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11 縁は異なもの味なもの

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(ルカ=レーニャ視点)
 
 
 レオさんを怒らせてしまったあの夜以来、レオさんは私に行為を求めてこなくなりました。

 おかげで夜はぐっすりで、体調はすこぶる良好です。

 そんな安眠生活もひと月以上が経ちました。


 私は構いませんが、レオさんの睾丸は問題無いのでしょうか? あれだけ放出していたのに、もうひと月以上私とはしていません。

 どこかで放出しているのであればいいのですが、体調でも崩されると、妻として問題です。


 それにしても、最近お腹が出て来たような気がします。

 道場にも行って汗を流しているのに、おかしいですね……しかも、何故か前に突き出ている気がします……まるで妊婦さんのような……。


 ん? ……待ってください、そう言えば最後に生理が来たのはいつでしたかね……異世界に来てから、2回きましたから……。


 大変です、もう6ヶ月も来ていません。

 最後の生理の後にはパーティーだの何だのとレオさんは毎晩種付けしていましたが、毎晩夕食の時に行為の前に飲むピルを服用していたので、妊娠するはずはありません。


「……あ」

 待ってください、そう言えば、パーティーのあの日はお屋敷で夕食を取らず、パーティー会場からそのまま帰宅してお風呂に入って……ピルを飲んでいませんでした。

「まさか……」


 私はいつものように道場へ行くふりをして、ネットで検索した人間用の病院に行きました。


「……おめでとう、と言いたいけど、どうして今まで気付かないの? ブリーディングしたんでしょ? 今日は1人で来たの? 飼い主さんは?」

「はい、飼い主がブリーディングしました……」

「え? ……貴女、大丈夫?」

「はい」

「とにかく、もし産まないのなら、もう22週に入りそうだから、猶予はないよ、今日明日にでも手術しないといけないから、帰って飼い主さんに確認してね」

「……はい」


 私は病院を出て、タクシーには乗らずに歩いて帰る事にしました。


「ここに……赤ちゃんが……?」

 大変な事になりました。

 まさかクライアントの子を妊娠してしまうなんて……これでは、詐欺師忍者だと訴えられても文句は言えません。

 何故なら、性行為を願い出たのは私からでしたから。

 レオさんはリーベルス家の一人息子でヤクザの次期当主で……とにかく、人間との子供なんて非常にまずいはずです。

 レオさんの新しいお嫁さんを決めるにしても、この子がいることで色々と大変になるかもしれません……。

 それに……この子は私と同じで母親のいない子に……。

 レオさんの新しいお嫁さんが、母親になってくれるとは限りません、むしろ、嫌われる可能性の方が大きいです。

 レオさんは、この子を守ってくれるでしょうか。


 ん? そもそも、子供が出来たら、離婚出来ないのでは?! それは困ります! レーニャさんにお名前を返すと約束してしまいましたし、それに、レオさんも旦那様も離婚を望んでおられたからこそ、私を雇用してくださったのですから!

 マズイ、マズイ、マズすぎます、困りました。


 それから私はどうやって帰宅して、いつ夕食を食べ、いつお風呂に入ったか記憶がありません。
 
 
 気づけば身ぎれいになって、ベッドの上にいました。
 
 
 その時……私のスマホに着信が入りました……お祖父様です。
 
 
 お祖父様の話しは、私達が上手くいってるかを心配するものでした。
 その理由というかことの発端は、レオさんが変装までしてお忍びで風俗店へ行った事のようでした。
 
 指名した女の子についてもやたら詳しく教えてくださり、レオさんは見張られてるのではないかと疑ってしまうレベルです。
 
 
 
 しかし、私は今、それどころではありません。
 いや、でも、夫婦仲を心配されてしまうのは大問題です、でも妊娠がバレたら、そもそもが全て水の泡です。
 
 
 ……頭の中がカオスです。
 
 
 
 
 
「……よし、とりあえずはレオさんに相談しましょう」
 
 
 そう決め、待っていると、レオさんが寝室ヘ現れました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして……最終的に……。
 
 
「……レーニャ、もう一度言う、俺は、レーニャが嫌でなければ、お腹の子を産んで欲しい、俺と一緒に親になろうレーニャ」

「……え?」

「……え? って……なんだ?」


 そりゃ、え、ですよ。

 多少契約延長となるかもしれませんが、私は産んだら用無しですよね?

 あ、乳母? 乳母として雇うという意味ですか?

