貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

文字の大きさ
75 / 89
第四章

兄妹の再会

しおりを挟む
 今設置している感知器は兄用のもののみ。つまりこれが鳴ったということは、兄が王都にいるということだ。

 せっかくカル島の散策を終え、魔法石を作って、今日は余裕のある過ごし方ができていたのに。最後の最後にこれが来てしまった。

 できることなら聞かなかったことにしたい。しかし、これを決めたのは自分だ。ここで行かなくても、いつかは解決しなければならない問題である。

「まあ、今から行って会えるかどうか分からないし、行くだけ行ってみよう」

 今回だけはチョコを連れて行かない方がいいだろう。そう説明すると、チョコがリルの手に顔をすり寄らせた。

「うッ……可愛すぎる」

 きっとチョコなりにリルのことを心配しているのだ。迷った結果、チョコを手のひらサイズにまで小さくさせて、鞄の中に隠れてもらうことにした。これなら魔物を連れていることを悟られない。

「小さくなぁれ」

 適当な呪文を唱えてチョコを小さくさせてみれば、さらに可愛い生き物が誕生してしまい、リルはその場で悶え苦しんだ。

「うう……可愛すぎてつらい……」

 その様子の理由が理解できないチョコが心配してリルの手の甲を舐める。リルは呼吸困難に陥った。これ以上見ていたら本気で倒れそうなので、早々に鞄に入ってもらった。

「ごめん、心配かけて。チョコが可愛くて嬉しくなっちゃっただけだから」

「キャウ」

 鞄の中から普段より高い声が返ってきた。それに息をのみつつ、大きく深呼吸を二回してから家を出る。

 山の麓までは空を飛び、そこから変化魔法で男性になって歩き出す。兄を追っている感知器を瞳と連動させ、王都の様子を窺った。

「やっぱり部下の人といる」

 今の姿なら近くまで行ってもバレることはない。速まる心臓を落ち着かせながら王都へ入った。

 感知器によると、カラットは王宮近くをパトロールしているようだった。リルもそちらへゆっくり向かう。

──いた。

 不幸中の幸いとでも言うべきか、彼は部下一人だけ連れていた。あとは二人が別れるのを待つだけだ。部下はカラットに話しかけず、一歩後ろを歩いている。カラットは後ろを向くことなくただただ無言で歩いていた。

「部下にもあんな感じなんだ」

 カラットの無関心そうな無表情は家族だけではなく、全ての人間に向けられていると理解し、リルは部下に同情した。

 しばらく後を付けていると、部下がカラットの横に走り、お辞儀をして去っていった。パトロールの時間が終わったのか分からないが、今がチャンスだ。リルが小走りでカラットを追いかけ、小声で話しかけた。

「あの、失礼ですが、リル・ノーバーのお兄様でいらっしゃいますか?」

 カラットが立ち止まり、リルの方を勢いよく振り向く。そこに何の感情が乗っているのか、リルには分からない。

「……誰だ」
「ここでは目立ちますから、あちらにいらしてください」

 細道を指差す。無視されるかと思ったが、リルが歩き出すとカラットは意外にも素直についてきた。

 細道に入ったところで、リルが意を決して変化を解く。カラットの瞳が限界にまで見開かれた。リルは、そんな彼の姿に驚きを隠せないでいた。

 なんというか、クマがすごい。

「……リルッ」

 絞り出された声は今にも消えて無くなりそうな弱さだった。

「リル……ッ!」

──え、泣いた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...