貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第三章

帰宅

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「行こうか」

 二日して、リルは重い腰を上げてサイの山を目指すことにした。いつもは無造作ヘアだが、今日ばかりはしっかり一つにまとめて結っている。服も襟元が伸びていないものにした。

 はっきり言って、身なりにこだわりはない。最低限の清潔さを保っていれば、誰かによく見られようとも思わない。さすがに毎日風呂には入っている。

 顔まわりがすっきりすると、もともとの綺麗な顔立ちが露になった。特に、空を思わせる大きな瞳が印象的だ。

「ええと、あっちの方だよね」

 あの日は大慌てだったため、家に魔法陣を描かずに出てしまった。よって、移動魔法が使えず、記憶を頼りにサイの山を目指す。数か月振りだというのに、もう何年も帰っていない気がする。

 三十分もせず、無事もとの山にたどり着いた。鏡を取り出し、髪型を整える。チョコも懐かしいのか、周りの草の匂いを嗅いでいた。

「師匠、怒ってるかな」

 いきなり飛び出して連絡もよこさない弟子なので、彼女が怒るのは当然である。彼女は悪くない。親戚でもない子どもを拾って育ててくれた。魔法の才能があると分かると自身の知識を惜しみなく与えてくれた。

 王宮魔法士だって、並大抵な魔法士ではなれないのはリルでも分かる。後々生活に困らないよう、安定した場所に就職させたかったのだろう。それだけリルのことを大切に想ってくれていた。

 サイの家の前に建つ。しばらくドアをノックできずにいると、勝手にドアが開いた。

「久しぶりじゃないか」

 リルがいるのが分かっていたのか、サイが優しい顔で出迎える。

「ただいま戻りました。師匠」
「おかえり。中へ入りな。チョコもね」
「はい」

 まるで初対面の相手のように、サイから距離を取って部屋に入る。中はリルがいた頃と何一つ変わらなかった。リルが使っていたカップに紅茶が注がれる。

「どうぞ」
「すみません。いきなり訪ねてしまったのに」
「いいんだ。ここはリルの家でもあるからね」

 リルが肩を縮こまらせながらカップを見つめる。

「わざわざ来るということは、何か言いに来たんだろう」

 いきなり核心を突かれて体が揺れる。思わずチョコを見ると、チョコもこちらを見ていた。リルは観念した。

「そうです。実は今住んでいるところにルッツ様がいらっしゃって、師匠が王宮魔法士の推薦状を提出したと伺いました」

「ああ、そうだね」

「でも、私、やっぱり王宮魔法士にはなりたくないです。めんど、いや、自由気ままに生きていたくて」

「今面倒って言ったね」

 本音が出たところで、サイが豪快に笑いだした。

「あっはっは。まったく、リルには負ける。推薦状は無しにしてもらうから、安心していいよ」

「本当ですか!」

 あっさりした答えにリルが立ち上がる。サイは窓を見て続けた。

「私はね、リルに魔法士をしてもらいたいんじゃないんだ。この先も笑っていてほしいだけ。だから、気に入らない場所に押し込もうなんて思っちゃいないよ。好きだと思う場所で生きておくれ」

「──有難う御座います」

 深々頭を下げる。サイはリルの気の済むまで声をかけなかった。
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