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番外編
元父 完
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「やあ、朝からご苦労様です」
「どうも」
畑仕事をしていると、近所の男性が近づき声をかけた。
「定年を迎えた一人暮らしはこういうことがないとつまらないですから」
妻は十年前に病気で亡くなり、一人娘も数年前に過労で倒れてそのまま天国へ行ってしまった。定年後の独り身は寂しいものであったが、畑を耕している時は何も考えなくて済む。
「そういえば」
つい先日、庭の近くで珍しい花を拾ったことを思い出す。一段落したところでそちらへ向かったが、特に何も落ちていなかった。近所の人が言うには図鑑にも載っていない花らしく、花瓶に生けてみたところ特に何もせずとも枯れる気配はない。落ちていたものだがなんだか捨てるのが忍びなく、枯れる前に押し花にでもしようかと考えていたが、それはまだ先になりそうだ。
──また落ちていたりしないだろうか。
落ちていたらなんだってことはない。何かが変わるわけでもないし、それが何の花なのかも分からない。しかし、ふとそんなことを思った。
「一人だと余計なことを考えがちだな」
二人が生きていたとしても、娘はきっと実家に帰るのは年に一度だっただろう。妻とも仲良く会話して過ごしているかは怪しいところだ。しかし、今より穴は小さいに違いない。
「おや」
花は落ちておらず、色づいた葉がいくつか散らばっていた。その一枚を拾い上げる。
「もうそんな季節か」
長袖一枚ではすでに肌寒い。まだ木に残っている葉は多いが、あと一か月もすればまた違う景色となるだろう。
「帰ったらコタツを出そう」
本格的に寒くなってきたら、家の中でもコタツを準備する元気が無くなってしまう。そんな年になったのかとこんなところで自覚する。
「犬でも飼おうか。しかし、年寄りより長生きする生き物じゃ残された時可哀想だ。何か暇つぶしになるような、面白いものでもあればいいが」
辺りを見回しながら家に向かう。ここには五十年住んでおり、真新しいものは無い。しかし、そのどれもが妻や娘と過ごした思い出を思い起こさせる。
「ん?」
畑の傍で何かが動いた気がした。たぬきあたりだろうか。老眼鏡をかけ直してみるがよく見えない。そっと近づいて観察することにした。
──野生の動物ではなさそうだぞ。
どうやらそれは地面から少しだけ宙に浮いているようだった。そして丸い形をしている。そうなると鳥でもない。不思議だ。もっと近づくと、それは徐々に明らかになった。
「穴……?」
なんと表現したらいいのか分からないが、何やら穴のようなものが宙にあり、その向こうに少女と狼と、後ろに水色の何かが畑を覗いていた。
「はは、寝不足かな」
どうにも現実とは言い難い光景に、己の頭を心配してしまう。すると、少女がこちらを向いた。
「あ」
それだけ声を発した少女が慌てた様子で立ち上がり、そして穴は消えた。
「何も無い……今のはなんだったんだ」
穴があったところを触ってみるが、風を切るのみだった。まさか、自宅の敷地内で摩訶不思議なことが起きるとは夢にも思わなかった。
「このようなことに出会えるなんて、長生きするものだなぁ。また会ってみたいものだ」
男性は穏やかな笑みをたたえながら家に入っていった。
了
これにて番外編も完結とさせていただきます。ありがとうございました。
「どうも」
畑仕事をしていると、近所の男性が近づき声をかけた。
「定年を迎えた一人暮らしはこういうことがないとつまらないですから」
妻は十年前に病気で亡くなり、一人娘も数年前に過労で倒れてそのまま天国へ行ってしまった。定年後の独り身は寂しいものであったが、畑を耕している時は何も考えなくて済む。
「そういえば」
つい先日、庭の近くで珍しい花を拾ったことを思い出す。一段落したところでそちらへ向かったが、特に何も落ちていなかった。近所の人が言うには図鑑にも載っていない花らしく、花瓶に生けてみたところ特に何もせずとも枯れる気配はない。落ちていたものだがなんだか捨てるのが忍びなく、枯れる前に押し花にでもしようかと考えていたが、それはまだ先になりそうだ。
──また落ちていたりしないだろうか。
落ちていたらなんだってことはない。何かが変わるわけでもないし、それが何の花なのかも分からない。しかし、ふとそんなことを思った。
「一人だと余計なことを考えがちだな」
二人が生きていたとしても、娘はきっと実家に帰るのは年に一度だっただろう。妻とも仲良く会話して過ごしているかは怪しいところだ。しかし、今より穴は小さいに違いない。
「おや」
花は落ちておらず、色づいた葉がいくつか散らばっていた。その一枚を拾い上げる。
「もうそんな季節か」
長袖一枚ではすでに肌寒い。まだ木に残っている葉は多いが、あと一か月もすればまた違う景色となるだろう。
「帰ったらコタツを出そう」
本格的に寒くなってきたら、家の中でもコタツを準備する元気が無くなってしまう。そんな年になったのかとこんなところで自覚する。
「犬でも飼おうか。しかし、年寄りより長生きする生き物じゃ残された時可哀想だ。何か暇つぶしになるような、面白いものでもあればいいが」
辺りを見回しながら家に向かう。ここには五十年住んでおり、真新しいものは無い。しかし、そのどれもが妻や娘と過ごした思い出を思い起こさせる。
「ん?」
畑の傍で何かが動いた気がした。たぬきあたりだろうか。老眼鏡をかけ直してみるがよく見えない。そっと近づいて観察することにした。
──野生の動物ではなさそうだぞ。
どうやらそれは地面から少しだけ宙に浮いているようだった。そして丸い形をしている。そうなると鳥でもない。不思議だ。もっと近づくと、それは徐々に明らかになった。
「穴……?」
なんと表現したらいいのか分からないが、何やら穴のようなものが宙にあり、その向こうに少女と狼と、後ろに水色の何かが畑を覗いていた。
「はは、寝不足かな」
どうにも現実とは言い難い光景に、己の頭を心配してしまう。すると、少女がこちらを向いた。
「あ」
それだけ声を発した少女が慌てた様子で立ち上がり、そして穴は消えた。
「何も無い……今のはなんだったんだ」
穴があったところを触ってみるが、風を切るのみだった。まさか、自宅の敷地内で摩訶不思議なことが起きるとは夢にも思わなかった。
「このようなことに出会えるなんて、長生きするものだなぁ。また会ってみたいものだ」
男性は穏やかな笑みをたたえながら家に入っていった。
了
これにて番外編も完結とさせていただきます。ありがとうございました。
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