 でも今、“一緒に親になろう”と聞こえました。


 レオさんの考えがわかりません。


「私の仕事はレオさんとレーニャさんの円滑な離婚です、このままではレオさんはレーニャさんと離婚できません」

「あ……そうだな、まぁでも、それならそのまま夫婦に……」

「駄目です! 私はレーニャさんにレーニャさんを返すと約束しました! レオさんとレーニャさんが離婚出来ないと、レーニャさんはテオさんといつまでも事実婚状態です、そんな事は……可哀想です……」


 私には、初めて異世界で出来た友人に、そんな仕打ちをできません。

「……」

 レオさんは何か考えこんでいるようで、黙ってしまいました。



「レーニャ、出産予定日は大体4ヶ月後かそこら辺だろ?」
 
「はい……」

「腹が出てきてもギリギリまで、誰にもバレないように隠せるか?」

「……はい……?」

「なら、俺はお前の希望と予定どおり、レーニャ・リーベルスと離婚するから安心しろ」

「へ? ……1年経つ頃には、生まれてますよ?」

「……俺に考えがある、任せておけ」








 こうして、私はひっそりと妊娠を隠しながらついに36周を迎えます。

 お腹の膨らみを隠す事が難しくなってからは、旅行だと言いながらレオさんの別宅に滞在しなんとかかんとか、やってこれました。

 レオさんも毎日別宅で寝泊まりしながら、いつからか人が変わったように家庭的になり、私のお腹の子に話しかけたりと、すでに子煩悩さを発揮しつつ、会えるのを楽しみにしている様子です。



 そして、私が36週を迎えた今、ついにレオさんとレーニャさんの結婚から1年が経過しました。


「よし、行ってくるぞレーニャ、おチビーズ」

「行ってらっしゃいませ」


 何故レオさんがおチビーズ、と言ったかというと、実はお腹の子は双子らしいのです。

 さらに、レオさんが言うにはノーランさんは獣人と人間の子だといい、獣人と人間の子は人間の要素は一切遺伝せず、100パーセント獣人になると言う事なので、安心しました。

 病院は、ノーランさんを取り上げたリーベルス家の医師に頼み込み、極秘出産に協力してもらうことになっています。


 そして今日、レオさんとレーニャさんはリーベルス家の重鎮を集め、離婚を発表します。

 離婚発表の場には、本物のレーニャさんが私の為にと協力を申し出てくれ、遠のはるばるこちらに来てくれました。





 そしてレオさんが家を出てから数時間後……。

 私のスマホにレオさんからメッセージが入りました。


『離婚成立(ピース)』

 たったこれだけでしたが、自分の大学の合格発表の時よりもホッとしました。

「……っ! ……よ、よかった……よかったです……」

 これでレーニャ・リーベルスはもう存在しません。
 ……もともと戸籍上には存在してませんでしたが。



 さて、これから私はどうなるのでしょうか。

 契約の1年までは、あとひと月半ほど残っていますが、離婚が成立した以上、もう私の仕事はありません。




 その時でした。


 玄関から音がし、出迎えに行くと、そこには息をきらしたレオさんが立っていました。



「レーニャ、離婚は無事に成立したぞ」

「はい、おめでとうございます」

「違うな……お嬢さん、貴女の名前を聞いてもいいか?」

「え? ……ああ……そうですね、ルカです、ルカ・ヒイラギと申します」

 アレ? 私前に、名乗った事ありますよね?


「ゴホンッ……ではルカ、今から俺が言う事をよく聞いていてくれ」

「はい」

「……ルカ・ヒイラギ……俺、レオポルト・リーベルスの妻として、子供たちの母として、これからの人生、俺の隣で共に歩んで欲しい……愛してる、ルカ、俺と結婚してくれ」

「……」


 い、今のは、ぷ、プロポーズでしょうか?


「……ルカ、返事は……?」

「……獣人と人間は結婚できるのでしょうか?」


「……」

 あ、レオさん、またあの顔です。
 すみません、空気読めなくて……。


「はぁ……ルカ、お前はそうやって……この感動的な場面ですら、この俺を焦らすんだな」

「そんなつもりはありません」

「獣人と人間は戸籍上、結婚は出来ない! が、俺はお前と結婚して夫婦になる! 事実婚だろうが、なんだろうがルカと子供達と一緒いられるのなら、俺はそれでいい! 以上だ! ……返事は?」

