貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

文字の大きさ
67 / 89
第四章

しおりを挟む
 二人を見送り、部屋に入る。報酬袋は棚の引き出しに入れた。特に使う予定もないので、とりあえず仕舞っておく。

「まあ、なるようにしかならないか。偶然を恐れていたら、何もできないもんね。偶然の積み重ねが人生だ。明日からものんびり暮らしていこ」

 不安が無くなったわけではないが、リルももう一人では生きられない子どもではない。現在、一人で自給自足ができている。もしもこの山に自然災害などが起きて野菜や果物が食べられなくなったとしても、また穴を使って種や苗から畑を作り直せばいい。

「そういえば、穴ってこっちがもらうばかりだったけど、向こうに送ることもできるんだよね」

 最近使っていない穴について考え出したら気になってきた。それなら実行してみればいい。

 穴を出現させて覗いてみる。元自宅近くに設置されているので、見慣れた風景が広がった。チョコも慣れた様子で穴から一歩離れて眺める。

「良い景色だね。紅葉だ」

 この世界は日本より四季の移り変わりがはっきりしないため、この穴から広がる絵画はいつも新鮮で胸を打つ。

「葉っぱ、一枚頂きます」

 赤く染まった紅葉の葉を一枚引き抜く。

「栞にしよう」

 大事に本の隙間に挟む。それからリルは部屋を見渡して悩んだ。

「人工物はダメだから、どうしよう」

 送ることにしたはいいものの、何にするか決めていなかった。庭に出て草や木を見て回る。

「あ、これにしよう」

 山に来た頃庭に植えた花だ。相変わらず名前は分からない。パンジーに似ている何か。これならあちらの世界でも目立たないだろう。

花を一輪複製して穴に投げ入れる。花は穴からあちらの世界に行き、ぽとりと地面に落ちた。元実家のすぐそばなので、元父親が見つけてくれたらいい。

「雨が降らなければ毎日散歩しているって言ってたから、どうかな」

 穴を開いたまま本を読みつつ床でゴロゴロしていたら、奥から一人の男性が歩いてきた。穴を草むらに隠して覗く。予想通り元父親だった。

「お父さんだ」

 記憶よりゆっくり歩く彼は落ちている花に気が付き、しばらく見つめた後拾い上げた。それを右手に持ち、もと来た道を戻っていく。おそらく、花を家に持ち帰るのだろう。

「ありがとう、見つけてくれて。それが、私が今生きている証拠だよ」

 聞こえなくても、姿が見えなくてもいい。ただ、娘は元気にしているのだと、形にして彼に教えたかった。きっとどのような花で、何故落ちていたのかは分からない。それでもリルは満足だった。

「あー、よかった。お父さんも栞とかドライフラワーとかにして取っておいてくれるといいなぁ。さすがにドライフラワーの作り方は知らないか」

 穴を閉じて、昨日から持っていっていた魔法袋の中身を整理する。リルが綿に似た植物を取り出した。

「これ、調べてみよう」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...