貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

文字の大きさ
50 / 89
第三章

カル島クエスト

しおりを挟む
「これは随分小さな……近付けると袋が吸い込むのですね」

 最近開発したビー玉サイズの魔法袋だ。これならいくら入れてもポケットに仕舞っておける。

「はい。重くもならなくて便利なんです」
「なるほど。失礼ですが、こちらはどこでお買い求めになられましたか?」
「私が作りました」
「え!」

 店主が驚いたところで話しすぎたことに気が付く。

「では、連れを待たせているので。有難う御座いました」
「有難う御座います……またのお越しを……」

 次の話題になる前にさっさと店を出る。外でおとなしく待っていたチョコが尻尾を振ってすり寄ってきた。

「ごめん。待たせちゃったね」
「ワン」

 鳴き声がいつもと違って微笑ましくなる。いつものチョコが一番だが、変化したチョコもまた愛らしい。親ではないのに親になった気分だ。前世は子どもがいなかった。というか、結婚はおろか恋人もいなかった。実に寂しい、と言えばそうだが、そういうことにあまり興味がなかったという方が正しいかもしれない。

 今だって同じだ。前世の疲れが癒されるまで、のんびりと過ごしたい。できれば、毎日大地に寝転んで空を眺めていたい。雲の形がソフトクリームに似ているだとか考えながら一日を終えたい。

 ずいぶん贅沢な望みだと思う。人間は誰かの力を借りたり、働いたりして何かの一部にならなければならない時がある。その歯車から外れるのは並大抵のことではないのだ。

「それができているのも魔法のおかげ。開発は結構楽しいから、それだけは続けていこう」

 このまま続けていくと、どこまで開発できるだろうか。今のところ不便だと思ったことを順に潰していっているので、それが無くなった時はどうしようか。

「ん? なんだろう」

 王都の奥、王宮の方角がざわざわと騒がしくなった。まさかルッツだろうかと顔を向けると、王宮軍が数名歩いていた。甲冑は着ているものの物々しい雰囲気ではないので、パトロールの一種だろうか。

 戦いの際王宮軍を見たが、あの時は人数が多すぎてどのような人物がいるのか全く分からなかった。隊長の顔すら覚えていない。そのため、今歩いている王宮軍の面々が重要人物なのか判断がつかず、なるべく距離を取ってこちらの姿は見えないようにした。

 王宮軍たちが王都の入り口である門の方へ歩いていく。このまま王都を出るのだろうか。リルはその中にどことなく見覚えのある顔を見つけた。

「誰だっけ……まあいいや。関わりにはならないだろうし」

 また戻ってきて巻き込まれたら大変なので、近くにあったギルドに入る。ここなら冒険者だらけなので長居しても目立たない。

 受付には前回いた女性が立っていた。冒険者が何人かいてクエスト一覧を見ている。リルもそれらをぼーっと眺めた。幸い、ミリィはいなかった。

「あれ」

 クエストの中に島にいる魔物の退治というものを発見した。島の形を見る限り、どうにもリルが別荘を作ったところに似ている。他の人の邪魔にならないよう、テーブルに地図を置き、島の部分だけ広げて見比べる。

──あそこカル島って言うんだ……クエストにもカル島って書いてある。知らない間にクエスト達成していたみたい。

 すると、魔法袋に入れっぱなしだった石がクエスト達成の証拠になるだろうか。身分証明書も無い状態で不安だが、このクエストが掲載されたままだと冒険者があの島に入ってしまう。ついでにあの島に持ち主がいるのか確認するべく、リルは受付に向かった。

「すみません。このクエスト完了しているのですが、確認していただけますか?」
「はい、こちらを……お一人でですか?」
「はい。これが魔物から出てきた石です」
「これが……! あの、鑑定いたしますので、奥の部屋でお待ちいただけますでしょうか?」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...