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6 離れていても
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エステルも少し落ち着いた様子で、肩をひくひくさせながらもこちらをじっと見つめている。俺は意を決して、自分の気持ちを少しずつ言葉に紡いでいく。
「あの日、突然に君と離れ離れになってしまった。君を守ってやれなくて、本当に申し訳なかった」
「フェリクスでん、か……それは、違います。あの時はダンシェルドの兵がセイデリアを……っ!」
エステルの瞳に再び涙が込み上がる。
「エステル、違うんだ。国と国の問題はもう解決したし、お互いに前向きに関係を築いていけばいいこと。俺が言っているのは、君に不安な思いをさせてしまって、その後4年間も何もできなかったことだ」
「でも、それもお互いの国が森に呪いをかけて行き来をできないようにしたからです。呪いのかかった森に入ることは危険ですから、殿下が森に入ることなど許されなかったはずです。分かっています……」
「この4年間、1日たりとも君のことを忘れたことはない。12歳の君の姿を思い出しては、また会いたいと願っていた」
「殿下……ありがとうございます」
エステルは化粧が落ちると人が変わるのかな。
今、俺の隣に座って涙をこらえている彼女は、紛れもなく俺の好きだったエステルだ。
「もう一つ話があるんだけど……エステルがさっきみたいに化粧をしたり強がった態度をしていたのは、なぜなのか聞いてもいいかな? 実はちょっと驚いてしまってね。本当は再会した時にこうして普通に話をしたかったんだけど、驚きが大きすぎたというかなんというか…」
「殿下……」
しまった! 混乱と動揺を隠すために喋りすぎだぞ俺!
「殿下、驚かせて申し訳ありません。私もきちんとお話します」
エステルはもう一度涙を拭いて、俺の方をしっかりと見る。
エステルと俺が離れ離れになったあの日、イルバートに馬に乗せられたエステルはそのまま何日もかけてダンシェルドまで連れ戻された。着の身着のまま、何の準備もないままの帰国はとても過酷で、ダンシェルドに到着した頃には倒れる寸前だったらしい。
何日も寝込んでいる間に、ダンシェルドはセイデリアとの国交を断絶。森には呪いがかけられ、屈強な騎士でもない限り無事に森を通過することはできない状態になった。
俺との婚約は解消だと一方的に告げられた。
「でも、私もフェリクス様のことを忘れたことはありませんでした……!」
俺の腕を両手でつかみ、懸命に自分の気持ちを伝えてくれるエステル。ごめん、そこさっきつねられたところだから結構痛いんだ。
ダンシェルドで新しい婚約者を探そうと、エステルは社交界デビューをさせられる。ここはイルバートからも聞いて話だ。王女と縁戚関係になりたいと野心を持った貴族たちに次々に声をかけられ、つきまとわれ、エステルは疲れ切った。
自暴自棄になりかけていた頃、再びセイデリアと国交を結ぼうという話が降ってきた。また俺に会えるかもしれないと希望を持っていたのに、国交正常化の手続きや森の呪いを解くのにかなりの時間がかかり、その間もエステルには沢山の縁談が舞い込んだ。
「でも私はフェリクス様以外の方との結婚なんて考えられなくて……それならいっそ、みんなに嫌われるような悪役になればいいんじゃないかと思ったのです」
「……悪役?」
「はい。悪役令嬢ってご存知ですか? 善良な普通の令嬢をイジメたりして楽しむ趣味を持った令嬢のことです。本で読んで知ったんです」
「悪役令嬢か……俺はそういう本は読んだことないかな」
「あの日、突然に君と離れ離れになってしまった。君を守ってやれなくて、本当に申し訳なかった」
「フェリクスでん、か……それは、違います。あの時はダンシェルドの兵がセイデリアを……っ!」
エステルの瞳に再び涙が込み上がる。
「エステル、違うんだ。国と国の問題はもう解決したし、お互いに前向きに関係を築いていけばいいこと。俺が言っているのは、君に不安な思いをさせてしまって、その後4年間も何もできなかったことだ」
「でも、それもお互いの国が森に呪いをかけて行き来をできないようにしたからです。呪いのかかった森に入ることは危険ですから、殿下が森に入ることなど許されなかったはずです。分かっています……」
「この4年間、1日たりとも君のことを忘れたことはない。12歳の君の姿を思い出しては、また会いたいと願っていた」
「殿下……ありがとうございます」
エステルは化粧が落ちると人が変わるのかな。
今、俺の隣に座って涙をこらえている彼女は、紛れもなく俺の好きだったエステルだ。
「もう一つ話があるんだけど……エステルがさっきみたいに化粧をしたり強がった態度をしていたのは、なぜなのか聞いてもいいかな? 実はちょっと驚いてしまってね。本当は再会した時にこうして普通に話をしたかったんだけど、驚きが大きすぎたというかなんというか…」
「殿下……」
しまった! 混乱と動揺を隠すために喋りすぎだぞ俺!
「殿下、驚かせて申し訳ありません。私もきちんとお話します」
エステルはもう一度涙を拭いて、俺の方をしっかりと見る。
エステルと俺が離れ離れになったあの日、イルバートに馬に乗せられたエステルはそのまま何日もかけてダンシェルドまで連れ戻された。着の身着のまま、何の準備もないままの帰国はとても過酷で、ダンシェルドに到着した頃には倒れる寸前だったらしい。
何日も寝込んでいる間に、ダンシェルドはセイデリアとの国交を断絶。森には呪いがかけられ、屈強な騎士でもない限り無事に森を通過することはできない状態になった。
俺との婚約は解消だと一方的に告げられた。
「でも、私もフェリクス様のことを忘れたことはありませんでした……!」
俺の腕を両手でつかみ、懸命に自分の気持ちを伝えてくれるエステル。ごめん、そこさっきつねられたところだから結構痛いんだ。
ダンシェルドで新しい婚約者を探そうと、エステルは社交界デビューをさせられる。ここはイルバートからも聞いて話だ。王女と縁戚関係になりたいと野心を持った貴族たちに次々に声をかけられ、つきまとわれ、エステルは疲れ切った。
自暴自棄になりかけていた頃、再びセイデリアと国交を結ぼうという話が降ってきた。また俺に会えるかもしれないと希望を持っていたのに、国交正常化の手続きや森の呪いを解くのにかなりの時間がかかり、その間もエステルには沢山の縁談が舞い込んだ。
「でも私はフェリクス様以外の方との結婚なんて考えられなくて……それならいっそ、みんなに嫌われるような悪役になればいいんじゃないかと思ったのです」
「……悪役?」
「はい。悪役令嬢ってご存知ですか? 善良な普通の令嬢をイジメたりして楽しむ趣味を持った令嬢のことです。本で読んで知ったんです」
「悪役令嬢か……俺はそういう本は読んだことないかな」
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