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第一話 転生悪役令嬢は男装の騎士となる

06-6.

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「用意した部屋を確認するべきだろう?」

 メルヴィンは当然のように主張する。

「気に入らないところがあれば、直さなければならない。アデラインの意見を聞きたいんだが」

「それは話が終わった後でもよろしいのではなくて?」

「それはそうだが。……わかった。先に話を聞こう」

 メルヴィンはなにを考えているのだろうか。

 ……妙ですわね。

 アデラインにはメルヴィンが焦っているように見えた。

 焦っていることを悟られないようにしているのか。メルヴィンは部屋に備え付けてある二人掛けのソファーに腰をかけた。

「アデライン。隣に座らないのか?」

「いえ。座りますわ。話をしなければなりませんもの」

 メルヴィンの言葉にアデラインは疑問を抱かなかった。

 隣に座るのが当然のように感じていた。

 ……距離が近いのではなくて?

 仕事をしている時にも同じ思いをしたことがある。

 アデラインはメルヴィンの隣に座りながら、距離の詰め方がおかしいのではないかと疑問を抱いた。

 ……他の方とは適度な距離を保っていたはずですが。

 仕事中もなにかにつけて頭を撫でられたり、手に触れられたことがある。それはお気に入りの部下に対するコミュニケーションの一環だろうと思っていたのだが、その大前提が間違っていたのかもしれない。

 ……ディーンの忠告が正しかったのですね。

 第二騎士団に所属をしている同期、ディーン・オルコットを思う。

 王立魔法学院を卒業したのと同時に結婚をした愛妻家であるディーンには、度々、メルヴィンの言動に注意をするように口煩く言われていた。

 それを幼馴染の過保護な性格によるものだと聞き流していたことを後悔する。

「アディ・エインズワースの正体に気づいたのは、昨日ですわよね?」

「そうだ。もっと早く気づくべきだったと悔やんでいるが」

「悔やまないでくださいませ。私、気づかれないように努めておりましたので」

 アデラインの男装は完璧ではなかった。

 女性としては憧れの的になる恵まれた体型は男装に適さない。圧迫骨折をしてもおかしくはないほどに締め付け、特注のコルセットを身に付けた姿は痩せるべきだと指摘されてもおかしくはないものだった。

 顔だけは男装の麗人なのにとエリーが嘆いていたのを思い出した。
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