオさんの考えは同じであると思います、難しい関係かとは思いますが、いつかは協力関係を築いていけたら、私は嬉しく思います」

「……ええ女や……やっぱ好きや! ……でも俺の個人的な痴情のもつれでリーベルスと戦争するわけにはいかん……」

 アルベルトさんのお耳がペタンとしてしまいました。


「アルベルトさん、私の名前はルカです、いつか、家族と“人間の国”を見学させてください、その時は案内をお願いできますか?」

「ルカはん……俺の女神……めっちゃタイプやねん……でも俺も男や、グジグジせんと切り替えるわ! わかったで、案内したる! ほな、連絡先交換しましょか」


 アルベルトさんはちゃっかり私のスマホを奪い、私の連絡先を登録してしまいました。

 レオさんは凄く不満気ですが、何も言わないので、少しは過去の自分の軽はずみな発言を悪いと思っているのかもしれません。


 その後、アルベルトさんは薔薇の花束だけ置いて、帰って行かれました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 3年後……。
 
 
 
 
 
「母上! もう一度お願いします!」
「僕も! お願いします!」
 
「よろしい、その身に染み付くまで何度でも行うのです! それが修行です!」
 
 
 私は3歳になる息子達に忍者の修行を開始しました。
 リーベルス家の皆さんには、護身術だと話してあります。
 
 レオさんはまだ3歳なのに、と甘やかしますが、もう・・3歳です。

 ローマは1日にしてならず、子供は日進月歩です。
 早く始めるにこしたことはありません。








 ……お師匠様、

 お師匠様から受け継いだ忍術は、私がこの世界で継承していきます。

 手始めに、ここに初の獣人忍者が二人、誕生予定です。






 end.


 
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