「……強引ですね、でも、嫌いじゃないです……でも、本当にいいのですか? 私には可愛げというものは皆無ですし、空気の読めないつまらない女ですよ」

「いやいやいやいや、ルカは俺からしたらびっくり箱みたいな女だよ、心配するな、可愛げなら俺があるし、俺達の子供は絶対に可愛いから」

「それ、自分で言っちゃいます?」


「……で、返事は?」



「……はい、貴方の妻に、お腹の子供達の母になります、よろしくお願いします」
 
 私はレオさんの手を握り、お腹に添えました。
 
 
「っルカ!……なぁ、俺の事好き? なぁ、愛してる?」
 
「……嫌いじゃないです」
 
「っだから、好きなんだろ?」
 
 
「……もう、面倒くさい女子ですか? ……聞きましたかおチビーズ、パパは女子みたいですねぇ~」

 私は照れ隠しにお腹に話しかけます。




 その時でした。

「っ……! ……?! ……レオさん、陣痛……かもしれませんっ」

「何っ!? 早くないか?!」

「大丈夫です、今出ても大丈夫なくらい育ってくれてますから、ほら、しっかりして下さいパパっ!」

「……ルカはこんな時でも冷静だな……よし、医師に連絡して、アレとコレと……よし任せろ! 動けるか? 車に乗れそうか?」

「はい、波がありますので落ち着いたら移動しますね」

「おい、おチビーズ、早くパパに会いたいからってママに無理させるなよ!」

「そういうのいいですから、早くお願いします!」

「ああ、はいはいっ」






 こうして私は、レオさんの離婚成立から日付の変わった翌日、男の子の獣人の双子を極秘出産した。

 極秘出産だったはずが、何故か目を覚ますと、同室の赤ちゃんの入っている保育機の周りには旦那様にお祖父様、ラフさん、ティルさん、ペイスさん、ノーランさん、レーニャさんにテオさんまでもいます……。
 
 何故か皆が勢揃いしている光景が目に入ってきました。

 おや、レオさんのお母様というレアキャラまでいらっしゃいますね……一体どういう事でしょう。


「……え? ……?」

「ルカ、良く頑張った……ありがとなお疲れ様……元気な男の子二人だぞ、二人とも俺に似た可愛いブラックタイガーだ」

 レオさんの笑顔が眩しいです、喜びが満ち溢れているようでよかったです。
 ……自分に似て可愛いと言うあたり、レオさんらしいですが。


 それにしてもブラックタイガーを二人……産んだのですね……凄い……でもそうですよね、私の要素は一切ないのだから、100パーセントレオさんに似るに決まってますよね。


「名前……決めませんと……」

「名前な、名前は考えてあるぞ! ディーターとフィーダーだ」

「……ディーター・リーベルスとフィーダー・リーベルス……カッコイイですね、ディーとフィー……、それに決まりです」

「よし、皆! 名前、決まりました! ディーターとフィーダーです!」

 レオさんは声高らかに、子供達の名前を口にしました。

 それを聞いていた、ラフさん達側近達は、慌てて皆さんどこかへ出ていかれます。
 一体どうしたというのでしょう。


「ルカちゃん、ようやった、ようわしのひ孫を二人も産んでくれた、ありがとうな」

 お祖父様が涙を流しておられます……てっきり、わしを騙したな、と銃で脅されるくらいは覚悟していたのですが。
 よかったです。

「……お祖父様……秘密にしていてすみませんでした」

 お祖父様は、いいんじゃよいいんじゃよ、と気遣ってくださいます。

 ところが……。

「ルカ、実はな、言ってなかったが爺さんと父上には妊娠がわかってすぐに話してあったんだ……」

 なんですと?!
 必死に隠してた私は超間抜けではないですか!

 でも……だからですか、あの辺りからお二人からのお誘いが減ったのは……お気遣いありがとうございました。


「……その話しはまた今度ゆっくり聞きますね、とりあえず今はディーとフィーに会いたいのですが……保育機を近づけてもらえませんか?」

 獣耳の赤ちゃんなんて、さぞ可愛いんでしょうね。

「おう、そうだな! びっくりするなよ? めちゃくちゃ可愛いからな」

「はいはい、レオさんに似て・・・・・・・、めちゃくちゃ可愛いんですよね」


 そして、レオさんが保育機を私のベッドまで運んでくれました。


「……っな……っ!」

 なぁんて可愛いのでしょう!

 目は開いてませんが耳はレオさんとお揃いで、髪の毛もわりとフサフサに生えてます。

 黒とグレーのツートンカラーもレオさんと一緒です。

「な、可愛いだろ? 二人ともここにホクロあるだろ? 偶然だろうけど、ルカとお揃いだぞ」

 レオさんは、耳の後ろのホクロを指差し教えてくれました。
 本当に二人とも同じ位置にホクロがあります。

「私、そんな所にあるのですか?」

「あるぞ、今度写真撮って見せてやるよ」

「……なんだか嬉しいです、少しでもディーとフィーと繋がりがあるみたいで……」

 私は眠気がくるまで、しばらく二人を眺めていました。







 
 
 
 数日後……。
 
 
 
 無事にディーとフィーと一緒に退院した私は、レオさんの別宅ではなく、リーベルスの本邸に呼ばれました。
 
 ディーはレオさんが、フィーは私が抱っこしています。
 
「退院おめでとう、そしておかえり、ルカちゃん……そして可愛い私の孫達」
 
 旦那様とお祖父様が出迎えてくださいました。
 
 
 
