月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原

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旅の終わりと自覚した気持ち

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水の深さが足首程度の浅瀬までたどり着くとすぐに彼女の足の状態を確認する。
さっき切ったと思われる傷から血が滲んでいて、海水に浸かるとかなり痛そうだ。
「結構血が滲んでいるけど大丈夫?」
「見た目程痛くないから平気だよ」
話している間にも傷口から血が滴っている。
彼女は平気と言っているけど、手当をしないで歩くのは止めるべきだろう。
「やっぱり大丈夫じゃなさそうだけど僕が背中に背負うか?」
「私重いから自分で歩くよ、それに元々血が止まりにくい体質だからそんなに心配しなくても大丈夫」と僕の提案は、即座に断られた。
どうやら彼女は、一度言い出したらなかなか頑固だった。
「それなら、砂浜から手当するまで背負うよ」
「心配無いって、篁君に迷惑掛けられないし」
「それなら、余計に君がここで無理をして歩けなくなったらもっと大変だよ」
「わかった。なら砂浜から手当するまでお願い出来る?」
「うん」
僕は彼女を背負う為に、一度体勢を低くする。
「重かったらごめんね」そう言った彼女が僕の肩に手を回して、僕の背中に乗る。
途端に、重さでよろけそうになるのを必死に堪えて立ち上がる。
転ばないように、ゆっくりと歩きながら、海に入る前に置いておいた荷物を確認する。
幸い人も居なかったので、荷物は砂の上に置いてあった。
二人分の荷物と彼女のミュールを回収して、手当が出来る場所を探す。
辺りを見回しても手当が出来そうな場所が見つからず、最初にフェリーのチケットを買った場所に戻ってきた。
待合室の椅子に彼女を降ろして、売店で水とウェットティッシュと絆創膏を購入する。
待合室の外に出てから傷口を水で洗い、海水を落とした後にウェットティッシュで拭いて消毒をしてから絆創膏を貼る。
恐らく応急処置としては、これで大丈夫だろう。
「篁君ここまで背負ってくれてありがとう。私重いのに荷物もあったし怪我の手当まで色々ごめんね。」
「どういたしまして、姫柊さん軽いから全然大丈夫だよ、手当の方も気にしないで」
そんなやり取りをしている間に、乗船予定のフェリーの乗船開始のアナウンスが流れる。
「私達もそろそろ行こうか」
「うん」
フェリーの中は、思ったより人が居なくて空いている。
「せっかくだから展望デッキの方に行ってみない?」
「良いけど、足の方は大丈夫なの?」
「心配し過ぎだって、手当もしたし全然平気だよ」
そう言った彼女は、僕の手を握って歩き出す。
その後ろ姿は、顔を見なくてもわかるくらい、楽しそうに弾んでいた。
展望デッキに上がると、海の上にある鳥居が一望出来た。
フェリーが出港し、振動と共に少しずつ建物が小さくなっていく。
「色々あったよね」感慨深げに、彼女が呟く。
その言葉に僕もしみじみと同意する。
一言では表せないくらい色々あった。
アクシデントから始まった小旅行は、泣いたり笑ったりとても充実した二日間だった。
「色々あったけど楽しかった」
「そうだね」
僕の言葉に、彼女も頷いて、どちらともなく笑い出した。
十分程度の短い船旅が終わり、船着場に到着する。
展望デッキから降りる時に彼女と手を繋ぎっぱなしだった事に気付いて、慌てて手を離した。
そんな僕を笑いながら彼女が手を差し出して来た。
「恥ずかしがらなくても別に繋いだままでも良いじゃない? 旅の恥はかき捨てだよ」
「そういうものなの?」
「そういうものだよ、別に誰も見てないし岡山に着くまでは繋いだままでも良いよ」
そう言って今度は、僕の方から彼女と手を繋いだ。
船着場から少し歩いて、行きと同じように広島駅に向かう。
新幹線に乗ると朝が早かったせいか、瞼が重い。
隣を見ると、既に彼女が寝息を立てて眠っている。
これで自分まで眠ると乗り過ごしてしまいそうだ。
手を繋いだまま空いている方の手で、スマホを操作して適当に時間を潰す。
岡山駅に到着すると同時にアナウンスが流れた。新幹線が止まっても、隣で眠る彼女に声を掛けても起きる気配がない。
仕方なく揺すって起こしているとようやく目を覚ました。
「おはよ、目が覚めた?」
「おはよう、今どこ?」
「岡山駅だけど」
そう言って荷物とお土産を持って、まだ寝ぼけ気味で足取りの怪しい彼女の手を引いて新幹線を降りた。
改札口に到着する頃には、足取りもしっかりしてきたので、名残惜しく思いつつ繋いでいた手を離す。
「姫柊さん、二日間ありがとう。また学校で」
「こちらこそありがとう。また何処か遊びに行こうね」
岡山駅で彼女と別れた後は、そのまま家に帰った。
鍵を開けて中に入ると、ほんの二日程度留守にしていただけで随分と新鮮に感じる。
荷物を片付けてから、ベッドで横になるとすぐに眠ってしまった。
目を覚ますと、辺りが暗くなっている。
随分と長く眠ってしまったらしい。
誰か家に帰って来ているのだろう。一階の方に明かりが灯っている。
空腹を感じて、夕食を食べる為に、リビングに行くと母親が夕飯の支度をしていた。
その光景を見て、家に帰って来た事を実感する。
夕食の後にお風呂を済ませて、自室でスマホを確認すると、沢山の写真が送られてアルバムにまとめられていた。
僕の方で旅行中に撮っていた写真もアルバムの方にまとめて送信する。
このアルバムが作られてから、まだ数ヶ月しか経ってないのに沢山の写真があった。
アルバムの中の一番新しいファイルを開く。
その中には、今回の旅行の写真が並んでいる。
それを見ながら、鞄に入れていたドリンクを飲む。
レモネードは、甘くて、酸っぱくて、何だか甘みが強い気がした。
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