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しおりを挟む「すまんが、会話聞いてた。」
「え、、か、会話、、」
「お前と奏多の会話だ。」
まずい、聞かれてたのか。
荒木先生は奏多くんのこと子供のように思ってる。
普段の真剣な医者の目とはまた違う鋭い視線に背中が冷えていくのを感じる。
飲みに誘ったのは奏多くんのことか。
「まぁ、ぶっ飛ばしてやりたいって気持ちが8割だな。あいつは自分の子どもだと思えるくらい大事なやつだし、それを10近くも年の離れた奴に取られそうになってんだから。」
「・・・はい。」
「・・・残りの2割は、お前なら奏多のこと少しは救ってやれるんじゃねえかっていう期待だな。」
「救う?主治医の荒木先生が救えなくて僕が救えるなんて」
世界でも名を馳せてる荒木先生が救えなくて俺が救える病気じゃねえぞ。
そう思った俺の考えを読んだのかわかりやすくため息を吐かれる。
「病気の話じゃねえよ。病気は俺が人生かけて治す。絶対にだ。おめぇに救って欲しいのはあいつの心だよ。」
「こころ、、、。」
「気づいてんだろ?あいつの異常さに。」
「・・・そうですね。余命を伝えられてあんなに冷静というか、少しホッとしたような表情をしたのが気になりました。」
そう、あのほっとした表情を見て、やるせなくなって、モヤモヤして、なんだか悲しくて勢いで告白してしまったんだ。
「あいつの過去は俺からは話せねえが俺にはできなかったあいつの心を動かすってのはお前にならできる気がしてな。奏多が自分の気持ちを言ったのなんて本当に久しぶりなんだ。お前が好きって言ったその一言に、俺は、、、嬉しくなった。自分の気持ちも、意見も、やりたいことも欲しいものも何も言わなくなっちまったから。」
「荒木先生は、奏多くんが入院した時から見てるんですよね?入院初期は今とは違う感じだったってことですか?」
「あいつは院長の息子だし、院長は俺の大学時代の同期だ。だからあいつが生まれた時から知ってる。昔は、ニコニコしてどっちかっていうとちょっとわがままなくらいの子だったんだけどな。」
荒木先生は、懐かしそうに、いや、少し悲しそうにそう言った。
「俺、振られちゃいましたけど、諦めるつもりないです。奏多くんも俺のこと好きって言ってくれたし。あの子と生きていきたいから。」
「なんか複雑だよ俺は。でもお前なら、あいつに生きたいって思わせられるのかもしれねえな。お前だろ?あの音楽雑誌買ったの。」
「え、、なんでそれ」
荒木先生には秘密にしてくれって言われてたはず。そう言った本人が言うとは思えないんだけども。
「あいつのこと何年みてると思ってんだよ。奏多がモノ隠す場所なんて決まってんだよ。・・・そうか、お前には言えたか。」
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