 
 
 
 そして、いつぞやのように、旦那様の書斎へ行き、ソファーに腰掛けます。
 
 
「ルカちゃん、雇用契約書を覚えているかな?」
 
「はい、内容を確認もせずにサインしてしまった私の最初の失態です」
 
「そうだったな、あの時は騙したようですまなかった」
 
「……まぁ……そうですね、息子さんが年上とは思いもしませんでした」
 
「はははっ、ルカちゃんは正直でよろしいっ……はい、コレ……あの時の契約書だよ、読んでみるといい」

 読んでみろも差し出されましたが、もう今更ですし、ディーとフィーがいつ目覚めるか気が気でない私は……。


「旦那様、お気持ちだけで結構です、もう過ぎた事ですから」

 私は卓上の契約書を旦那様の方へスッと差し戻す。


「っは! っはっはっ! さすがはルカちゃんじゃ、潔い! これこそリーベルス家の嫁じゃ!」

 お祖父様は何故かご機嫌です。

「いや、あの、ルカちゃん、私もちょっと感動的な感じを演出してみたくて色々とね……うん、わかったよ、うん、諦めるかな」

 あれ……旦那様がしょんぼりしてしまいました。
 契約書を読めば、私は感動するのでしょうか? ならば、読んだ方が良さそうですね。

 私は契約書に手を伸ばし、読みました。
 A4用紙にびっしり書かれた契約書は、あまり見たことはありませんが、大体がアルバイトの契約書と同じような感じです。

 これのどこに感動すればよいのでしょうか。

 と、最後の特記事項の欄に何か書いてありました。


『特記事項:万が一、契約期間内に甲の胎内にレオポルト・リーベルスの子を宿した場合、甲とレオポルト・リーベルスが愛し合う二人である場合に限り、リーベルス家第11代当主、グレゴール・リーベルスの権限により、甲とレオポルト・リーベルスの婚姻を認める。』

 つまり……。

「……こうなる事は想定の範囲内だったのですか?」

「まさか、万が一だよ、万が一!」

「……質問があります、こちらに“愛し合う二人である場合に限り”と記載がありますが、“嫌いじゃない”程度の場合はどうなりますでしょうか」

「……ん? え?」

「っおい、ルカっ!」

「はっ、はっはっはっ! こりゃ愉快じゃ!」

 旦那様が困惑されておりますね、またおかしなことを聞いてしまったのでしょうか。

「父上! 今のルカの質問はですね、誤解です! そう、誤解! 俺とルカは愛し合ってますよ! なぁ、ルカ!」

「……」

「はっはっはっ! まだまだ頑張らんといけんようじゃ、のう、レオポルト」

「じ、お祖父様もっ余計な事を言わないでください!」

「安心せぇレオポルト、ルカちゃん、レオポルトの振り回されっぷりもそうじゃが、ルカちゃんみたいな愉快な子なら、わし大歓迎じゃ、リーベルスの嫁にふさわしいわ、レオポルトがルカちゃんを落とせるまで、このわしの権限で気長に見守ってやるわ、良いな? グレゴール」

「もちろんです」

「……なんだか心外ですが、ありがとうございますお祖父様、父上……」

「ありがとうございます、私、レオさんへの気持ちは発展途上ですが、リーベルス家は大好きです……ですので……ゴホン……私、ルカ・リーベルスはリーベルスの嫁の名に恥じぬよう精一杯その任に努め、リーベルスのさらなる繁栄に微力ながらお力添えさせて頂く所存でございます、よろしくお願いいたします」

「うんうん、素晴らしい口上じゃ、おいレオポルト、ルカちゃんを見習え」

「ルカちゃん、親父はこう言うけど、そんなに気をはらなくていいんだよ、我々はルカちゃんとレオポルトが幸せにやってくれればそれが一番だと思っているし、願ってるんだよ」


「ありがとうございます旦那様……大好きです……」

「おや、レオポルトに勝ってしまったな」

「……おい、黙って聞いてれば……」


 ……なんと温かいヤクザ一家なのでしょう……私は幸せ者かもしれません。



「はい! 最後によろしいでしょうか」

「なんだい?」

「……その……報酬の件なのですが……何でも望む物をくださるという……」

「はっはっはっ! ルカちゃんや、リーベルスを手に入れて、まだ何か望む物があるとは、こりゃ大物じゃ、ワシが見込んだだけあるの、言うてみろ、わしが何でも手に入れてやるぞ」

 いやいやいやいや、リーベルスを手に入れてなんかいませんし、むしろいりません。


「そうですか、ありがとうございます……でしたら私は……」



 
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