幸福からくる世界

林 業

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パーティーは賑やかに

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ルーンティルとサジタリスの最初の子はティルフォン、ヴェルタという。
彼は魔術師として隣国で活躍し、今はあらゆる魔術師の卵の教育を行っている。
ティルフォンは結婚する直前まで二人の血縁であると、つまりは親子関係があると信じていた。
何故なら他の兄弟と違い、二人の名前や名字を持っていたからである。
他の兄弟もそうだと信じていた。
誰もそのことについて疑うことはなかった。
とはいえ、ルーンティルが連れてくる子供達、後の兄妹たちは可愛いので親だからと威張ったりはしていなかった。
またルーンティルやサジタリスはお互い、もしくは誰かが養子だと言っているだろうと思っていたために誤解が晴れるのは遅かった。

隣国へ行き、付き合っていた相手の女性を紹介したとき初めて養子だと知った。
一時期何故教えてくれなかったのかと咎め、交流を辞めていた。
兄妹のお節介のおかげで上記の理由を知り、誤解や行き違いがあったことを知った。
妻となった女性と改めて、理由を聞いた。
ルーンティルとサジタリスが当時大陸を巡っていた頃に、戦争を起こしていた国があったという。

そこで亡くなっている母親らしき女性と、大事そうに抱えている赤ん坊を拾った。
女性はその場で埋葬。
その国では赤ん坊を預かってくれる孤児院はなく、じゃあ、引き取ろうかと一緒に諸国を巡ったという。
名前もルーンティルと、サジタリスの名を一部与えた。
そして彼が物心付く前にこの国に定着して、家を借りたという。

「じゃあ、百歳超えてるってことですか?」
「うん。もう一つ、二人の血を引いていると思っていた理由がさ、周りの子供より成長が遅くて、だから年を取らない二人血縁だと」
確かに百歳を超えているにしては、他の子どもたちより若々しい、五十代ぐらいだろうか。
「師父と先生って男性同士じゃないか」
子供の誰かが告げる。
「だって師父だしね。なんかあっという間に同性でも子供を作れそうな道具を作りそうじゃないか。仮に違ってもどっちかの血は入っていると思っていたよ」
兄弟の誰も否定しない。
どれだけ、人外と思われているのだろうかとサジタリスとルーンティルは苦笑する。
「そういえば、師父たちとティル兄上って、どうして年を取らないんですか?」
安楽椅子でくつろぐルーンティルとその隣でお菓子を摘んでいるサジタリス。
「取らないというより僕とサジは魔王種と呼ばれる種族のハーフだからね。人種族より長く生きられるよ。ティルフォンもそうじゃないかな」
「魔王種?」
「魔王と呼ばれる王様の臣下だよ。別大陸にいる亜人種と思ってくれていい。僕の場合は精霊を成り立ちとする世界樹の守護を任されたハイエルフと人族の間の子、ハーフエルフ」
「俺は、吸血鬼と、巨人族のハーフだ」
サジタリスが甘い物を噛りながら告げる。
「ちなみに僕の親もサジの親も駆け落ちしてる。けどサジの親の場合は魔王の王弟だったのもあって、別種族との結婚を反対されてた。ってのがある」
「つまり先生は王族の血縁!」
「俺も初耳」
驚いたように見つめてくるサジタリウス。
先生が知らんのかい。と突っ込まれている。
「サジの場合は言う前に親死んじゃったからね。僕はそれとなく聞かされてたぐらいだし」
「あぁ。そういえば」
なら、しょうがないなと頷く。
先生が強い理由わかったと誰かがぼやく。
「ティルフォンの場合は、多分僕と同じハーフエルフか、もしくは、ハーフエルフとの間の子かもね。あっちじゃあハーフってあんま人権ないし逃げてきたんじゃない?少々寿命伸びるとは聞いてたから」
「へぇ」
「先生。血が欲しくなることあるの?」
「巨人族の血のほうが強いから主食じゃなくて、あくまでも時々おやつ感覚でルーのをもらってる。ルーが一番美味しい」
巨人としての成長は魔導具で止めてあると告げる。
人種族の間で暮らすならば見た目が大きくなっても過ごしづらい。
当然成長期を過ぎれば大きくなることはない。
それを本人は望んではいない。
ルーンティルもサジタリスも人種族で言えば丁度ニ、三十代ほどである。
「今までよく気づかれなかったと思うんだけど」
呑気に告げるティルフォン。
「ティール。見た目は人だからな。気にするほどのことでもない。大体人前で血を吸うとか、勿体無いだろ。ルーを独り占めしたいじゃないか」
「だから一時期師父、貧血気味だったのか」
心当たりがあるのか全員が納得している。
「大体、皆、まぁ、僕らだし。ぐらいの感覚でしょ。っていうか百年も住んでるんだから今更だしね」
「ちなみに平均寿命って」
「うーん。昔の話だけど、約百年からニ百年ぐらいかな。ティルフォンの場合。僕は、二千とかそこらじゃない?サジは、吸血鬼が血を吸っている限り不老不死で、巨人族がニ百年そこらだから。どうなんだろうねぇ」
「兄上もだけど幅広い」
「どれだけ血が濃いかわかんないからさ。母親らしき人は人間っぽかったけど、見た目だけじゃ判断つかないんだよね。ハーフエルフって。実際生きてみなきゃ寿命なんてわかんないよ」
「へぇ」

サジタリスは自分の仲間を見れば、英雄と名乗っている子供の一人と話をしている。
そのうち実践になりそうなので、真剣で遊ぶんじゃないぞ。と声をかけておく。
女性陣は料理を食べてこれ美味しいと騒いだりおしゃれだと服を誉めあったりしている。
後エーデルワイスの結婚するという報告で盛り上がっている。
巻き込まれたくないので無視。
「ちなみに僕らの名前覚えてるの何人ぐらいいる?」
ティルフォンが手を上げ、それ以外は視線を逸らしている。
ハルシオも辛うじて、である。
「じゃあ、言っておくと僕の本名はルーン、ティル、ヴェルタ。ティルはセカンドネームなんだよ。ただ登録時に色々とあって重なったんでそのままルーンティルって名乗ってる」
「俺は、サジタリス、フォン、ベイカー。ティールは俺とルーのセンカンドネームからつけてる。まぁ、それぞれに理由があるんだが、それはそっちに聞いてくれ。ルーの名字なのは俺よりルーのほうが魔導具師として名が通り始めてたからだな」
なるほどと今更ながら自身の命名方法を知る。
「別大陸とか住人でこの名前知ってる人いたら近づかないでね。多分、僕かサジの身内だけどいい関係じゃないから」
はいと全員が同意する。


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