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夜勤の日のことだった。またナースコールを押さないと困るから奏多くんの病室に見回りに行った。

すると、奏多君の病室に誰かがいることがわかった。中から声が聞こえたからだ。

耳を澄ましてみると、

「奏多、ごめんな。辛いよな、苦しいよな。代わってやれなくてごめんな。あの時お前に声をかけられなかったこともごめんな。私の顔なんて見たくないよな?お前から逃げた私のことなんて。学校にも行けなくて、大好きだったバイオリンも辞めてしまって。本当にごめんな。」

泣きながらそう言っている理事長だった。

そのことを奏多君に告げると、彼は静かに涙を流していた。

「すまない、奏多、すまない。お前にそんな思いをさせて、父親失格だな。病室に入った時、あんなにニコニコしていたお前が人形のように無表情なのを見て自分のしてしまったことの重大さを痛感した。お前の気持ち全然分かってなかった。お前を寮に入れたのはお母さんがお前にキツく当たるんじゃないかと思って、お前を守りたくてっ、、でも、間違いだった。私が奏多のことを守ってやればよかったんだよな。遊星のことは事故なんだ。まだ小さかったお前にちゃんと説明もしてなかった。お前は一生懸命遊星の面倒を見てくれた、ありがとうな。遊星が苦しむの見てお前も苦しかったよな。ごめ、奏多、、ごめんな。私のエゴなのかもしれない、奏多の気持ちを無視してるのかもしれないけど、頼むっ、、生きてくれ。私の愛する息子を、奏多を、、助けてくれ。」

奏多君はずっと、ずっと泣き続けていた。こんなにも感情が表に出ている奏多君を初めて見た。

「っ、、遊星のこと、大好きでっ、なのに、遊星が死んじゃって、っ、お父さんともお母さんともっ、会わない日が続いてっ、僕、ずっと死にたくて、でも、いつもいつも家族4人の夢を見てっ、もう一回、あの日々を過ごしたいって、っっ、、おとうさん、僕っ、生きたい、、」

奏多君がそう言った途端、理事長は奏多君のことを思いっきり抱きしめていた。

「ありがとう、手術頑張ろう、私がずっとそばにいるから。もう遅いかもしれないけれど、また私と家族をやり直そう。」

うん、うんと頷きながらも奏多君の手はしっかりと父親の背中を掴んでいた。
父親の腕の中で泣き続ける青年は少年のようで、誰がどう見たって素敵な家族の姿だなと思った。

「では、移植手術の手続きを進めましょう。」

そう言ってすぐに荒木先生へ連絡すると、荒木先生はすぐに返事をして手術の日程を決めると言った。電話越しに聞こえた鼻を啜る音は聞かないふりをした。
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